栄永 利口 Ⅴ


 ――――気がつくと、僕は闇の中を疾走していた。


 僕は追っ手から逃げている。捕まってはいけない。

 僕を追いかけるのは、言葉だった。


『お前は馬鹿なんだよ』

『馬鹿は学校に来るな』

『生きてる価値は無いんだよ』

『さっさと死ね』


 うるさい、うるさいうるさい、うるさいうるさいうるさいうるさい――――。


「みんな、死んでしまええええええええっ!」


 僕は叫んだ。


 声が…………消えた。とても静かだ……。

 走り疲れて、僕はその場に倒れ込む。


 足音が聞こえた気がした。気のせいだ。


 ……また聞こえた。何だろう? 気のせい気のせい。


 いや、気のせいじゃない。明らかに僕の背後に何者かが迫っている!


「誰だ!?」


 目の前には恨月がいた。

 その右手には、鋭利な刃物が握られていた。


「な、何だよ、それ……!」

「お前は、言霊を使った」

「何を言って……」


 恨月は、僕を見て嘲笑した。


「『皆死んでしまえ』と言っただろ? その皆にはお前も含まれているんだよ。

 ――――覚悟しろ、栄永 利口……!」


 刃物が振り上げられた。


「い、嫌だ! し、死にたくない!」

「仕方ない……言霊は全てを真にする力なんだ」

「ぼ、僕は死なないっ! 死なないぞ!!」

「憎悪が足りないな……お前は、死ぬんだよ!」


 僕の胸に刃物が容赦なく突き刺さる。激痛が身体を焼き尽くす。


 大量の血に溺れ、苦しむ僕を見て恨月は高笑いをしてた。


 死んでしまう……死んでしまう……死んでしまう……死んでしまう……!


 い、嫌だ、嫌だっ……嫌だぁぁぁああああああああああああああああああっ!




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