第33話 お前は犯罪者として語り継がれる
Salt Side
モニターには三人が映っている。向こうにあるモニターを覗き込み、それを介して俺と向き合っているわけだ。俺は用意してきた案を話す、または、打つ。
「もう一儲けしようと思う。お前たちの力で」
「どんなもの?」
外の連中の企みを不滅に伝えてもらうよう頼んだ。だいたいの事情は想像がついているだろう。
「壁の建設に協力する」
「……それから?」
「俺は壁に絡む事業に手を出す。だが、それは当然"G.O."の外側だ。壁を作るのは奴らが生存できる領域ギリギリのラインに作るはずだ」
「それはそうでしょうね」
「お前たちに頼みたいのは、その裏側での仕事だ。お前たちの側からも壁を作ってもらう。すると、どうなる?」
「……出来上がった『壁』には、私たちの力が宿る……?」
「おそらく……でしかないが」
実有は考えているようだ。その先に何が起こるか。そして口を開く。
「私たちの力が何らかの形で外側へ広がる。もしかすると、私たちが生きていける領域が広がるかもしれない」
「その通り」
不滅が遮った。
「でも、それは……外の連中が、この街に入る術を身に着ける恐れがあるんじゃないか?」
「それも正しいだろう。毒喰派の技術を吸収した鋼鉄派のようにな」
「それは……」
渡良瀬が少し笑いながら言った。
「いいじゃないか。何をやるにもリスクはつきものだ。そろそろ変わるときなんだよ。俺たちも世界もな」
「そうね。それでいいと思う。私は賛成」
残りの二人も賛成してくれた。
俺は考えられるだけのプランを話した。壁を築くからには多くの労働者が必要だ。彼らが必要とする衣食住の環境、そして娯楽施設など。それに絡むものにも手を出す。そして徐々に計画を書き換えていくつもりだ。つまり、この街を覆う建造物を大型商業施設にしてしまうのだ。実有によればガーゴイルならば街の外へ出しても歩くことくらいは出来るようだ。俺の力で偽装と隠ぺいを行い、外の領域に毒喰派の力を流す。そうすれば、何らかの作用となって返ってくるだろう。
その後不滅が鋼鉄派の新技術をこの企みに活かしたい、と言ってきた。彼の語るところでは実有が生み出した謎のヴェール「光喰」の技術を多少なりとも再現できたようだ。実有は感覚で作り出したようだが、それもある程度は科学的推論に依っていたため、鋼鉄派の科学者たちとの相性も良かったそうだ。
それによると「光喰」は光が持つエネルギーを熱、電気、磁気、物質に変換し、更にそのいずれかに変換できるというものらしい。それにより正面に背面の映像を投影する、というような効果をもたらす。その技術の応用も徐々に可能になって来た。不滅の企みはこの技術を壁の素材に使う事だった。企みが全て上手く行けば、壁によって遮られるはずの自然光はそのまま"G.O."に届く。技術のコントロールは"G.O."が握っているので、壁の外側には影を落とす。
全員で笑った。そういえば、実有が笑うところはあまり見た事が無かったな。
Mary Jane Side
俺は得られた情報を眺めて何故か心が穏やかになった。このままこの街が世界を侵食するとして、それのいったいどこに問題があるのか……などと思ってしまう。俺はむしろそうなって欲しいのかもしれない。その前に俺が自分のツケを清算しなければならない。だからまだ動けるんだ。
画面の文字と会話する。俺は情報を伝えることにした。
Fly_TV:
へえ、こっちの目論見を逆手にとった上に利益まで得られるってわけか。やるね。
Wolf_DH:
ずいぶんと楽観的だな。もうしばらくすると俺のボスにも情報が行って、俺にお叱りの言葉が浴びせられるだろう。お前のところは違うのかよ。
Fly_TV:
私のところは、この街の他にも仕事がいくつもあってね。私が抜けると困る奴らが多いのさ。厄介事を倍にして押し付けてやっているが、私が役に立っている分が僅かにプラスだから、小言を頂くだけで終わりさ。
Mary_Jane;
もしも「汚染」が広まるとしたら、お前達はどう動く?
Wolf_DH:
汚染って、この街の清浄さが広がって俺らが困るって話か? 俺にとっては願ったりかなったりだな。敵の情報を知りやすくなるし、そこで何かをすればスムーズに乗り込めるかもしれない。
Fly_TV:
私もだね。
Mary_Jane;
俺が聞きたいのはお前たちの話だけじゃない。お前たちの雇い主の動向についてだ。
Fly_TV:
奴らにしてみれば「どうだっていい」ってところだよ。私たちが必死にやっている姿を自分たちの成果にして世界に見せる。それだけやって一日が終わればよし。「どうにかなったら嬉しいな」くらいなもんさ。
Wolf_DH:
こっちも同じようなもんだろう。ただ、成果が出始めたら俺に「横取りしてこい」と命令するな。
Mary_Jane;
わかった。お前たちと協力したい。一時的に。
Fly_TV:
聞こうか。
Mary_Jane;
俺たちの力が外へ向かうのと同じくらいに、この街にも外の力を取り入れる。つまり、お前たちが侵入しやすい土壌を作っておく、ということだ。その見返りとして、俺の頼みを聞いて欲しい。
Wolf_DH:
どんな頼みだ?
Mary_Jane;
この街の地下深くに「秘密の部屋」と呼ばれる場所がある。それを探って欲しいんだ。
Fly_TV:
何かおかしいだろ。この街のことを探るのに何で外側の力が必要なんだよ?
Mary_Jane;
その部屋を作った者は猜疑心の塊みたいな奴でな。この街の鋼鉄派と毒喰派、それぞれの力からどうやって隠すかを考え続けて作り上げたようだ。その結果、この街の住人には恐ろしく見つ辛いものになってしまった。だから外側の力でどうにかして欲しいわけだ。
Fly_TV:
どうにかしようにも街の中じゃ手が出せん。そっちの企みがうまく行ったとして、私が街の中に入れるようになるのは相当先だぜ? その間にどうしろってんだ?
Wolf_DH:
もしかして、あのレーダーか?
Mary_Jane;
そうだ。
Fly_TV:
なんだ? レーダーって?
Mary_Jane;
俺が外の世界と共同で作った特殊装備だ。つまりそれは「この街の住人以外の者がこの街で何かを探す際にとても役立つ装備」で、それ以外に使い道がない。そういうものだ。
Wolf_DH:
そして、それを外側で情報処理して伝えて欲しい訳か。なるほど。いいだろう。俺は乗った。
Fly_TV:
私も乗った。ただし、定期的に成果を報告するように。
Mary_Jane;
いいだろう。感謝する。
幸か不幸か俺の目的に近付きつつある。精霊を呼び出す方法も学ぶことができるとはな。だが、俺の力では習得に時間がかかりすぎるだろう。それを補うものが「秘密の部屋」にあるはずだ。守りながらの時間稼ぎ、攻めながらの探索、これがギリギリで保たれていること自体奇跡だ。だから、俺はこのまま進む。それによって彼女も解放されるはずだ。
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