第18話 エル・サルバドルもその一つだった

Day Side


 俺たちはガーゴイルの後を追って歩き続けた。あのルドビコという女は鬼卿を……いや、織山実有をのせてブラックスターとやらで駆け抜けていくことも出来ただろうに、俺たちに付き合ってゆっくりと歩いている。ブラックバードという少女のこともあるのだろうか? だが、こいつらの力を考えると、その辺りも問題になるとは思えないのだが。ルドビコは実有とブラックバードをブラックスターに跨らせて進み、時々気にかけている。


「ところで、あんた達」

 ルドビコが立ち止まって話す。


「何だ?」

「これは止む追えず話すわけだから、秘密にすること。後で代償も貰うから」

「何のことだ?」


 ギロリと俺を睨み、続けた。


「エリア5に入ったら、何も触らないこと。特に人間には」

「何故だ?」


 さらに険しい目で睨む。


「あんた達の体は毒喰派にとって危険なの。人によっては触られただけで倒れることもある。だから、本当は入らせたくもない。でも、こういう事情だからいくらかは見逃すしかないけど、人には触らないこと。いい?」

「……ああ。わかった」


 そんなことになっていたのか……ということは、俺たちがやってきたことは、相当に毒喰派を傷つけていたということか? 奴らはそんなそぶりを見せなかった。いや、俺が見ていなかっただけなのか? これは、どうすれば……


「もしも、今までの事が頭を駆け巡っているなら、一旦止めて。その辺は後でしっかり話し合いましょう」

「ああ。すまない」


 思わず謝ってしまった。俺はルドビコの言う通りにして頭を切り替え、歩くことにした。レナードたちも少し戸惑っていたようだ。みんなも今は考えない方が良いんだろう。



 相当歩いたと思う。そこで前を行くガーゴイルが立ち止まり振り返った。


「私の役目はここまでだ。この先を真っすぐ進めば地上に出られる。そこがエリア5の『ヘイヴン』だ」

「ありがとう」


 ルドビコが礼を言って先を行く。俺たちもそれに続く。少し歩いた時俺は道を覚えておきたいと思って振り返ろうとした。すると後ろから声がした。


「後ろは振り返らない方がいいぞ。それに、この道は日々変わっていくからな」


 俺は振り向くのを止めて歩き出す。周りに聞こえない程度の声で「ありがとう」と呟いた。


 俺たちは地上に出た。もう夜だった。辺りを窺いルドビコが呟く。


「ここが……ヘイヴン?」


 どうやらルドビコも知らないようだ。まあ、"G.O."は狭いようで広い。深く潜れば知らないことは多い。俺も鋼鉄派の領域を知り尽くすなんてことは出来ないだろう。


 それにしても、綺麗なところだ。電燈がところどころにあり、派手さはなく眩しくもない丁度良い光の加減だ。


「それで、何処へ行けば……」


 そう呟いたら、地面に光が現れた。青や緑や白に変化する光の玉、それが俺たちの足元から地面の上にいくつも出て来た。


「これを辿れ、という事だろうか?」

「そういうことでしょうね。行きましょう」


 俺たちはそれを辿って進んだ。着いたのは四階建てのビル。脇の階段に光の玉は続いていた。ルドビコはブラックスターから二人を降ろし、実有を抱きかかえて階段を登る。俺たちはその後に続いた。そして二階のドアの前に来た。そこで光の玉は消えた。


「ここに入れということか?」


 俺たちは顔を見合わせた。そしてルドビコが言う。


「私が最初に入る。あなたたちは後ろに」


 俺は頷く。ルドビコは実有を抱えながらドアを開け、中に入る。


 すると、声がした。


「あ、すみません。本日はもう閉店……ちょっ、オーナー!? い、いったい何が……!?」


 その後、問答がしばらく続いた。徐々に部屋の中が騒がしくなり、俺の前のドアが勢いよく開けられた。


「き、き、貴様らぁ! お、オーナーに何をしたぁ!!?」


 部屋の中から妙な格好をした者たちが現れた。おそらく二十代だろうが、こいう格好となると年齢の判断ができない。その内の一人が俺に詰め寄り睨みつける。俺の胸倉を掴もうとしている。その時俺は思い出した。そして咄嗟に動こうとする。だが、両腕が使えないことを忘れていた。急に激しい動きをしたため激痛が走る。咄嗟に口を動かした。


「ダメだ! 触るな!」

「!?」


 目の前の、おそらく女だな。彼女は戸惑い動きが一瞬止まった。だが、その後再び怒りを漲らせて怒鳴った。


「な、何を言うか!? 貴様がオーナーにしたことに比べれば一発や二発や十発殴ったとしても、まだお釣りを出さにゃならんわっ! 敵陣に乗り込んでくるならそのくらいの覚悟は――」

「待って」


 ルドビコが後ろからその女を押さえ、後ろに引きずっていく。


「だ、だって、こいつが……こいつらが、オーナーをあんな目に……! ゆ、許せん……」

「ちょっと待って、って言ったでしょ。実有が彼らをここに連れてくるように言ったのよ。だから彼女が目を覚ますまで休戦ということにして。ちょっと大変だろうけど」

「ふ、ふぬぅ……」


 その後のルドビコの説得により俺たちは部屋の中へ通してもらうことが出来た。どうやらここは、カフェレストランのようだ。、俺たちは店の中で休んでいいことになった。従業員たちの殺気に満ちた視線の中でだが。


 落ち着いた時ルドビコが説明した。俺たちの体質について。そしてお互いの事。さっき俺の前に出て来た女はしばらくの間、顔の様子がおかしかった。

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