椿と柘榴

ダウンタウンの中華料理屋 【熱々風々】店内


「とまぁこんな塩梅の話でゴザルよ。」

「上手くいくかぁ?そんなに。」


ガーネットはスープを啜りながら、気乗りしない様子で椿屋の話を聞いている。


「ガーネット、上手くいくかどうかは問題ではないでゴザル。上手くやるんでゴザルよ。」

「ん~~…気が進まねぇよ。だってお前の話だと、グッドマンを敵に回そうってんだろ?」


ガヤガヤと騒がしい店内、隣のテーブルの話ですら聞こえてこない。二人はこの店がお気に入りで、度々足を運ぶ常連だった。


「回すも何も元々ヤツは拙者達の味方ではないでゴザろう?『パーソンズインタレスト』の一件で、無理矢理拙者達に近付いてきたタダの性悪のあんちきしょうでゴザる。」

「それに、受けた恩は十二分にして返したでゴザろう。ちょっとくらいお宝を二人占めしたって屁の河童屁の河童!」

「確かにな……いつまでもあいつの下に着いてるのも、癪な話だし……。」


ガーネットは皿に盛られた巨大な肉まんを一つ口に運ぶ。


「そうでゴザろう?」


椿屋がその肉まんを取り上げ、二つに割って半分をガーネットに渡す。


「ッッッよし!決まりだ!あたしら二人で、アテナの涙を頂くよ!」

「拙者達の明るい未来のために!」

「あぁ!億万長者一直線さ!」

「二人一緒なら怖いもの無しでゴザる!!」

「そうと決まれば腹ごしらえだ!食うぞぉぉぉ!!」


テーブルに運ばれていたそれはそれは豪勢な料理を平らげていく二人。スープと、肉まん。ただ、それだけ。この店で一番安いセットだが、そんな事二人は気にしなかった。こうして今日も飯にありつけ、二人でこの街を気ままに生きる。そこが重要だった。ただそれだけが。


この二人の出会いについても、一度どこかで話したいものだ。椿と柘榴、おとぼけ侍とじゃじゃ馬重火器女。


「空いた皿、持っていくで♪」


チャイナドレスの店員がスルリとガーネットの皿を下げ、厨房へと向かう。


「この店の店員は皆あのような姿をしているでゴザる。実に破廉恥極まりない。」

「って言いながら目はケツから離せないようですけどねぇ!」

「仕方ないでゴザるよ普段見れない放漫なお尻はここでみるしかないでゴザる。」

「ったく………。ってどういう意味だコラァ!?」


【熱々風々】厨房内


「アテナの涙………。お宝……。へぇ~~なんやけったいな事話しとる思て近付いたら……なかなか面白そうな話やないか…。」


メガネを外し、湯気で曇ったガおラス越しに椿屋とガーネットを見つめる先程の店員。


「お金の匂いがプンプンしてきた…!」


口の端から垂れる涎を手の甲で拭いながら、電脳から通信を飛ばす。通信先は【エドガー・ドレッドノート】


「毎度~、元気しとる?」


「何だ花琳か、すまないが今忙しいんだ。」


低く、落ち着いた声の主が通信を受ける。


「そんな冷たいこと言わんでよぉ♪すぐ終わる話やから、ね?」


「手短に頼むぞ、今仕事中なんだ。」


「【アテナの涙】って、何?」


ガッショァァァアアン!

エドガークンナンダネトツゼンコロンダリシテハッハッハッハ!

ガチッガタタッガタッ


「ふぁ、花琳!!!」


「な、なんやの怖い声だして…それに今そこにガレリアはんの声も」


「それを誰から聞いたんだ!?あぁ、えぇい!通常回線ではこちらも話せん!!………!?こんな時に磁気嵐帯に……!!………花………いい………よ……ザザ……聞け………!アリエスから一歩も出…ザザッ………!何を…………ザザザ………だ!アテナの涙………ザザ…危険…!ブツッ…………


「エドガーはん!エドガーはん!!……な………なんやのんこれ………」


「おい!バイトコラァ!何油うてるアルか!働くアル!給料出さないヨ!」


「………!?そ、そないに怒鳴らんといてぇな…!今やるとこやって……!お給料だけは堪忍して………。」


いそいそと皿洗いを始める花琳。


「(しかしなんやえらい慌てようやったな………これはウチ一人でどうにかなる問題とちゃうかもしれへん。危ない橋は渡りたくないし……まぁ、ちょっとくらい調べても問題ないやろ。)」ゴシゴシゴシコシコシコ


パリンッ


「あっ」


「バイト何やってるアルか!皿一枚割れたネ給料から引かせてもらうアル!!」


「そ、それだけは堪忍してぇなあ~~~!!」


~~~~~~~


「クソッ!まったく荒野の環境は一体どうなってるんだ!?」


「ハッハッハッハ!!なぁに、暫く経てば通信も回復するさ!落ち着きたまえエドガー君!」


「呑気なもんですね、もうアテナの涙の情報が漏れているんですよ。少なく見積もっても、まだアリエスまで5日はかかるこの状況で。いつ襲われてもおかしくはない。」


「その時のために、私"達"を雇ったのではないのかね?エドガー君!」


度々揺れる室内、比較的快適そうなその空間で、向かい合いソファーに座るエドガーと優雅にワインを口許に傾けるガレリア。


巻き起こり過ぎ去る砂嵐を外に見ながら、黄昏座る片腕の無い男。


テーブルに山盛りにされている、"生"の果物を、大急ぎで口に運び続ける、青い髪の少年。


「それはそうですが…。いえ、少しばかり慌てただけです。確かに、貴方達がいれば問題はないでしょう。それに秘密兵器もあることですしね。」


「ばふぁっごべべんぶばべべもびびぼば!?(なぁっ!これ全部食べてもいいのか!?)」


「………口に物を詰め込みすぎだ。」


「その通りだよエドガー君。伝説の要心棒に、なんと我らがスプロールのヒーローまでいる。何よりも!私がいる!!ハッハッハッハッハー!!」


「………(あまり、気は進まないのですがね…………)」


「(来てくれるなよ………花琳……。)」


吹き荒れる荒野の嵐は、未だ止む素振りを見せない。巨大な装甲車の群れが目指すは東、スプロール・アリエス。

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トワイライトガンスモーク~狂騒の輻輳都市~チキチキ☆スプロールレース☆強奪せよ伝説の秘宝 @kamotama0316

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