第11章 生贄の儀式

“助力してくれる者はだれ?”


それが、一つ目の問いかけ。



   1



人の世が夜になる頃、

氷石の魔女ノウスィンカはふたたび、

少年を呼び寄せさす。



「第一の試練を与えようぞ。


妾(わらわ)にあらがいうるほど強く、

そなたを助けうるほど賢く、


妹のほかを愛することなき、

そなたのために死ねるほど、


愚かなる者をつれ来たりて、

妾にその名を告げるがよい」



無理難題を突付けながら、

助力者を見付けよという、

意地の悪い試し方をする。



「彼女がそうです」


少年が顧みると、

下女が進み出た。



「それは出来そこないの人形、

それに付いた名などはない」


魔女が蔑みの一瞥を向けるが、

下女は主から目をそらさない。



「いいえ、あります。


彼女は、レノアです。

それが彼女の名です」


少年がきっぱりといい切る。



「よかろう、それがそなたの

協力者とみとめよう」 


魔女はそれを肯(うべな)った。



   2



下女は、服を脱ぎ裸で、少年の前に立つ。

羞恥と歪(いびつ)な体を晒(さら)す怖れにふるえながら――。


少年は白くほっそりとした肢体を美しいと思った。



傴僂(せむし)の少女、

畸形(きけい)の人形。


少年はこの不細工なはずの、

少女の人形に性を意識した。


なぜかこれまでの女性に対して、

抱いてきた嫌悪は感じなかった。



互いに裸で抱き合う。


少女の体は人形故に、交わり合えはしない。

だから、ただ抱きしめる。



ほかには、彼女の一途な献身に対し、

償(つぐな)うすべを知らなかった――。



   3



少女が眠りから覚めると、

足はわずか引き摺るだけ、


まだ動かせはしないけれど、

もう片方の腕が付いていた。



少年に名を捧げ、

魔女が認められ、


それによって得た力だった。


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