第24話 本の中のいわゆる真実は物語作家の作り出したものだった

Night Side


 Salt_BTIが言うにはウルトラ・メガ・フロート名付けられた技術らしい。結合、分解、潜水が可能で、動かすことのできる巨大な人工島が東京湾に現れた。そこを臨時に『エリア51』ということにして"G.O."の陸地と橋で結ばれた。そこで私の表彰式が行われる。


 提案を呑んでからしばらくして返事が来た。世界は私を表彰するそうだ。それも驚くほど盛大に。ちょっと誤解があるかもしれない。驚くほど、ということは聞いたこともないメディアが三社ほど取材に来るということだ。式典はしっかりと行われる。著名、と思われる学者が数人招かれる予定。


 ここに来てSalt_BTIに弱気が見えた。何をいまさらと思うが、本人の弁によると見落としていたものが大きかったようだ、という。彼も式典を中止する気はないようだ。だから注意してほしいということのようだ。彼を焚きつけた連中の動きを分析したところ『何者か』の影がちらついていたという。彼からの情報の分析が早すぎる。求める量が多すぎる。それを確信したという。『何者か』がこの街を潰そうと画策していたようだ、と。


 何者か、というのは渡良瀬さんが話したことに関係があるのだろうか? だが、今の私にはわからなかった。


 ただ、渡された式典についての書類を眺めていた時のことだ。


「……え?」


 今回の式典の協賛企業のリストだった。そこに書かれた企業の名前には見覚えがある。


「どうして……」


 それらの会社には恨まれて当然のことをしてきた。でも、見覚えのある会社は賛同する旨を示すのみ。Salt_BTIが主導する事業にはお金も人も口も出さないというものだ。当然アイアン・インゲルとも関係を持たないだろう。確かに、怪しい。


 幾つか考えを巡らしたが、結局何もわからなかった。私はフリードとブラックバードに留守を任せてエリア51に向かった。



 来賓客が多数いる。見たことのある顔も多数。"G.O."のみんなが集まってくれたんだろう。司会の女性が式典を進行させる。私の功績を称え、学者がそれを証明する。私が登壇して表彰を受ける場面だ。私は名前を呼ばれて壇上へ向かう。その時だ。


「皆様を代表されまして、リュブリャナ・ハイリゲンシュタット大学教授の赤城竜也(あかぎ たつや)様」

「!?」


 体が固まる。視界に現れる人物。忘れもしない。私を地獄から連れ出し、更なる地獄に引きずり込んだ男。私の目の前に立ち、右手を差し出す。


「初めまして。実に見事な働きです。称賛を浴びるにふさわしい」


 震えが止まらない。だが、この男には隠し通すことなど不可能だ。私は右手を差し出し、握手する。


「……ありがとうございます」


 その男は笑いながら握り返す。そして私に囁いた。


「降りてから、少し話そう。君もそうしたいだろう?」

「ええ」


 私は睨みつけて言った。この男を逃してはならない。絶対に。


「何故ここに? 何しに来たの?」

「私の計画は世界中で満遍なく進行中だ。どこかに支障が出ればそこへ注目するのは当然だろう。ここまで見事に防がれては猶更だ。君はやり過ぎた。もう少し抑えていれば、私の抹殺も可能だったろうが、残念だったな」

「何を言っている? お前の企みなど知らない。私は自分とその周りの人たちの為に働いただけ。お前の残り香に侵されないように生きて来ただけだ。また、お得意のエンパス・イントルード? 生憎、私はもう騙されない」

「……ほぉう……つまり、君は……なるほど、お前こそが『抑止力』なのか?」

「……」


 この男の言葉を聞いてはならない。あれから力が増したとすれば対抗策は一から考えなければならない。手数は足りるか……


「ふん。良いだろう。予定変更だ。お前だけを捕える予定だったが、この街を丸ごと殲滅する」

「っな!?」

「お察しの通り、我々の技術は進歩した。より小さなものに『ヴィトリオル』を浸透させることが出来、兵器としての威力も増した。例えば、空気の中にもだ」


 何だと? どういうことだ? 空気の中? 私は何も…… 待て、思い出せ。フリードが言っていた。『花粉症』の方が多い、と。私はこの三年間でその症状は無い。それに今は2月。まだ多く飛ぶ時期じゃない。まさか……


「この街の人間を人質にして投降を呼びかける予定だった。だが、これもお前のやったことの一つだ。彼らと共に逝くがいい」

「待て! やめろ!」

「我々も多忙でね。これで失礼する」


 目の前の男を何かが覆う。全身に障壁を張った。そして、右手を挙げ、パチンと鳴らした。


―――――


 何も起こらない。これも何かのブラフか……


「防がれた? まさか、ここまでとは……」


 私は一瞬戸惑ったが、行動を起こした。この男フーリッシュ・ハートを捕える。いや、殺す。


 動くと同時に鈍いナイフを出現させフーリッシュ・ハートに襲い掛かる、はずだった。右腕を握られて、そこから力が出ない。動きを封じられた。どうやっている……?


「一網打尽は防がれたが、バックアップ・プランも用意している。まずは君の拠点、エリア9だ」


 そう言って私を放り投げる。地面に倒れる私をみんなが唖然として見つめている。

 フーリッシュ・ハートが走っていくのが見える。私は追いかけようとするが、何かが見えた。視界の幾つかに引き付けられる。見える。この中に潜む者たち。これは、まずい。


「みんな! 伏せて!」


 そう叫んだ直後、銃声がした。


 来賓客の中からマシンガンを持った者たちが銃撃。無差別に攻撃している。悲鳴があがり、逃げ惑う人々。何人も地面に倒れている。


 私は鈍いナイフでそいつらに斬りかかる。銃撃を交わし、動き続け、攪乱して攻撃。三人斬ったところで馬の嘶きが聞こえ、銃声が止んだ。


「実有!」

「ルドビコ!」

 私はルドビコを見止め、彼女とブラックスターへ走り寄った。


「ルドビコ、あいつが! フーリッシュ・ハートが!」

「大丈夫、とにかく乗って!」


「あいつはエリア9へ向かってる。でも、あいつがたどり着くころにはこの街を壊すだけの力が消えている。仲間も自分の力さえも」

「どういう事……?」

「……あなたは……本当に……いや、いいの」


 私はブラックスターに乗り、フーリッシュ・ハートが乗っているであろう車両を追う。周囲に護衛の車両やバイクが走っている。奴らも排除しなければならないか。と思っていると――


 その周りに何かが現れた。デュラハンだ。相当なスピードで走っている。チャリオットに乗っているのは……毒喰派の人間? いや、鋼鉄派だろうか? 外側からフーリッシュ・ハートたちを攻撃している。車両が壊れはじめる。乗っている者が応戦するがデュラハンの方が押している。車両が壊され中の者も外へ投げ出された。上からはハーピーも来ている。総がかりで攻撃している。いつの間にこんな連携を……ブローグ・ヒャータ無しで頼みを聞いてくれることは稀にあったが、強力に動いてくれることなんて無かった。どうやってこんな……

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