77.これからもずっと一緒
77.これからもずっと一緒
あれから一ヶ月が過ぎた。
俺は冒険者ギルドのマスターに呼び出しをくらった。
「しばらく、お前には旅に出てもらう」
カイサルさんと一緒に執務室に入るなり、ギルド長アーロンさんにそう言われた。
執務室には他にシルヴィアさんと、商人ギルド長ラヴレンチさんがいる。
「やっぱり、まずかったですか?」
「アルマリスタとしては悪くは無い。悪くは無いが、お前は俺を過労死させたいのかという思いが晴れん」
そんなつもりは微塵もなかったけど、ラヴレンチさんも顔色がよくない。
この一ヶ月、大騒ぎだったもんなー。
例の
結局、スーちゃん案でいく事になった。
すなわち、〈赤い塔〉の
ダンジョン
特に階層型80階の〈赤い塔〉は少々
そもそもアルマリスタの記録上では最大到達階数30階なんだし。
で、〈赤い塔〉は現在の最上階は50階。
そして、削った30階分の
もちろん、高難度ダンジョンはもうあるので、どれも以前と同程度の難度のダンジョンだし、帰還石も使える。
ついでに階層型と分岐型のダンジョンしかないのは面白みに欠けると、全部別仕様のダンジョンにした。
……ちょっと、調子に乗りすぎたかも知れない。
なにせ、ダンジョン作りますと言っても、まず街の
各ダンジョンで採取できる資源の細かい調整は出来なかったから、素材に関わる人達は情報収集におおわらわ。
ダンジョンの数が増えたのを聞きつけて、他の街からも冒険者が移ってきているし、冒険者が増えると商機だと商人も増え、職人も増え……。とにかく人が増えて、人材管理する立場の人達が頭を抱えている。
低ランクの冒険者問題が解決しちゃったけど、
ただ、結果としてアルマリスタは7つのダンジョンを所有する街となり、この大陸で最大のダンジョン数を誇る事になった。
まぁ、それでめでたしめでたしなら良かったのだけど。
普通はダンジョンなんて増えない。
さらに北のアルマリアの森にはドラゴン族が住み着いた上で街と協調している。
南には宿場街建設中。
で、これらには一つのクランが関わっている事が、かなり噂になっちゃってるんだよね。
ようするに、《自由なる剣の宴》。
さすがに隠し切れない。ただ、俺の名前が特にあがっているらしいので気をつけろとは言われているけど、どうしろと……。たぶん、ユニーク職業だから話題にあがりやすいのではないかと思ってるけど。
これがアルマリスタだけなら良いのだけど、どうやら他の街からも
アルマリスタとしては他の街に害意はないんだけど、他の街からすれば色々と脅威に映るらしい。
まぁ、俺は政治的な話には疎いので、よく分からないけどさ。
それで噂が落ち着くまで他の街でも見物に行けというのがアーロンさんの案。
注目度の高い人物が消える事で、噂を早急に鎮火させるつもりらしい。
俺としても、政治的な事で刺されるような事は嫌だし、他の街の見学に行きたいって気持ちもある。
ゴブリン族も、裏庭で直接ラヴレンチさんと交渉できてるようだし。
ドラゴン族も、クロエさんが街側の人になったし問題ないだろう。
「旅に出るのは俺だけですか?」
「もちろんエリカも連れて行ってもらう。奴をコントロールできるのはお前だけのようだしな」
「そのつもりではいましたが」
エリカを一人で残すのは、まだ色々不安があるしな。だいぶ常識的な事を学んだとはいえ。
「俺も一緒について――」
カイサルさんが言った瞬間に執務室が凍りついた。
シルヴィアさんと、執務室の外で待ってるクロエさんだ。
「カイサル」
弾息をつきながらアーロンさんが、諦めろといわんばかりに声をかける。
「一緒についていきたいところだが、今はクランの加入希望者も増えてきたしな」
言いつつ、がくりとうなだれるカイサルさん。
もう、ぶっとい鎖のついた首輪がついてるような状態なんですから諦めましょうよ。両手に花ですよ。……ちょっと
てな事があって、旅立ちの当日。
「マサヨシ。これって馬車って言っていいの?」
「まぁ、言いたい事はわからんでもないが。
馬車はハウスさんに作ってもらったが、それを引くのは馬ではなくクマ2匹。
いや、クマ軍団に頼んでみたら、初めはクロさん夫妻が引くという話だったのだが、親分にそんな事させられねぇ! 姐さん、あっしが引きます! ってのりで、クマ軍団全員が俺がやるやる状態になったので、ローテーションで引く事になったのだ。
まぁ、それと後から気付いたのだが、クロさん夫妻だとサイズ的にきつかったわ。クロさん夫妻は巨大化は出来るんだけど、逆にサイズを小さくする事が出来ないのだ。
なんか、シュンとしてるクロさん夫妻には申し訳なかったけど。
一応、行く方向は北方を回る事にしている。
というのも、南方は色々とキナ臭いのだ。ヴィクトールさんが南方にある街の出身らしく色々と話を聞いた事があるのだが。
アルマリスタに比べ、どの街も治安がよくないというのもあるが、それ以上にとある宗教国家が問題らしい。
色々と問題の火種を残してくれた神明教統一戦争。
その発端となった街の後継がその国らしい。犯罪奴隷以外の奴隷制度もあるらしいし、進んで関わりたくない。
アルマエークが南側の街道に建設中なのも、その国への牽制の意味もあるらしい。
まぁ、そんな胸が悪くなる話は捨ておいて、エリカの肩に止まっているミギー
どうやら、ジェノサイドバルキリーモードとモノバードモードは可逆だったらしく、いつでも変身可能らしい。
よきかなよきかな。
俺もペットがほしいかなぁ。
とか思ったら、膝に衝撃が……。
忘れてませんよ、スーちゃん。だから膝の上でジャンプするのはやめてね。
それにスーちゃんの事ペットなんて思ってませんから。
それから出発しようとした時、呼び止める声が聞こえた。
はて? 見送り不要と言ったんだけど。
ぶっちゃけると、ハウスさん家経由でいつでもアルマリスタには戻ってこれるからな。
声の主はニコライさんだった。それにハリッサさんにニーナさん。
ニコライさんとハリッサさんはニーナさんの付き添いかな?
二人ともこれからダンジョンに入るのか、荷物装備込みだ。
……ん?
ニーナさんの服装が変だな。
賢者ギルド長の立場を公にしてから、フォーマルで高そうな服がデフォだったんだが。
今着ているのは旅装束に見える。俺やエリカと同じような奴。
「私も連れていって下さい」
閉ざされた目をそのままに、馬車上の俺達を、俺を見上げてくる。
……はい?
「ずっとアルマリスタに住んでいたのに、マサヨシさんが来てから知り尽くしていたと思っていたこの街の知らない事ばかり。恥ずかしい限りです。
それで、マサヨシさんが旅に出ると聞いて、この際だから見聞を広げる為に私もご一緒しようかと」
「いやいやいや」
ちょっと待て。
近くのローソンに見知らぬ商品があったのにショックうけて、近隣のファミりーマートやセブンイレブンの視察に行きますみたいな事言われても。
「賢者ギルドはどうするんです。ギルド長が留守していいん――」
「あ、そっちはクビになりましたので」
………………。
「やはり、目が見えないと書類処理も出来ませんし、ギルド長は務まらないようです」
反射的に馬車を飛び降りた。
頭に血が昇ったまま駆け出しかけた俺を、ニコライさんとハリッサさんが肩をがっちりと拘束する。
ついでにスーちゃんまでが足をひっぱる。
「なぜ止めるんですかっ!? いままで散々ニーナさんを頼りにしてたくせに、あの
「落ちつくっす! それは口実っすよ! でもなきゃ、私らが破格の金額で護衛にやとわれないっす!」
……護衛?
とりあえず、話を聞くために暴れるのをやめる。
ニコライさんがほっと一息をついてから教えてくれた。
「ニーナギルド長。いや、ニーナさんはその能力の高さから、人一倍仕事をこなしてきたのはマサヨシも承知しているよね?」
「まぁ、それは」
それはもう、過労で周囲の光が闇に変わるくらいがんばってましたね。
「さらにはこの一ヶ月だ。賢者ギルドの上の方でも、問題には思っていたらしい。自分達のギルドマスターは働きすぎだと」
「………………」
「だからといって、言っても聞かないし。しつこいと謎の急病で倒れるとか」
たぶん、それは呪詛魔術……。
「という訳で、クビという名目で強引に休暇をとってもらった訳さ。
さすがに幹部一同の意思はどうにもならないだろうって」
「全員倒れると、賢者ギルドが傾きますからねぇ」
さらっと言ったニーナさんの一言に空気が凍りついた。
この人の場合、やろうと思ったら出来るんだろうな、きっと。
「という訳で三人一緒だけど、スペースはあるかな?」
「あ、それは大丈夫ですけど」
というか、ドラクエ4の人数が乗っても大丈夫だと思われる。
「うわぁ、なんすか、これ。この中で生活も出来るんじゃないっすか?」
返答の前にハリッサさんが中に入りこんでいた。
俺も続いて馬車に戻る。
ハリッサさんの言うとおり、馬車っつーよりもキャンピングカーの内装に近いんだよな。
たぶん、ハウスさんはまた俺の記憶をあさって作ったんだろう。
快適だから許すけど。
ニコライさんは、ニーナさんに前を譲る。
俺は頭を掻いてため息をついた。
こりゃ、断れないな。
「手を出してください」
「はい」
素直に出された手を掴んで引っ張りあげる。
思ったよりも軽くてのけぞりそうになったけど、そこは安定のスーちゃんがいる。
「スーちゃんもよろしくお願いしますね」
ニーナさんが頭を下げると、スーちゃんもぷにっと応じる。
最後にニコライさんが乗り込んだ。
それからふと思い出したように付け加えた。
「後から、リズも合流するかも知れないって言ってたよ?」
「なぜです?」
「隊長のそばにいるのがいたたまれないって」
「……まぁ、いいです」
それはわからんでもないしな。
「じゃ、出発しますから。各自席に座ってくださいね。
つーか、エリカ。クマに乗ってんじゃねぇ! せめて御者台にしやがれ!」
頭が痛くなりつつも、とりあえず馬車はスタートした。
いつでも帰ってこれるとはいえ、慣れ親しんだアルマリスタを離れるのはちょっと不安もある。
でも、同時に新しい街でどんな事があるだろうという気持ちも否定できない。
五感共有があるので、御者台に俺がいる必要はなかったが、なんとなく気分で座った。
よじよじと膝の上にスーちゃんが上がってきた。
地球でも、アルマリスタでもスーちゃんと一緒だった。
だから、たぶん何かあっても大丈夫だろう。
だって、これまでも一緒になんとかしてきたんだからな!
これからだって、やれるさ!
三章 虚本偽書がもたらすもの 完
スーちゃんは俺の嫁 赤砂多菜 @sisyo
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