第8章 謎めく足音

ガタン、コツン…。

耳障りで奇妙な音。


何かの足音なのか。



この部屋に近づいて、

来るような気がする。


ここの前で止まった。



   1



そこははすべてが、

黒曜石である以外、


僕達が過ごした子供部屋へ、

そっくりに似せられていた。


あれからどれくらい、

時がたったんだろう。



両手で顔をおおい、

僕はすすり泣いた。



ようやく館の中に入れたし、

ノゥスィンカに会えはしたものの、


僕の心は打ちひしがれていた。



館の威容、そしてその異様さに、

なによりも、あのノゥスィンカ、

魔女そのものに打ちのめされた。



   2

 


そのとき、奇妙な足音を耳にしたのだ。



ノゥスィンカの召使いである孤独や虚無、

あの、絶望の……ような怪物だろうか。


僕は怯えて後退った。



駄目だ、あの蜘蛛だけは駄目だ。


あの淫らな笑みをたたえた美しい女の顔。

糸に囚われて体を弄ばれる忌わしい快感。


厭(いや)で厭(いや)でたまらないのに抵抗できなくて、

自分が自分でないものに変わってく感覚。


僕があの女の中で溶けてしまう。

甘ったるい厭な匂いがする。

頭が痺れてどうでもよくなる。

気持ちがよくて気持ちがよくて。



女なんて嫌いだ、

いなくなってしまえばいい。


いやらしい、穢(けが)らわしい、

気持ち悪い、吐き気がする。



妹のこと、妹のこと、

妹のことだけ考えていないと、

僕は狂ってしまう。


いや、もう正気じゃないのかもしれない。



   3



扉が叩かれる。


どうしよう、どうしよう?

ああ、どうしようもない。



   4



ガシガシと扉が、

ノックじゃなくて、

蹴りつけられる。



「ご、ごしょうでございます~ぅ。

どうかあけてくださいまし~。


て、手がふさがっております~ぅ。

わたくし片手しかないです~」



まのびした間の抜けた声がした。


僕はすっかり気が抜けてしまい、

背中につけた壁をずり下がった。


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