第22話 順調に回復しているようね
Night Side
Salt BTI
/よくわかったな。やはりお前もなのか?
「まあ、ほとんど勘だけどね。塩と来ればもしかして、というところかな
青は藍より出でて、藍より青し。赤穂の城と安芸の宮島
妙なところから結びつける。私と同じ」
/じゃあ、お前のアイアン・インゲルとやらも?
「ええ、そう。単純にアイロニー(Irony)という言葉を示したかった。英語だとYから始まる名詞がヨット(Yacht)か庭(Yard)くらいしかなくてね。もちろんその時感じたもので選んでいたけど。それで色々な言語を漁っている時にバシッときたのがインゲル(Yngel)だった。ブローグ・ヒャータもそれに合わせてスウェーデン語にしてみた」
/そのこころは、ソクラテスか?
「そう言う事。アイロニーがそれをすべて表しているとは思えないけど、どこかにソクラテスの想いが含まれるんじゃないかって考えた。自分の想いを訴え、間違っていないと信じ、生き延びる道があってもそれを拒んだ。世界はそれをどう見たか? 以前は美談と見えたけど、今の私は別のものが見える。自ら死を選ぶことは間違っている。それを訴えた上で大切なものの為に自ら死を選ぶ。矛盾を晒して私に訴えた。お前は生きろ、と」
/俺のも重ねて語ってくれないか?
「幕府は法に従い処罰した。法を定めたのは武士であるはず。徒党を組んで屋敷に踏み込み多くを殺害した。現代ならテロリストと言われ問答無用で逮捕、処罰。しかし、世の中は彼らを称えた。その力に幕府は恐怖した。討ち入りに加担しなかった者たちは酷い扱いを受けた。浪士たちが切腹したことで彼らはさらに称えられる。今までの私はそれを美談と見ていた。多くの物語に心を打たれた。でも、今は別のものが見える。自ら死を選ぶことは間違っている。それが作法とされた時代であっても。この物語と出会う時には矛盾も見逃すな。どんなことがあっても、お前は生きろ、かな」
/もっと、続けてくれ。
「人が生み出す物語には、その人の想いが含まれる。史実を語り継ぐことでも、人々の願いが共に流れる。もしかしたらその中に、私を支えてくれた『何か』に通ずるものがあるのかもしれない。
あなたへ Here's to you
私たちは忘れない Rest forever here in our hearts
最後の瞬間はあなたのもの The Last and final moment is yours
苦しみさえも勝利となる That Agony is your triumph
今日も世界の何かは正しくて Something right is with the world today
みんなが間違ってるのをわかってる And Everybody knows it's wrong
でも、私たちは違うって言えるんだ そして、手を放すことだって出来た
But We can tell 'em No or We could let it go
だけど、私はずっと掴まっているんだ But I'd would rather be a hanging on
過去からずっと続いてきた人の業。それを受け止められるかどうか」
画面はしばらくそのままだった。
/正直に言おう。俺はお前に会いたかった。それが全てだった。
「そう。それで、目の前にした感想は? ちょっと違うけどね」
/お前と友達になれればよかった。ずっと前にな
「はは……そう。じゃあ、そうだな、知り合い以上、友達未満にしておく」
/無理にとは言わないが聞かせて欲しい
「何を?」
/俺はこの街の鋼鉄派を動かして企みを巡らせた。だが、その全てがお前によって潰された。どうやって俺の刺客を見つけていたんだ?
「そうなの? 大して理由があったわけじゃないけど……しいて言えばV2かな?」
/V2?
「私が『ヴィトリオル』から得た力。知っているかもしれないけど、ヴィトリオルと共に生きる力を得た者は独自の力を得られる。言ってみれば超能力のようなもの。そのあらわれ方は人それぞれで日々進化する。それを総称して『毒』と短く呼んでいた。私の場合はヴィトリオルの感覚が嫌なもの、と感じる人々を見分けることができる。それが特に顕著になった。そのあらわれ方もちょっと表現が難しいんだけどね。なんというかこう、ヴィジョンが見えるって言うのかな。例えば、目の前の状況に重なる物語のシーン、セリフや、俳優の動き、音楽や効果音、その時自分がどう思ったか、とかが見えてくる。若干だけど音の感覚が強いからそっちにしたんだ。
The Voices for RE; Vendetta
えーと、スペルは……そう、それ。
例えば、さっきの状況とかもあって今はあれかな、
映画の 時計じかけのオレンジ と
小説の ヴェロニカは死ぬことにした
そういうのが色々とね」
/この RE; というのは?
「私の行動が正しいとみられることがあったとしても、それが絶対に良いことだ、何てことがある筈が無い。どうやっても誰かの報復心に火を点けてしまう。それを覚悟の上で、ということを心に持ちたかった。長い抗争の末の復讐。だけど繰り返したくない。セミコロンがプログラム言語で終わりを示すものだったから、それを入れてみた。そんなところだよ」
/その身体能力なども、V2というものなのか?
「正直よくわからないんだ。私はV2と一緒に生きると決めて、時々声に耳を澄ます。そうしているうちにこんな力が身についた」
/聞いておいて何だが、そんなに話して大丈夫なのか? 俺は敵だぞ。
「そうだね、何でだろう……たぶん、酔っていたんだよ」
/酔った? 酒を吞んだのか? ああ、痛みを紛らわすためにか
「違うよ。愛かな」
/?
「まあ、つまり悪いヴィジョンが見えないからだよ。あなたは、この後に私に贈り物をくれる気がする。それを期待して。言っておくけど、これは賭けだから」
/まあ、その通りだ。休戦を願いに来た。
「休戦? 詳しく聞きたい」
/俺を動かしている連中はお前たちの力の手掛かりが欲しいんだ。だから、お前たちと組んだ上で、連中に俺が必死に戦っているように見せる。そしてわずかに得られる貴重な情報を充分過ぎる対価を貰って提供する。その対価をみんなで分け合いたい、ということさ
「みんなってことは……?」
/鋼鉄派とディープ・スパイダーにもこの企てに参加してほしい。ちょうどお前の下に二人いるようだからな。
その後、部屋の中に渡良瀬さんと不滅を招き、四者で休戦協定を結んだ。
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