栄永 利口 Ⅵ


「……ぃ、おーい、おーい。大丈夫ぅ? 生きてるー?」


 のんびりした声に、僕は飛び起きた。途端に、身体の節々が痛み始めた。

 僕は、大木のうろのなかで一夜を明かしたようだった。


「はぁ、はぁ……えっ!? い、今の、夢?……夢!?」

「怖い夢でも見たのぉ?」


 呪華は、実に楽しそうに笑いながら僕の頬を人差し指で突っついた。


「も~ぅ! ね・ぼ・す・け・さ・ん☆」

「――――あ。なんか変な事口走ってなかった!?」


「意識のないうわ言には、言霊は反応はしない」


 恨月は、すぐ横にいた。声を出すまで、全く気が付かなかった。


「わっ!? そ、そうなんだ……」


 彼に怯えてしまう。さっきのは夢でも、リアリティありすぎだったから……。


「……何があっても僕は、死なないからな」


 僕がそう言うと、恨月は目を合わせた。

 ――――悔しそうな表情に見えるのも、さっきの夢の名残だろうか?


「このままじゃあ、ヨボヨボのおじいさんになっちゃうよぉ? キャハッ!」


 呪華の助言に、僕は慌てて言葉を出した。


「じゃあ年を取らない……僕は不老不死になる!」


 僕は空洞から這い出た。日はすっかり昇っているようだった。


「さあて、世界を壊そうか!」


 続いて出てきた呪華は、金色の瞳を輝かせて言った。


「な、何で急にそう言う事を言うんだ!?」

「え? 利口を追い詰めたのは、この世界じゃないの?」


 心臓が跳ね上がった。


「え……いや、だって……」

「小さい頃からずっと頑張って来たのにねぇ?

 どうしてこうなったんだろうねぇ?」

「が……頑張って来たって……! 結果が出なければ、意味がないっ!」

「でも、努力して来たんだよね? その努力は、誇っていいと思うよぉ?」


 一番から墜落してから、言われなかった……優しい言葉。

 僕は呪華の金色の眼を見た。宝石や純金よりも、美しい光に満ちた瞳だった。

 まるで舞台役者のように大袈裟に両手を広げる、呪華。


「利口は、人一倍頑張って来た。

 世界中の誰よりも頑張って来た……それなのに!

 誰も利口の事を認めてくれない! ただ貶し、罵倒し、苦しめるだけ!

 努力しても、努力しても、結局報われない。なんて可哀想な利口!

 おかしいと思わない? いや、わかってるよね?

 本当はわかってるんだよねぇ!?

 利口は、わかってる。

 この世界はおかしい、全部おかしい、絶対におかしい!!」


 僕の想いを、怒りを……呪華は全て言ってくれた。


「だ・か・らっ! このおかしな世界を壊しちゃってぇ~……そんで、最初から作り直せばいいよ! 住みやすい世界に、利口が望む世界に!

 その資格が、利口には、あるんだからぁ!!」


 心臓が、早鐘のように動いている。


 僕が新しい世界を作る? 作ることが出来る!?

 信じられないような喜びが、心を満たしていく。


「人間に、新世界の創造を委ねるなんて、愚かな事をするな」


 恨月が精一杯の皮肉を言った。


「キャハハハハ!!

 恨月、これからもっともぉーっと、面白くなるんだよぉ!?」

「――――勝手にしろ」


 恨月は肩をすくめると、姿を消した。

 消える間際、呪華は彼に向って茶目っ気たっぷりに笑って手を振っていた。


 僕は落ち着く為に、深呼吸した。


「呪華」

「ん?」

「呪華は……僕の味方だよね?」


 どうしてこんな事を聞いたのだろうか?


 呪華は一瞬キョトンとした後、すぐに魅力的に微笑んだ。


「モチロン☆ これからよろしくね? 利口!」

「……うん!」


 日光も遮断している大樹に囲まれた、樹海。

 そこで僕は、美しい呪神と協定を結んだ。

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