世界中を憎悪する少年

 午前六時に起床。朝食を取り、駅へ向かう。

 電車に乗って、学校に着くまでの時間は、参考書で予習。

 休み時間だって無駄にはしない。授業の復習をするには、充分な時間だ。

 学校が終わり、電車に乗って自宅に着くまでの時間は、参考書で復習。

 帰宅し、身支度をして、また電車に乗る。

 受験勉強の為に、一時間半掛けて有名な塾へ向かう。

 家に帰って来るのは、夜の9時。

 夕食を取ってから、自分の部屋で宿題を終わらせる。

 そして、午後11時に就寝。(テスト前は、午前0時まで起きていた)



 ――――ほんの二ヶ月前まで、それが彼の全てだった。

 でも、平穏はもろはかなく……彼の前から消え去った。



 息苦しい眠りから目覚めた彼は、ドアをゆっくり開ける。

 ドアの前には、ラップの掛った大盛りチャーハンと何処かの店で買ってきた、お惣菜が載ったお盆があった。それを部屋に運び、食べる。

 食事を終えると、食器をドアの前まで運ぶ 。

 食器を元の場所に置いた所で、勢いよく階段を上がってくる足音が聞こえた。

 彼は慌てて部屋の中へ戻り、毛布を頭から被った。


「…………けんお兄ちゃん!」

「おかえり、怜悧れいり


 明るい少女の声に応えるように、ドアが開く音と共に低い掠れた声がした。


「――――ふーん。今日も、ちゃーんと完食か。穀潰ごくつぶしのくせに」


 ドア越しにでも聞こえるような、はっきりとした声量だった。


「怜悧。それ、二人の前で言うなよ。不機嫌になるから」

「……もう、どっかの施設に入れてよ! 本当に嫌だ! キモい!

 こっちのモチベーションが下がるってば!

 あんなのがウチにいたら、友逹も呼べないでしょ!?」

「……嫌なのは俺も同じだよ。弟が引きこもりだなんて、知れたら困る」

「今夜、パパに頼むからね? もう嫌だよ!

 ママが何と言おうと、あの人がこの家にいるなんて、耐えられないもん!」




 激痛の走る胸に掻き毟り、彼は枕で口を押さえて慟哭どうこくした。


 シーツに爪を立て、枕に涙を染み込ませ、暴れた。


 胸の痛みは、治まるどころか、どんどん酷くなってきて。


 脳内では、先ほど聞いた言葉が、思い出したくも無いのに浮かんで来て。


 








 ――――どれくらい、うずくまっていただろうか。


 毛布から顔を出す。意識は朦朧もうろうとしていた。


 それでも、階下から聞こえる家族だった者達の笑い声を聞くまいと、必死に努力をした。

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