ハロウィン小ネタ集
ハロウィン一年目(前日)
「trick or treat!!」
黒い悪魔の服を着た葉月と白い天使の服を着た文月が床を必死に磨いている如月に向かって目を輝かせながら言った。
如月は疲れ切った顔をしながらも手に持っていたモップを側にあった丸テーブルに立てかけてポケットの中に手を入れた。
葉月と文月はポケットの中から何が出てくるのかという期待で胸を膨らませながら如月を見つめた。
「あ、あった。あった。」
そう言って如月はポケットから小さな箱を取り出して二人の前に差し出した。
「これで良いか?」
如月はできる限りの笑顔で二人に言った。
しかし、二人は如月が差し出してきた物を見て顔を顰めた。
「何・・・・・。」
葉月が言った。
「これ・・・・。」
文月がそれを指差して言った。
如月は二人のその反応を見て首を傾げた。
「何って・・・酢昆布だろ?」
二人はその如月の返答に体を震わせた。
「ど、どうしたんだよ一体?」
二人は一斉に涙目で如月の顔を睨みつけた。
「こんなのお菓子じゃない!!悪戯してやる!!」
「何言ってんだよ?これだってれっきとしたお菓子だって!!お菓子といえばこれが定番だろ?」
慌てた顔をしながら如月は言った。
「こんなの違う!!それに、お菓子の定番って古すぎるよ!!今の現代っ子はこんなのじゃ満足できない!!」
「それに、いつの時代だ!!」
二人は怒りに満ちた顔で如月ににじり寄ってきた。
「何言ってんだよ?俺が小さかった時なんて綺麗な水が御馳走だったんだよ。」
それでも二人はにじり寄ってくる。
「Trick・・・・・。」
文月が机に立てかけてあったモップを手にしながら言った。
「or・・・・。」
葉月が床に置いてあった10リットルの水色のバケツを手に取った。
「や、やめろって!!もう少しで掃除が終わるんだって!!」
如月は二人に壁まで追い詰められた。
「treat!!」
二人は一斉に叫びながら手に持ったモップとバケツで店内を滅茶苦茶にし始めた。
数時間後・・・・。
文月と葉月が満足して店から出て行ったあと、如月は汚された店内を一人寂しく掃除していた。
窓の外に目を向けてみるともう外は真っ暗だった。
「酢昆布だって立派なお菓子だろう・・・。」
そう呟いたとき、梟の形をした時計が鳴った。
時計に目をやるともう長い針と短い針は12時を指していた。
「もうこんな時間か・・・。でも、これでハロウィンは終わったんだな・・・。」
納得するように言ったその時、扉が開く音が聞こえた。
「trick or treatです!!」
そこには白くて可愛らしいコートを着て満面の笑みを顔に浮かべた長月とその隣に黒いコートを着た師走が立っていた。
如月は顔を真っ青にして店内を見られないように師走の目の前に立った。
「ど、どうしたんだ?こんな夜中に?」
声が思わず上ずった。
「今日はハロウィンですよ?だから今日はかなり早めに来てお菓子でも作ろうと思ったんです。」
長月が可愛い顔で微笑みながら言った。
ハ、ハロウィン?
「ハロウィンなら昨日のはずじゃ・・・・。」
「何言ってるんですか?今日は10月31日ですよ?」
くすくすとまたも可愛らしく笑いながら言った。
「え・・・だってさ・・・昨日文月と葉月が来て・・・。」
「二人が如何したのですか?」
師走が眉を顰めながら言った。
「い、いや・・・何でもない!!全く問題ない!!」
明らかに挙動不審な如月の様子を見て師走は店内を見渡そうと体をそらしてみた。
その行動を見て思わず師走と長月の目を両手で覆った。
「き、如月・・・?貴方は一体何を隠してるんですか?」
師走の声が少し重くなった。
「何も隠してない!!」
「何も隠していないならこんな事をする必要がないですよね?」
師走はそう言うと力ずくで如月の手をどけて散らかった店内を見た。
如月は右手で頭を抱えた。
「如月・・・・何をどうしたらこんなに散らかせるんですか?」
まずい・・・・。
「今日はハロウィンだから、お化けが一足先にここにやって来てtrickして行ったんだ。うん。きっと・・・。」
顔を引きつらせながら如月は言った。
「如月・・・・・。嘘を吐くならちゃんと納得のいける様な嘘を吐きなさい・・・・。」
師走はそう言うと如月にモップとバケツを渡した。
「私も手伝いますから早く終わらせましょう・・・。」
溜息交じりに言った。
「あれ・・・怒らないの?」
如月は意外な顔をした。
「今は朝まで時間がないので・・・・。しかし、この掃除が終わった後、覚悟してくださいよ?」
その声には殺気が込められていた。
む、睦月・・・・早く来て何かしでかしてくれ・・・・。
そう思いながら如月は黙々と店内を片付け始めた。
ハロウィン2年目(当日)
「トリックオアトリート。」
不貞腐れた顔をしながらホルマリン漬けのビンをコロコロと退屈そうに転がしている睦月に向かって神無月はやる気のない声で言った。
そんな声を聴いて睦月は眉間に皺を寄せながらゆっくりと神無月の方を見た。
すると神無月は面倒と言わんかぎりの顔をして視線を床に落としていた。
ピンクの中のピンクといった感じの色をしたウサギの着ぐるみを着ていた。
この服何処かで見たことがあると思いながら少し思案してみると正月に如月が着ていた服に似ていると思った。
「お前がこんな行事に参加するなんて意外だよ・・・。ところで、その服どうしたんだよ?」
本当に意外そうな顔をして睦月は神無月に言うとみるみる内に顔が真っ赤になり、恥ずかしそうにそっぽ向いた。
「つい最近財布落としてまともなご飯食べてないんだよ・・・。」
ごにょごにょと恥ずかしそうに言う。
「まあ、その事情は分かったが・・・どうしてそんな恰好してるんだよ?」
座っていた椅子の背もたれに全体重をかけるようにして揺りかごが揺れるように椅子を揺らしながら言った。
「結構似合うだろ?」
その声と共に神無月の後ろから怪獣の着ぐるみを着た如月が姿を現した。
そんな二人の姿を見ていると自分がコスプレ会場に迷い込んだのかと勘違いしたような錯覚を起こす。
「如月は分かるっていうよりも、ハロウィンなんだからハロウィンらしい恰好しろよ!!もっと、魔女とかフランケンシュタインとか!!」
睦月がそう言った瞬間、如月は不敵な笑みを顔に浮かべた。
神無月は頭を抱えながら馬鹿と小さく呟く様に言った。
その反応に睦月は少し困惑した。
「意外だな・・。睦月がこういう行事に興味があったなんて。」
わざとらしい声で如月は言いながら睦月の腕を掴んだ。
「な、ま、まさか!!」
気が付くのが遅かった。
そのため、睦月は店の奥へと連行されていった。
店内に睦月の罵声が響き渡ったが扉が閉まると同時に嫌に静かになった。
神無月はそんな睦月に向かって合唱をした。
「どうしたんですか?その恰好は・・・。」
師走の声が後ろから聞こえてきた。
後ろを振り返るとカッコイイと素直に思えるぐらいの吸血鬼の衣装を着た師走が白い息を吐きながら店内に入ってくるところだった。
「師走・・・・。如月が暴走したんだ。」
涙交じりの声で神無月は言った。
「暴・・・走・・・ですか?」
そう言いながらも両手で抱えていた荷物を近くにあった机の上に置いた。
いつの間にか彼の眉間に皺が寄っていた。
「今日はハロウィンですのに・・・。」
困ったと言いたげな顔をして見せた。
「しーはーすー!!」
葉月と文月がそう言いながら師走に抱きつき、そして抗議の視線を向けた。
「何で今年は師走が衣装選んでくれなかったの?」
文月が言う。
「師走!!何考えてんだよ!!」
葉月が言う。
二人は怒りのこもった声で師走に抗議する。
「すいません。今年は仕事が思うように早く終わらなかったもので・・・。」
本当に申し訳なさそうに言った。
「しかし、衣装は如月に任せた筈ですが・・・。」
本当に申し訳なさそうな顔をして言った。
神無月はピンクのウサギの着ぐるみ、文月は酔っぱらったおじさんみたいな恰好、葉月は変なおじさんの恰好をしている。
師走の顔がどんどん引きつっていく。
「trick or treat!!」
その時、店内に皐月の元気そうな声が響いた。
「皆来るの早いね。これ、私からのプレゼント。」
そう言いながら籠の中に入れていた小さな銀袋をその場に居る全員に渡し始めた。
文月が袋を開けて中身を覗き込むと顔が引きつった。
そんな文月の反応を見て葉月が自分に渡された袋の中身を覗き込むと同じような顔をした。
「な、なんだよこれ!!去年と同じじゃないか!!」
そう言いながら袋の中から一枚の酢昆布を取り出した。
すると皐月が真顔で二人の両肩を掴んだ。
「いい?戦時中はね、それが御馳走だったんだよ?なのに、文句言っちゃ駄目。」
すると不満そうな顔をした二人が皐月を睨んだ。
「如月と同じこと言うなよ!!」
その時、奥の部屋から如月が現れた。
「俺がどうかしたの?」
すると皐月と師走を除く全員に一斉に如月は睨まれた。
「でも、如月は良いセンスをしていると思いますよ?」
真顔で師走はそう言った。
皆の視線がありえないと言いたげに師走に集まっていく。
「そんな訳がないだろ!!」
怒りに満ちた声で睦月の声が如月の後ろから聞こえてきた。
一同睦月に視線を移した。
そこに居たのは不思議の国のアリスの服を着た睦月の姿があった。
「睦月、すごく似合ってますよ。」
ニッコリと笑いながら師走は言った。
そんな店内の様子を寒空の下で見ていた弥生は溜息を吐いた。
「全く・・・。如月には萌えが足りなさすぎるよ。これではつまらない・・・。」
頭を抱えながらそのまま空に浮かんでいる月を見つめた。
ハロウィン3年目(当日)
「また・・・この時期がやって来た・・・。」
勢いよくお腹を鳴らしながら睦月は机に突っ伏して力なく呟いた。
そんな中、背後から同じようにお腹が鳴っている音が聞こえて来た。
その音を聞きながら睦月は溜息交じりにゆっくりと起き上り、後ろを振り返った。
そこに居たのは少しやつれ気味の如月がお腹を押さえながら立っていた。
「お腹が空き過ぎてご飯作るのが面倒臭いから、何か食べ物をくれないか?」
今日はハロウィンなのに、夢も希望も無いような言葉を如月は言った。
「俺だってお腹空いてるんだよ。」
そう言うとお腹がまた鳴った。
その音を聞くと如月は盛大な溜息を吐いた。
「何だよ・・・これじゃあ、ハロウィンが成立しないじゃないか・・・。」
両手で顔を押さえながら如月は言った。
「成立って、そんな‘Trick or Treat`ってすらも言ってないのに成立するかよ?それに、そんないつもと変わらない制服姿の奴に例えお菓子があったとしてもやらねえよ。」
如月を指さしながら言った。
「何だ?なら、仮装をすればお菓子・・・と言うよりもご飯を用意してくれるんだな?」
如月の目が輝いた。
その言葉を聞いて先程言った自分の言葉を後悔した。
「はぁ?何でそうなるんだよ。俺だって、こんなにお腹空いてるのに、食べ物なんか持ってるわけがないだろ?」
突っかかる様に言った。
「よし、決めた。俺とお前でどっちがハロウィンを満喫しているか競争しようじゃないか!!」
「おい、俺の話聞いて・・・。」
如月はそんな睦月の言葉を遮るようにして続けて話始めた。
「俺とお前が今から仮装して、この店の子供代表である葉月と文月にどっちがエンジョイしているか決めて貰う。それで、負けた方はどんな手段を使ってでもご飯を調達してくる。こういうのでどうだ?」
その言葉に睦月は額から汗を流した。
如月は余裕の笑みを見せている。
そんな顔を見ると何だか負けた時の表情を見てみたくなった。
「良いぜ。受けて立ってやるよ。」
如月の鼻につくかつかないかの位置に指を突き立てて俺はこの挑発を受けた。
「で、二人とも舐めてるの?」
不機嫌そうな顔をしながら文月と葉月は言った。
「なに言ってるんだよ!全力でハロウィンをエンジョイしてるように見えるだろ?」
パンダの着ぐるみは如月の声を出しながら言った。
「舐めてるのは此奴一人で、俺はハロウィンをうまく表現できてるだろ?」
今度は雪だるまの着ぐるみが睦月の声を出しながら言った。
何だか、バランスをとるのが難しいのかフラフラしている。
「舐めてるよ!二人してハロウィンをなんだと思ってるの?そんなの、スーパーの前でチラシ配ってるのと全然変わらないじゃないか!!」
そう叫ぶように文月は言うと泣きながら走り去って行った。
「文月!!」
そんな文月の後を葉月は走って追いかけた。
そんな二人の姿を見て二人は少し泣きたい気持ちになりながら深く項垂れた。
「何がいけなかったのかな?」
如月は何かを考え込みながら言った。
「何もかもだろ・・・。」
睦月は遠いい景色を眺める様な目をしながら言った。
ハロウィン4年目(前日~当日)
「今年はこんなので良いかな。」
3時間かけて作った大量のクッキーを見つめながら神無月は一人台所で満足そうに呟いた。
そして、冷蔵庫の横に立てかけてあるデジタル時計に視線を向けた。
すると、時計は2時を示していた。
「柄でもないけど、今年のハロウィンは素直に楽しんでみようかな・・・。」
微笑しながらクッキーを大きな袋に詰めているその時、不意に睦月と如月の顔が脳裏に浮かんだ。
その瞬間、口元が引きつった。
「こ、これだけ作っておけば、睦月達だって普通にハロウィンを楽しもうって気分になるはずだ・・・。」
自分に言い聞かせる様にそれを言ってみたが、どうしても不安が拭いきれなかった。
眉間に皺を寄せながらその考えを消すように、首を激しく左右に振った。
「だ、大丈夫・・・。あいつらだって、今年・・・今年こそはひもじい思いをしていないはずだから・・・。」
そう言いながら、作ったクッキーを台所の流しの下に入れて隠した。
「こ、これなら大丈夫だろう。」
両手を組んで苦笑いをしながら言った。
一頻り笑った後で、溜息を吐いて自分の部屋へと帰った。
-深夜3時-
「神無月の奴・・・やっと帰ったか・・・。」
誰も居ない真っ暗な台所を入口の壁に隠れる様に見つめながら如月は言った。
ゆっくりとスイッチに手を伸ばして、慎重に明かりを付けた。
そして、本当に誰も居ないかをもう一度確認してから台所の中へと足を踏み入れた。
「神無月もハロウィンのお菓子を作ってたのか・・・。二番煎じってなんかインパクトがないよな・・・。」
今年のハロウィンは心を入れ替えて、自分でお菓子を用意しようと思ってたのに・・・。
そんな事を考えながら如月は腕を組んで首捻りながら良い案がないか考えた。
しかし、30分が過ぎても何も思い浮かばなかった。
「ハロウィンって言ったら、お菓子にカボチャ・・・。」
そう言いながら、とりあえず冷蔵庫にしまってあったカボチャをまな板の上に置いた。
「カボチャって言ったら、煮付けに煮付けに煮付け・・・。」
そこまで言って、如月はカボチャに頭突きをした。
「煮付けしか思いつかない!!」
傷一つ付いていない硬いカボチャに額を擦りつけながら言った。
「しかも料理は睦月任せにしてるから、カボチャの煮付けの作り方なんて分からない!!」
カボチャを両手で掴みながら床に崩れた。
「何で・・・今年に限って・・・お菓子なんて作ろうと思ったんだよ・・・。神無月の馬鹿野郎・・・。」
そう言いながら、側に合った流しの下の戸に八つ当たり気分で殴った。
「なんか・・煮付け以外に良い案はないかな・・・。」
口元を尖らせながら、何となく殴った戸に手を伸ばして開けた。
すると、大きな袋に入った大量のクッキーの姿が見えた。
大きく目を見開かせながら両手を伸ばして、それを掴んだ。
「これは・・・神無月が作ってたクッキー・・・。」
このクッキーの味見をしながらカボチャを生かしたお菓子を作ればなんとかなるんじゃないか?
そう思いながら、時計に視線を向けると4時だった。
「時間はない、料理を真面に作った事はない・・・けど、見本となるクッキーは俺の手の中にある。」
口元に自信のある笑みを浮かべながら、綺麗にラッピングされたそのクッキーの袋を開けた。
そして、一枚を口の中に入れて食べた。
「このクッキーの味を元にお菓子を作れば、なんとかなるはず・・・。」
包丁を片手に床に置いてある硬いカボチャを右手で鷲掴みにした。
-ハロウィン当日-
昨日のクッキー作りによる疲れの余韻を引きずりながら、神無月が台所へと向かった。
今年のハロウィンで皆はどんな仮装をしてくるのかという想像をしながら、台所の入口に立った。
明かりを付けて中に入ると、まるで強盗に入られたかの様に台所の中が荒らされていた。
その光景に、自然と口元が引き吊った。
「あ、あと少し・・・で・・出来るん・・だ・・・。」
満足そうな笑みを顔に浮かべながら寝言を言っている如月の姿が、黒い煙を吐き出し続けているオーブンの隣に見えた。
その側には、クッキーを入れて置いた筈の袋が無造作に転がっているのが見えた。
その光景に苦笑いをしながら、今年のハロウィンも一筋縄に行きそうもないなと神無月は強く握りこぶしを作りながら思った。
ハロウィン5年目(前日)
「ハロウィンといえば、お化け。」
両腕を組みながら如月は納得するように何回か頷いた。
「そして、お化けと言ったら・・・。」
「だからって・・・お化け屋敷ってのは、どうなんだよ。これのどこがハロウィンだよ。」
最後まで言い切る前に、睦月がお化け屋敷を指差しながら言った。
「いやさ・・・ここ最近、仕事で準備するのが大変だっただろ?だから、今回は手軽にハロウィンを楽しもうと思ったんだ。」
満面の笑みと自信に満ちあふれた表情で、如月は病院風のお化け屋敷を指差す。
その先に視線を向けると、窓から不気味な人影がこっちをじっと見ていた。
それに、睦月は背筋を震わせた。
「手軽って・・・ハロウィンは明日だろ?今から準備すれば、間に合うんだから、わざわざこんな所に来なくてもいいだろ。」
お化け屋敷に背中を向けて帰ろうとしたとき、肩を勢いよく掴まれた。
「前から行きたいと思ってたんだけどさ・・・一人で行く勇気がなくてさ・・・。一緒に行ってくれよ。」
拝むように如月は胸の前で合掌をして、睦月に頼み込んだ。
そんなもん体験しなくても、身近で毎日楽しんでんだろ・・・。
そう思いつつも、口を尖らせながら如月を横目で見る。
今にも泣きそうな顔をして、こっちをじっと見ている。
正直に言って、気持ち悪い。
でも、ここで置いて帰ろうとしたら、周りから同類のように見られるだろう・・・。
その方が面倒だ・・・。
ため息を吐いて、如月の顔を改めて正面から見た。
「仕方ねえな・・・。」
そう言った瞬間、勢いよく抱きつかれた。
今まで隣を歩いていた如月が、お化け屋敷に入ったとたんに、睦月の後ろへと回った。
「お、おい!お前が言いだしっぺなんだから、前を歩けよ!!」
背中を無理やり押してくる如月に言った。
「い、いやさ・・・こういうのは、俺みたいな非力な奴よりも、剣術に長けた睦月の方が、良いと思ってさ。」
震える声で如月は言った。
まだ、お化けは一体も出てきてないのに・・・何をそんなに怖がる必要があるんだ?
呆れた気持ちで、ため息を吐いて睦月は先頭を歩いた。
しばらく歩いていくと、不気味な小道具が雑に置かれているのが目に入った。
その側には明らかに、人が眠っていそうなベッドが置いてある。
次の部屋へと続く扉が、その側にあるのが見えた。
「絶対に、何か出るよな。絶対にバッとあのベッドから人が出てくるよな。」
震えながら、如月は分かり切ったことを言った。
そんな光景に口元をヒクつかせながら、一歩前へと出ようとした。
しかし、如月がキツく両肩を掴んでいるせいで、上手く歩けない。
「もう、なんでこんな怖そうな雰囲気出すんだよ。もうちょっと、明るい感じとか駄目なのか?」
「それじゃあ、お化け屋敷の意味がないだろ。」
苛立ち混じりに睦月が答え、如月を引きずるようにベッドの側を通り過ぎて、扉の前に立った。
「なんだ・・・フェイントだったのか・・・。」
さっきまでの緊張感を吐き出すように、呟いてドアノブを回したが、開く気配がなかった。
それに疑問を持っていると、如月の掴む力がだんだん強くなった。
「如月!いい加減にし・・・」
後ろを振り返ると、無数のお化けがこっちに向かって襲いかかってきているのが見えた。
「わぁぁぁぁぁ!」
「それで、そんなに包帯だらけなのか・・・。てっきり、ハロウィンだから、仮装してこっちに来たのかと思った。」
ティーカップを磨きながら神無月は、カウンターに突っ伏す睦月に言った。
「これは、お化けにやられたんじゃないからな。気が動転した如月にやられたんだからな・・・。」
不機嫌そうな声で睦月は言った。
それを聞いて、如月と一緒にお化け屋敷に入りたくないと思いながら、カップを棚にしまった。
あらまほし 雨季 @syaotyei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます