第23話 澄み切った湖のごとく、夏深き青空のごとく明快です

Night Side


 休戦協定を結んでから私たちは自分たちの現状を知らされた。私たちのこの街がどれだけ世界にとって貴重なのかを。喜びと共に徐々に怒りが湧いてくる。昔の私だよ、これじゃ。皆に開示するのは当然だけど、慎重にやらないと爆発してしまう。そこは、頼りに出来る人がいてくれるからありがたい。外に一人、内にはたくさん。


 それから私たちは仲良くなった。一気にすべては解決しなかった。当然だけど。毒喰派と鋼鉄派は徐々に歩み寄っていく。外側には争いがいまだ続く、ということになっている。私たちはそれぞれの持つ情報を適度に交換。ちょうどいいと思う情報をSalt_BTIに提供する。彼(女かもしれないけど)とは適正な価値を話し合い、提供する相手への支払額を決める。そんなことを繰り返していくうちに私たちみんなはすごく仲が良くなった。それぞれの得意分野を生かして発展する。アイアン・インゲルが中継ポイントとなり二つの領域を結ぶこともあった。外の世界とのやりとりはハドソンが昔の知り合いを通してやっていたから、そのルートを利用させてもらった。そう考えれば彼は私たちの価値を知っていたはずだが。その上で私を助けていたのだろうか? そこは聞いても答えなかった。でも、私は彼を信頼している。そこは揺るがない。



 そのまま一年が経った。


 短く言うと、"G.O."はものすごく住みやすいところになった。


 "G.O."はもとより、アイアン・インゲルと鋼鉄派の企業には相当な利益がもたらされた。それは画期的な商品の開発に成功したから。


 ヴィトリオルの氾濫より以前から世界に存在していた戦争という苦しみ。そこに一つの楔を打ち込むものだ。現在の見方だけどね。


 戦場や危険地帯での仕事、主に負傷した者たちの救援活動。難民保護活動。地雷の除去などの活動。その際に必要とされる装備を開発した。毒喰派の『毒』と鋼鉄派の技術力、それを合わせた。要するに、とても丈夫な装備を開発しそれをSalt_BTIが独占的に運用する。利益は私たちにも入る。


 当然のことながら一度外へ出たものは制御不能に陥るだろう。なんらかの因果となって私たちに返ってくる。だが、私たちはそれを覚悟で実行した。それにSalt_BTIは信用できる。信用したいって思える。


 主に鋼鉄派、ヴィトリオルとは別の道を選んだ者たちは体のあちこちに異常が生じる。皮膚や筋肉が痛み、神経や骨が侵され、脳にも異常が生じることがある。彼らはそれを補い続けて来た。この街の鋼鉄派の技術が急激に進歩したのは私たちという『毒』が傍にいたからかもしれない。


 ある時、私はSalt_BTIと話した。あの画面で。



/この街の鋼鉄派の歴史をいくつか見せてもらった。いくつかの発見があったよ


「どんなもの?」


/技術の向上の歴史、人の努力の歴史、だろうか


「聞きたい」


/鋼鉄派がある程度体を補い、他にも出来ることを探していく。それがある一定の量に達すると、それを待っていたかのように彼らの体に新たな問題が見つかる。それを克服してしばらく経つと、それらは繰り返される。


「まるで、人類という器に毒が適応しようとするかのように」


/わかっていたのか? なぜ?


「私も自身の力に同じものを感じていたから。例えとしてはおかしいかもしれないけど、RPGのレベルアップの仕組みがすごくうまく結びつく。やり方がよく分からないときはがむしゃらにやってみる。それを長く続けるとわからなかったものがわかるようになる。そして、ある時、一気に強くなる。そんな感じだった。どうにも不思議なんだけどね」


/俺たちはこれからどうなる?


「わからない。それがいいんだと思う」


/まるで未来が見えてしまっているような言い方だな


「そう? そうだったらこんな苦労はしないって」



 ところで、新製品が開発出来た大きな要因はアルテマだった。アルテマはただ遊ぶだけの言葉ではなくなってしまった。私を始めとする何人かは、それをちょっと嫌がったけどね。



 種が芽吹いたのは鋼鉄派と休戦してから一か月後くらいのこと。


 どういうことかというと――


 エリア5はヘイヴンに不滅が遊びに来るようになっていた。もちろん気を付けながらね。通ってくる通路は地下に張り巡らされた道。ディープ・スパイダーに対価を払って道案内をしてもらっている。


 私が担ぎ込まれた店にお客としてくるようになった。


 そこでみんなが愛するについて語らっていた。精霊のデザインやみんなが着る衣装のデザイン。それについて鋼鉄派からの意見を述べ実用的かどうかを話していた。実際、ヘイヴンのみんなは実用的かなんてことは殆ど考えていなかった。カッコいいかどうかが重要だったんだ。ただ、みんなのなかにもリアリティを求める一派があって、その子たちは不滅の話を重要視するようになった。


 不滅は鋼鉄派の技術者に頼み、玩具としてそれを形にする。私も時々精霊たちに頼んで形にしてみる。そんなことを繰り返していたら実際に運用可能な、それも相当な強度を持ち、尚且つすごく便利な装備が出来てしまった。嘘のような話だけどね。


 そして、見事に商品化。利益も出た。それが街の発展につながる。


 Salt_BTIはある提案をしてきた。優しい忘却に挑みたい、と。


 実際に世界で成果を挙げて来た。感謝されるには充分な成果だ。その功労者の一人として私を盛大に表彰したいという。それに対して世界がどう動くかを観たいと言っている。



 私はその提案を呑んだ。

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