第17話 それでも楽園のヴィジョンが消えないんだ
Day Side
助かったのか? だが、なぜだ? 俺を庇う様に立っている子どもを見た。この子は……
<チーフ。聞こえますか?>
「……ああ……」
<すみません。さっきの子どもがいつの間にか消えてしまって。探しているのですが……>
「……その子なら、今、俺の目の前に居る」
<そうですか! よかった……ああ、でも悪い知らせが>
「何だ?」
<我々の脱出ルートだった出口が毒喰派によって塞がれています。他のルートを探そうにも、境界線エリアにはあのデュラハンがうろついている可能性があるので二人では危険と判断しました。チーフたちと合流しようとさっきの地点に向かっています>
「そ、そうか……実はこっちも……」
<どうしました?>
「レナードたちが危険な状態だ。スナイピングポイントに居る奴らを助けてやってくれ……」
<わかりました!>
何故、俺を助けろと言わなかったんだろうか。きっと、目の前の状況が気になったからだろう。それをしっかり見ておきたかったんだ。
俺を庇っていた子どもが鬼卿にむかって歩いていき、倒れた鬼卿の体を撫でている。
「ありがとう。話してくれて」
頭を撫でながら続ける。
「私はもっと聞きたい。だから話してほしい。あなたのことを」
ずいぶんと大人びた話し方。そして仕草も。だが、声は子どものもの。何なんだ、この子は?
「きっと少しは返せると思うんだ。あなたに」
お前は一体……
口に出そうとした時、何かが近づいてきた。レナードたちが居る方角ではない。姿が上手く見えず、あまり音がしない。まさか、デュラハンか?
俺の傍で風が吹いた。そして馬の嘶きと共にそいつの姿が現れた。デュラハンじゃない。首のある馬に、首のある女だ。そいつは鬼卿に駆け寄った。
「実有! 大丈夫!?」
「……ぅ……」
鬼卿はわずかにうめき声を上げた。そして、そいつは俺を睨み近づいてくる。
「毒喰派が地上の出口を見張ってる。もうすぐ地下道を捜索しにくるでしょうね。この子の姿を見たら、きっとあなたたち酷い事になるわ」
「……そうだろうな」
「そっちから攻めて来たんだから、これは自衛の戦闘と言える。でも、鋼鉄派はそれで収まらないでしょうね」
「その通りだな……」
「このままいけば"G.O."は巨大な争いに呑まれてしまう。私に言う資格はないけど、今は言わせてもらう。それは絶対にダメ」
「……俺を殺せば回避できるか? もしそうなら、やるがいいさ」
「ダメだよ」
子どもが言った。
「ブラックバード……」
その子は俺たちを見る。
「きっと実有も、それがわかっていたから力を隠していたんだよ。だから、ここにいるみんなは生き残らなくちゃいけない」
「……」
「……ぁ……」
鬼卿が再び声を出す。
「大丈夫?」
馬に乗って来た女が鬼卿を抱きかかえた。鬼卿は一度俺を見てから女に視線を戻す。
「エリア5に……ヘイヴンがある。私たちの……」
「ヘイヴン?」
「ルドビコには内緒にしていた……色々あって……」
「何の事?」
「ディープ・スパイダーとガーゴイルの力を借りて、"G.O."の地下道を少しずつ改造してきた……私たちにだけわかるように……そして、いずれは鋼鉄派にも……」
「……どうすればいいの?」
「私の……今出せる、最後の力で……ガーゴイルを顕現させる。そして、みんなをエリア5まで案内してもらう。きっと、私は気を失ってしまうから……あとは、これを……」
鬼卿が懐からブローグ・ヒャータを出し、地面に置いた。
「あとは……みんなで……」
ガクッとなって女の腕の中で気を失った。女は鬼卿を抱きしめる。
「また無茶をしたな」
壁から声がした。
「……なんだ……おまえは……」
壁に妙な顔が浮き出ている。そいつはだんだん地下道へ出てくる。そして異形の姿を俺たちの前に表した。
「そいつを貰えるかな?」
女がブローグ・ヒャータを差し出す。
「うむ。お前たちをエリア5まで連れて行こう。道案内をする。もちろん全員な。あっちの連中の手当をしてからでもいいぞ」
こいつらは一体……
疑問が解決に向かう事はないだろう。戻ってきた部下を落ち着かせながら全員の手当をしてもらい、ガーゴイルとやらについて行くことにした。鬼卿に体を貫かれた部下も生きていた。あれで生き残るとは奇跡だな。
とにかく今は歩こう。
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