第6章 盗賊娘な烏
盗賊娘になる鴉。
その案内により、
ゆき着いた先は、
黒曜石の館の中。
1
館はすべて黒曜石で出来ていて、
どこにも入るところがなかった。
「鴉ヲ…呼ブトヨイ」
魔狼が別れぎわにいっていた。
兎の屍(しかばね)を捌(さば)き、
内臓を引きずり出す。
血を撒き散らし、
魔法円を描いた。
2
黒い鴉が舞い降り、
赤毛の娘になった。
無闇にヒラヒラした、
黒ドレスを着ている。
「あの館に入りたい?
ムリよ、無理々々。
だって、入口なんかさ、
どこにもないんだもん。
ねえ、それより、
イイコトしない?
アタイがあんたの女に、
なったげてもいいわよ」
盗賊だという癖、
ゴツイ靴を履き、
足音もお喋りも、
騒がしく不快だ。
「ちょっ、ちょっと待ってよ。
イイコトおしえたげるからさ。
あそこに入るにはね、
水晶の鍵がいるんだ。
なんたってさ、門番だからね、
アタイの体のどっかにあるよ。
だからさ、さがしてみない?
ねえ、アタイとイイコトしよ」
盗賊だというのに門番なのは、
役が合わないと疑問に思った。
「ま、話すと長くなるんだけどね。
アタイの家は代々盗賊だったんで、
あの館のお宝を狙ってたんだけど、
どこにも入れるとこないんだよね。
で、どっかに入口がないかと、
小屋建てて張り込んでたんだ」
あまりあからさまにすぎて、
張り込みにならないだろう。
「ある日、あの魔女が、
アタイの目の前にあらわれた。
本体じゃなく
幻みたいなもんだったけど、
召使いだっていう
赤い蜘蛛を従えてた。
そして、門番になれば、
入口の鍵を渡すし、
どんなことをしても
死なない体にしてくれる、
給料は出さないけど、
この館からなんでも、
盗み出してかまわないってんだ」
裏のありそうな誘いだ。
「そんとおりさ……。
館ん中にゃ、
えげつない罠が仕掛けられてるし、
おっそろしい守護獣がいるしで、
お宝なんざ、これっぽちも、
持ち出せるわきゃなかった」
なるほどあくどい。
「死なないのはいいけど、
死ぬほど痛いし苦しいし。
もとの状態に戻るれまで、
ずっと痛くて苦しいんだ。
三十回挑戦したけど、
とうとう心が折れた」
よく三十回もやれたな。
「わかっちまったよ。
死なないんじゃない、
死ねないんだってね。
門番のアタイは、
忌々しいここに、
永遠に縛ら……」
娘は言葉を途切らせる。
眼にあるのは絶望、虚無、
そして孤独を湛えていた。
魔女の召使いである怪物達は、
この娘の心に巣くったものから、
生まれたかもしれないと思った。
3
衣裳をたくし上げて、
水晶の鍵が渡される。
娘が唇に接吻した。
拒みはしなかった。
けれどこちらからすることはなかった。
「いいか――い!
館の中に入ったら、
レノアって下女に、
力貸してもらいな!
あんた一人じゃ、
絶対無理だから!」
後ろから呼びかけられても、
僕が顧みることはなかった。
4
水晶の鍵をかざすと、
透明な扉があられる。
遷移するオーロラの光の中で、
その扉だけが動かずにあった。
その向こうには、
何処までも続く、
合わせ鏡めいた、
黒曜石の柱廊…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます