第25話 完璧に治った、なんてことをいったい誰が保証してくれるんだ?
Joy Side
私は知らせを受けて駆け回っていた。一か月くらい前から毒喰派の領域で怪しい人物や不審物の知らせが多かった。私はそれについて調べつつ、精霊たちと協力してパトロールをする。住人たちと話しながら情報を密にしていく。鋼鉄派のガーゴイルたちからも情報を貰い、それを不滅に伝えて向こうで同じことをしてもらう。双方の情報をディープ・スパイダーと警察に伝える。そんなことを繰り返していた。
実際のところ、それが全てだった。
何気ない日常の生活。人々がそれを行う事。それによって侵入者は駆逐されていた。奴らが持ち込んだ空気に混ぜる毒物は、およそ一か月のこの街の人々の行為によって浄化された。僅かに残ったのがアレルギー反応だった。
フーリッシュ・ハートが潜伏させた者たちは、この街に適応する備えや装備を持ってきたのだろう。だが、この一か月で対応が追いつかなくなっていた。潜伏先で倒れているのを発見され、急病人として各エリアの病院で治療を受けている。昨日までこの街の住人だと思われていた。
残った手勢も戦闘を繰り返し、力を増強してきた私たちの連携に対応できず壊滅していく。どうにかフーリッシュ・ハート一人が活動可能な状態だ。だが、あの男は倒れる気配がない。やはり特別か。フーリッシュ・ハートが乗る車を追いかけながら、私は後ろに乗っている実有に言った。
「実有、ブラックスターで先回りをして!」
「何を言ってるの!?」
「あいつはアイアン・インゲルを破壊する気よ! あの建物が壊れれば自分が何かを成したと思える。それがまた力をつけるための動機にもなる。だから、今あいつを倒さなければ、何度でもあいつはこの街を壊しに来る。どんな小さな行為も成果だと思わせてはいけない。ブラックスターを走らせるのはあなたの方が上手いはず。私が降りればスピードも上がる。だから行きなさい!」
そう言って私は飛び降りた。実有は叫んでいたようだが聞こえなかった。そのまま実有は前を向いて走っていった。それでいい。頼んだよ。
Night Side
私は前を向きブラックスターで駆け続けた。もう振り返ってはいけない。あいつの痕跡を辿りながらエリア9を駆ける。そして見つけた。アイアン・インゲルのビルの前。一人で立っている。私は飛び降り、そのままブラックスターを走らせた。これで、二人っきり。願ったりかなったりね。
私は無言で鈍いナイフを取り出しフーリッシュ・ハートへ向かった。
フーリッシュ・ハートは両手にナイフを持って私に向かってきた。首筋、心臓、腹部。私に攻撃をしかけてくる。鈍いナイフで受け、躱し、斬りつけ、体当たり。向こうも怯まない。刃が弾け、肉体がぶつかる。
この男が以前のままとは思えない。何か新しい戦術を仕掛けてくる。だが、それらは主にフェイク。必殺の一撃は自分の得意技を放つ。来るなら、目くらまし。
フーリッシュ・ハートに目を凝らす。力が集中しているのは右腕。そこから来るのは、斬撃に粉状の毒を混ぜる。私が鈍いナイフで受ければ、私に侵入してくる。だから私は逃げ場を用意する。ヴィトリオルが流れやすい環境を作る。それを流し、反動として起こる流れにV2と私の斬撃を乗せる。フーリッシュ・ハートが揺らぐ。ここで押し続ける。重要なことは地面に留まらせないこと。そして私が地面に留まること。こいつは徐々に自身の力を練ることが出来なくなる。
「強くなったな。お前自身の毒を見つけたか?」
「そんなもんじゃない! お前に頼るのを止めただけだ!」
「まだ、周りが見えていないようだ。だから解毒剤も見つけられない」
「何のことだ!? 解毒剤!?」
「気付かないのか? ヴィトリオルを取り除く解毒剤のことを?」
「そんなものがあるなら、世界はもっと平和だろう!? お前が見逃すはずもない! それを使って新たなテロでも起こすに決まってる!」
「わからないのか? その解毒剤を作り出すことが私の目的だったんだ! お前はそれを手に入れる力も機会も持っていながら、動かない。あまりにも愚かしいから私はここに来たんだ!」
「そんなものが何処にあるっていうんだ!」
「……お前の近くだ」
「ふん!」
私は話すのを止め、戦闘に集中。またやられた。こいつの思惑の内だ。
だが、私には見えていた。あいつの周囲に見える力。私の力がV2を必要とし、私がエネルギーへと変える際に起きる隙。それを狙って一気に私に撃ち込むつもりだ。私は距離を詰めつつ、あいつが攻撃を放つのを見極め、一気に離れた。
フーリッシュ・ハートは力の向かう場所が空になり、戸惑い、一瞬体が硬直。そこへ私は鈍いナイフを投げた。フーリッシュ・ハートは左腕でガードする。そこへ鈍いナイフが突き刺さる。
「私は鈍いナイフでやってきた。今は研ぎ澄ます時だ!」
私は鈍いナイフに込めた攻撃衝動を解放する。私のV2を研ぎ澄まし、フーリッシュ・ハートのイメージを鈍いナイフと共有する。この男の弱点、そして最も嫌うもの、それを鈍いナイフと共に攻撃する。そして、準備完了。この男の毒を反転させたものを流し込み、さらに探り、再び作り流し込む。
「貴様……」
フーリッシュ・ハートは私を睨む。何が起こるか察したか。このまま流し続ければ反応を繰り返し、熱エネルギーとなって放出される。
「もう止めることは出来ないぞ」
私は流し続ける。フーリッシュ・ハートは悶え苦しみ、必死に方法を探しているようだ。急に動きを止めアイアン・インゲルの方を見て、駆け出した。
「巻き込むつもりか!?」
私は後を追う。すると、フーリッシュ・ハートの前方に黒い霧のようなものが現れ、あいつはそれに包まれた。次の瞬間、爆音と共に光と熱が私に襲い掛かる。私は後方に吹き飛ばされた。地面に打ち付けられると思ったが、何かに支えられた。
「……?」
空中に浮いている? そんな気がした。だが、その一瞬後に何をすればいいかを思い出す。地面に向けて足を伸ばし、立つ。黒い霧が私の周りにもあった。馬の嘶きが聞こえ、それらは消えた。
「ルドビコ……?」
私は呟く。だが、彼女はいない。気配を感じた方へ視線を向ける。そこに居たのは……
「ブラックバード……」
彼女は私に近寄ってきて抱きついた。私も抱きしめた。
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