第29話 雇った方で用心しなきゃならねえ用心棒もあらぁ
Day Side
俺はSFの重要性を訴え続けた。SF作家、そしてそれを映像化していった者たちのおかげで俺たちの生き方がどれほど変わったか。
「あの、私まだお金確を保する目途が立ってなくて――」
論戦が白熱する中、何かが聞こえた気がするが、ヴェロニカ以外目に入らない。
「私は、SFはヴィジュアルよりも胸に響く優しい感じのが好きで、『夏への扉』みたいな――」
ヴェロニカは幻想的なものがどれほど自分を救ってきたかを熱弁する。日本製のファンタジーがどれだけ自分にとって大切だったか。少し前の異世界うんぬんはやり過ぎだった、などと。
「『ピーターパン』とか『オズの魔法使い』とか『不思議の国のアリス』とか、子どもが自由に考えられる様なのもいいんじゃないかと――」
しばらく論戦した後、疲れたので席に着いた。何をやってるんだ、俺は。
Night Side
私は気にかかっていた。ルドビコのこと。周りのみんなが楽しそうにしている。それを穏やかな目でながめる。そして、だんだん無表情になっていく。時々浮かべる、力のない笑み。私はわかる。これは、ダメなんだよ。でも、それを打ち破るのは……でも、私もまだ出来ていない。どうやって触れたらいいものか……
そんなことを思っていたらブラックバードがルドビコの目をじっと覗き込んだ。
「ぁ……」
少し口を開け、何かを言おうとしている。
「ぅ……」
ブラックバードはじっと見つめる。ルドビコは目をそらす。しばらくしてから言った。
「……サイバーパンクとか……」
ブラックバードは微笑んでルドビコの話に乗った。
隣で白熱しているものに適当に相槌を入れつつ二人の方を見る。どっちも嬉しいかな。
一旦落ち着いた後に私の展望を話し始めた。
「とにかく連携を強化するのは承知してもらえた。そう思っていい?」
「ああ、そういうことだ」
私は頷く。それが出来ればほぼOKだ。後は、私がどうするか。
フーリッシュ・ハートの死後、外の世界は再び静観に入ったようだ。例のエリア51は東京湾から消え、襲撃の傷跡も消えつつある。だが、油断はできない。そして、私は重大な決断をしなければならない。私はヴェロニカをじっと見つめる。
「あの、サイバーパンクって何ですか?」
「えっ!?」
いつの間にか別のテーブルに座っていたブラックバードとルドビコに店の従業員が話しかけた。ルドビコは戸惑いながら話している。
「ええと……その、よくわからないけど……元々の定義も曖昧で……というか、定義なんて無くて……つまり……近未来とコンピュータと犯罪と日本が合わさったようなジャンルかな……」
「へぇー!」
そのまま話が続いた。まあ、ジャンルは分ければどんどん分かれていくだろうから、私も実際よくわからないんだよね。なんだか、そのまま彼女たちを見ているのが楽しくなってきた。私はずっとこのまま見ていられたらそれで……ああ、だからこれだと……
「あ、あの、コーヒーをもう一杯お願いします」
私は自分の事に集中した。見逃してはならない。自分の為に出来ることを。
Ziggy Side
何だかオーナーがずっと私のことを見てる……何だろう? 何かまずいことやっちゃたかな……目を合わせると圧倒されてしまうので気付かないふりをしつつ仕事をしよう。
でも、ルドビコさんたちの話が耳に入ってきてそっちに気を取られてしまった。
「それから、スチームパンクってジャンルがあって……私もよく知らないんだけど、もしも蒸気機関がもっと発達していたら歴史はどうなっていたか、みたいな話だったと思う。実際の歴史と少し違うけど同じ道を辿るところもあったり……」
いつの間にかウエイターやウエイトレスが集まっている。
「あ、それ知ってる。服とか装備のデザインが独特なんだよね。その世界の状況に合わせて形作られているから、レトロな感じだけど最先端にも思える――」
「うん、だから、私、それがいいかもって――」
話が盛り上がっている。一つのテーブルに集まっちゃうのはまずいけど、今日はいいか。私がカヴァーしよう。仕事をしつつ、時々気にかけることにした。
「そういえば一時期盛り上がったよね。あの屍の話」
「そうそう、あの一連の作品群でネクロパンクってジャンルが出来そうだったし」
「でも、設定をそのまま頂くのを勝手にやっても大丈夫なのかって思ったり――」
「実は私のオリジナルです。って言い張ったらどうかな? これは人間がコントロール可能なゾンビです、とか――」
「うっ――」
ルドビコさんが突然立ち上がり、口を押えながらトイレに駆け込んだ。私たちは面食らって黙り込んでしまった。まずいところに触れてしまったんだろうか……私がオーナーにやってしまったように。
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