鬼鳴り

第３６話 例えば、勇気や理想に裏付けされた強い意志が必要だ

Salt Side

　正直奴らが苦しんでいるのを見るのが楽しかったところがある。"G.O."を貶め、破壊するのに躍起になり、目論見もある程度達成できたが何故か自分が苦しい。それを認めたくない思いが彼らをさらに駆り立てる。そうして徐々に自分たちの財産を失っていく。このままいけば俺たちは見ているだけで勝つんじゃないか……とまで思ってしまう。だが、それではダメなんだ。彼らに俺たちから気付かせるべきなんだ。これは俺が得た教訓。

　男になるためならなんでもやる。

　やり過ぎるのは人でなし。

　彼らの中にも気付く者は増え始めている。自分たちが罠にはめられていることに気付き始めた。そして俺は彼らに逃げ道を与える。代償を少し貰って彼らの不安を取り除く手伝いをする。それだけだったが、効果はあった。徐々に包囲網は崩れ始めている。

Fly_TV

　実にお見事。私の周囲は大恐慌状態だよ。どうしてくれるんだい？

Salt_BTI

　まあ、就職先は紹介できると思う。その気になったら来てくれ。

Fly_TV

　それはありがたいけど……あんた、その名前からしてちょっとした脅威を感じてるんじゃないか？

Salt_BTI

　鋭いな。その通りだ。

Wolf_DH

　そりゃそうだろ？　鉄の結束の４７人が討ち入りに成功してしまったんだからな。強固な意志を持った連中が目的を一つにして動けば、そりゃ強力になってしまうだろうな？　そしてそいつらは武力行使ができる立場にある。どうするんだ？

Salt_BTI

　和平交渉を行いたい。

Wolf_DH

　へえ？　交渉？

Salt_BTI

　見方は色々あるだろうが、今の俺たちの状況はイーブンだ。このまま続けば消耗戦になる。望みがあれば聞こう。応えられるものは応えよう。そのための交渉だ。俺たちの要求を掻い摘んで言えば「邪魔をするな」だ。

Wolf_DH

「蠅の王」かよ、お前は？　そんな態度でボスが態度を改めると思うのか？

Salt_BTI

　交渉の場では礼をもって接するよ。それと「実」も差し出そう。

Fly_TV

　「実」って言うのはつまり、名誉と利益を共に差し出す、って言う事？

Salt_BTI

　そう言う事だ。

Fly_TV

　その話、乗った。

Wolf_DH

　乗った？

Fly_TV

　メリー・ジェーン以外の私たちは日本政府側ってことだろ？　つまり、それぞれの立場で交渉に応じることの利点をアピールすれば上の連中は動くんじゃないか？　私はそのあたりの仕事をマネジメントすることもあるからな。

Wolf_DH

　俺も似たようなもんだ。いいぜ。俺も乗った。それに乗じて何をしようが文句は言わないだろうな？

Salt_BTI

　ああ。その時は口じゃなく、手を出す。

Wolf_DH

　上等だ。いつか面と向かって会えるといいな。

Fly_TV

　全くだ。

Mary_Jane

　俺の目的は達成されつつある。静観させてもらおう。

　これで本格的に連鎖反応へ向かうだろう。俺の覚悟はできてる。何にしてもこの街は守れる。そう信じて行くさ。

Fly Side

　状況は整った。私の目的達成までもう少し。もうすぐ最後のピースが届く。開戦の狼煙をあげよう。私たちだけにわかるように。

　非通知で出るだろうか？　まあ、出ないときは別の手段をとるまで。呼び出し音が鳴り続け……

「はい。織山ですが。あの、そちらは……？」