夢への道標

 あの日以来、私はその青年と定期的に交流を持つようになった。

 出逢ったあの日、私は彼の夢を聞いた。そのお返しに、私は私の身の上話をした。

 彼とはとても仲良くなった。

 その付き合いは何年も続いた。

 彼の撮った写真を見せてもらったり、一緒に撮りに行ったり。

 それはそれは楽しい日々だった。


 しかし、それは全てが泡沫うたかたのように消えてしまうんじゃないかと不安になるほどに、美しく楽しい時間だった。




 でも、今ではもう……私に外出許可がおりることはない。

 もう、いえの中で余生を過ごすのみだ。




 ……それでも、救いはある。

「ただいま」

 待ちわびていた声。

「おかえりなさい、あなた」

 そこには私の大好きな彼の姿。

「さぁ、秋のお土産をたくさん撮ってきたよ」

 彼の手には、秋がたくさんつまっている。

 けれど、それは秋が終わる知らせ。

「あら。それは楽しみね」



 次は冬。

 今年は一緒にいられるかしら。

 お正月くらい、一緒に過ごしたい気もするけれど。

 やっぱり、一人は寂しいから。

「ねぇ、あなた。今年の冬なんだけど……っ」

 勇気をふりしぼって声にする。

「ん?」

 彼は優しい笑みを私に向けた。

「今年は、一緒にいましょうよ。今年は寒いらしいから。一人じゃ死んじゃうかも」

 冗談混じりにそんなことを言うと、彼は少し困ったような……でも、ほんの少し微笑んだような顔をした。

「それは困るな。まぁ、僕も少し考えたんだけどね。……やっぱり、年越しそばは最愛の人と食べたいし、年が明けて初めて会うのは君がいい」

 彼の言葉に、私の頬は自然とほころぶ。

「じゃあ、約束ね」

 ───あぁ、幸せだ。

「あぁ。一足早く、冬を撮って帰るよ。そうだね、12月27日には帰ってこよう」

 それは、大切な約束。

「一月中はずっと君といるよ。君の笑顔をたくさん撮りたいんだ」

 それは、とても嬉しい贈り物。

「あら、そんなにいてくれるの?楽しみだわぁ」

 私は今も、まだ生きている。

 私は彼に夢を託し、希望を見た。

 私は彼を愛し、この手の中に捕まえた。

 彼は、私にたくさんのものを与えてくれる。

 彼は私の夢の道標。

 私に夢を与え、私に夢を見せてくれる……とても大切で最愛の人大切な夢への道標

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夢への道標 如月李緒 @empty_moon556

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