罪深き殺人を犯す青年


「――――死にたい」


 小さく呟いた少女を、彼は黙って後ろから抱きしめる。

 少女は震えていた。まるで怯えた小動物のように。

 しばらく室内に嗚咽が響く。


 彼は、少女の耳元で優しく、ささやいた。


「死んだら……この退屈も無くなるでしょうか?」

「え……」


 彼は、両手に握ったロープを少女の首にかけ、思いっきり引っ張った。


「ぐっ!?」


 ロープは少女の細い首に、しっかり絞まった。

 少女の瞳が、大きく見開く。何で? そう訴えているのが良く解った。


「さっき、死にたいって、言ったでしょう?」


 渾身の力を振り絞り、ロープを引き続ける。

 少女もどこにそんな力を秘めていたのか、必死に抵抗する。

 綺麗なマニキュアを塗った爪が、ロープを取ろうと首を掻く。

 彼が足払いをかけると、あっさりと転ぶ少女。

 足をバタつかせる。その音はとても大きいものだった。

 もしマンションとかアパートの一室だったら、住人の耳に届いたかもしれない。

 でも、此処ここはマンションでもアパートでもない。



 ――――いつの間にか、静寂が辺りを支配していた。


 足元には、目を見開いて舌を突き出し、恐ろしい形相の少女の死体があった。

 光を失った目と目が合った瞬間、強烈な快楽が全身を駆け巡った。


「キャハ! すんごい顔だねえ?」


 無邪気な声と共に、背中に重圧が掛った。

 《彼女》が、彼の背中にしがみ付いてきたのだった。


「……まだ、温かい」

「死にたてだからね~」


 彼女の言い回しに、彼はクスリと笑った。


「後始末をしたいので、少し離れてくれませんか」

「ん~、わかったぁ」


 彼女の妖艶な微笑みに彼の目が釘付けになった。

 ――――殺してみたい……。

 動かなくなった華奢な身体を、壊れるくらい抱きしめてみたい。


「どうしたのぉ? ルキア」

「……いいえ、別に」


 彼は彼女に優しい笑みを送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る