三人の主人公

驕り高ぶる秀才の少年

 彼は、物事をする前に必ずイメージトレーニングをする。

 様々な状況、場面、対処方法を推測し、慣れておく。

 だから、全て上手くいっていた――――。


 とある進学校の教室にいた彼は、おもむろに椅子から立ち上がり、机の間を抜けて一つの机の前で止まった。その席にいる男子生徒は俯いている。


 彼はしばらくその姿を見つめた後……思いっきり、机を蹴り倒した。


 耳を劈く大きな音。辺りに物が散乱する。

 男子生徒は椅子に座ったまま、身じろぎもしなかった。

 彼は散らばった物の中から、今日返された週末のテストの解答用紙を取った。


「数学……74点、か。

 僕がこんな点数取ったら、学校に恥ずかしくて来れないな。何で来てるの?

 普通来れないだろ? 最低点数だよ。最低。最も低いって意味だよ。

 お前の、その小さい脳味噌でも、それくらいはわかるか? いや、脳はあっても細胞は死んでいるか……じゃなかったらこんな点数、取れないだろ?」


 彼は馬鹿は大嫌いだ。見てるだけで苛立つのだ。


「大体、何で馬鹿が特進クラスにいるんだ?

 馬鹿は馬鹿がいる、三流の高校に行けよ」


 彼は目の前で固まっている馬鹿に対して、疑問を投げか けた 。


「それに、何でお前生きているんだよ?」


 言われ続けている男子生徒は、ただ黙っている。

 その態度が更に彼を苛立たせる。


「……この問いにも答えられないのか? 本当に馬鹿なんだな」


 彼の口から、考えておいた台詞がスラスラと出てくる。


「馬鹿は生きている価値は無いんだよ、馬鹿だから。それが常識なんだよ。

 でもお前は馬鹿だから、そんな常識もわからないんだな。

 ……つくづく馬鹿なんだな。生きている価値、無いな。本当に」


 彼の苛立ちは限界に近づいていた。


「何さっきから黙ってるんだ? おしにでもなったのか?

 日本語の使い方すらも、忘れてしまったのか?いい加減にしろよ?

 お前のせいで、クラス平均点が下がるんだよ! 馬鹿は学校に来るな!」


 彼は黙り続けている男子生徒が座る椅子にも、蹴りをくれてやった。


「この馬鹿が。死んでしまえ、お前なんか」


 そう言い捨てて、彼は自分の席へ向かう。

 イメージトレーニングをしているから、スムーズに事は進む。

 教室のドアが開く。担任の男性教師が入ってきた。


 ――――チャイムが鳴る。いつも通り。時間ぴったりだ。


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