第3章 夜への旅
1
少年は妹を取り戻すため、
だれにもいわず家を出た。
北からの渡り鳥に道を尋ねると、
彼らはこのように教えてくれた。
2
『やめたほうがいいけれど、
どうしてもいくというなら、
頭の二つあり、石の心臓の一つある、
体がエメラルドのような巨人の住む、
高く険しい鉄(くろがね)の山脈(やま)に入り、
ルビーのような血色(ちいろ)の蜘蛛が巣くう、
真っ暗な洞窟を通って、向う側に抜けるんだ。
すると、月の港に、
幽霊船(ふね)が泊まってるから、
そいつに乗り込んで、
オパールのような眼をした銀(しろがね)の大魚(さかな)が泳いで、
喪服の面紗(ヴェール)を被ったように陽(ひ)が差さず、
悲嘆(なげき)の涙のように塩辛い死海(うみ)を渡んなきゃなんない』
3
巨人に追いかけられた。
その名は孤独といった。
太蜘蛛の巣に囚われた。
その名は絶望といった。
大魚のお腹に呑まれた。
その名は虚無といった。
ノゥスィンカの姿なき召使いが、
形をとったものだった――。
4
少年は、夜の国の岸辺で、
魚から吐き出されました。
その姿は以前のものとは、
変わってしまっていました。
瞳は孤独(きょじん)のような緑、
唇は絶望(おおぐも)のような赤、
髪は虚無(たいぎょ)のような銀。
それらの色に染まっていたのです。
身に着けていたものを失った体は、
ほっそりとしてなめかな白い肌で、
あたかも美しい少女のような容貌(かお)。
彼は裸のまま蹌踉(よろ)めきながら、
それでも休まず歩き出します。
5
そこは黒曜石の中、
永遠に夜だけの国。
揺らめくオーロラ、
ただそれだけの地。
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