第26話 ある程度の勇気と、ある程度の無理解がなければならないのだ

Night Side


 静けさの中、私はブラックバードと立っていた。見つめる先には冷たくなったであろうフーリッシュ・ハート。どうにか人の形を保っている。あれほど憎んだ相手を倒したのに、何も湧き上がってこない。私は変わってしまったのか? かつての私より酷い何かに……


「ねえ」

「!」


 我に返った。ブラックバードが私の左手を握っている。


「酷い顔。そんな顔しないで」

「……」


 深呼吸した。体に空気が入って、出て行く。……でも、まだ来ないかな……


「ありがとう。ブラックバード」

「うん。バイバイなんて絶対言わないでね」


 砂糖のように甘い誰か……私の場合は、あなたなのかな……


「私は、あの男とは別の道を行く。そうであると信じる」

「私は実有の味方だよ。いつまでも」


 私は左手を強く握った。これでいい。きっと、これでいいんだ……



 今度こそ、ただの遊びなんかじゃない

 消えて無くなってしまう夢でもない

 これが本当の……

 そうだろ? 私のフーリッシュ・ハート……



 私は街がある程度落ち着いてからブラックバードを連れて家に帰った。

 今まで通りの生活。フリードは歓迎してくれた。



 ハドソンと話し合って、私の『魔術』とブローグ・ヒャータを何らかの形で製品に活かすことにした。どうなってしまうかわからない恐れが強くて踏み出せなかったけど、あいつがやって来たことで決心がついた。もう私の力を隠すことは出来ない。何もしなくても、私の力は何らかの形で広がっていく。それなら私が自分の意志でやった方が良いと思った。鋼鉄派の企業とも協力していきたい。その辺はうまくやれそうな気がする。ブローグ・ヒャータの生成方法については教える術がない。私もどうやって説明すればいいかわからないんだ。だからいくつかの秘密は開示しようと思う。それも合わせて私も学んでいくしかないんだろう。お互いに何かを得られればいい。


 あれから毒喰派と鋼鉄派は休戦状態を保っている。実際には終戦になっているのかもしれない。だが、私たちの闘いが終わるのはどんな状態なのか? 生きる限り続く闘いならば共に歩く者がいるのは好い事かもしれない。何にしても度を越した事態に私は動き戦う。あいつもそうすると聞いた。そして彼女も。


 私は公園に居た。私たちが最初に出会った公園。そこでルドビコと話す。


「私の行動は何だったんだろう? 私はこの街の為に何かできたことになるのかな? 悪い事になってしまったんじゃ……」

「それは私にはわからない。でも、差し引きゼロってことでも万々歳じゃない? 命が終わるときに一つでも好い方へ傾いたら、きっと最高よ。だから、私は一緒に行きたい。背負えるものは背負うからさ」

「……うん」


 そんなことを言われると……まったくもう。でも、私はまだ……これ、助け出された『最初の子ども』みたいじゃない……どうすれば……


 そう思っていたら、ルドビコは私を抱きしめた。不意を突かれた。


「私がやることは、なによりもまず主人の仮面を取り戻すことかな。あなたの笑顔はキュートすぎる。大事な人のために、取っておいた方が良いよ」



 そのまま私はルドビコと一緒にあるビルに向かった。そのビルの屋上で不滅が待っていた。彼は警察組織の『大使』になったそうだ。仕事の内容は荒事の際の代表者。彼は願ったりかなったりだと言っている。


「それでヴィトリオルの解毒剤については?」

「あいつは私の近くにあると言った。戯言だと思う。でも、もしかしたらあるのかも。いや、これについては考えないことにする」

「そうか」


 不滅は頷いた。私たちは共闘する。その関係は変わらない。


「ところで、お前、鬼卿の他に妙な名前で呼ばれてるぞ。知ってるか?」

「知らない。何て言うの?」

「シェリフ・シックス」

「何それ?」

「一部の者にはお前の行為は正義に見え、別の者には悪魔的所業に見えたってことだ。それが噂話となって"G.O."を駆け巡った。織田信長との類似があったとかで『第六天魔王』の『六』とヨハネの黙示録にある獣の数字"666"なんかと結びついたようだ。それで "Sheriff 666"だと」

「……好きに呼べばいいよ。私は気にしない。じゃあね」


 私は不滅に別れを告げ、下で待っていたルドビコと合流した。ブラックスターに跨りながら、頭の中でさっきの話を思い出してみた。


「どうだった? 何かあった?」

「私にまた変な名前が付けられたみたい。でも、『"V"の次を生きる』という風にとれば、悪くない」


(the Voices for RE; Vendetta: End.         to be continued...)

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