第16話 まず、自分が何であるのかということです
Day Side
私は倒れた。足に力が入らない。私の体はきっとこの状態に対する抗体やワクチンを作り出す。きっとそれで私の命は保たれる。でも、それには相当な時間がかかる。もうすぐ私に止めを刺しに来るはず。それまでに出来ることは何か……
私の力を『反転』させたなら、その流れに乗ればいい。
生きるため。そして、ブラックバードのためなら。
鈍いナイフとはうまく付き合って来れた
もしかしたら、うまくいくかもしれない。
私は鈍いナイフに手を伸ばす――
Night Side
鬼卿が倒れた。今がチャンスだ。俺はレナードに話しかける。
「とどめを刺してくる。援護してくれ」
「了解」
俺はわずかに残った仲間の中から二人連れて鬼卿に向かった。ナイトヴィジョンで鬼卿を見ながら慎重に近づく。ほとんど動かない。刀を持って倒れたままだ。俺たちは鬼卿の傍らで構える。仲間の二人が俺を制止する。俺は後ろで構えていろ、ということか。二人は拳銃に弾を装填する。例の(NE)と書かれていたものだろう。二人は同時に撃った。
何が起こったかわからない。俺の立っている場所がおかしくなった。目に見える色がおかしい。全身に嫌な感覚が走る。鬼卿を見ると、弾が体に食い込む寸前で止まっている。それが振動を始めた。徐々にそれが激しくなり、粉々になって砕けた。
「がぁっ」
仲間の一人が鬼卿に刺されていた。動いたのが見えなかった。鬼卿は仲間を刺したまま刀を振り回し、俺たちに向けて振るう。俺は吹き飛ばされた。
「ぐっ」
壁に叩きつけられ、地面に落ちる。痛みに悶えながら体制を立て直し、俺は鬼卿に向けて構える。腕を動かし斬撃に備える。だが、鬼卿は刀を振るのではなく、投げた。俺はそれを左腕で弾く。左のガードが開いたところに鬼卿が拳を振るう。俺は顔面を殴られ後ずさった。それから鬼卿はパンチを立て続けに繰り出してきた。俺も拳闘の心得はある。何度も戦ってきた。だが、こいつの強さは何だ? とんでもない威力とスピードだ。これが生身の女の力か? 俺は応戦して押し返す。だが、押し負けている。これはまずい。
俺は鬼卿の拳を受け止め両腕で絞め固定する。そのまま力を込め押しつぶす勢いで力を込める。
「お前は……お前は……」
何か言っている。何だ?
「お前は……泣けるのか……? 笑えるのか……?」
何なんだ?
「私は……泣けない……」
何を言っている?
<不滅!>
レナードだ。俺は力を込めるのに精いっぱいで答えられない。
<そのまま動くな! 俺が撃つ!>
ありがたい。これでどうにか……
そう思った時だ。鬼卿は空いている左腕で俺の腰の拳銃を抜き、俺の側面、レナードたちがいる方向へ向かって全弾を撃った。
悲鳴が聞こえた。レナードが撃つ気配がない。まさか、今ので……全員……
「子どもが逆らえないと知っている親は……子どもを殴る」
俺の腕が持たない。
「しかめっ面をしていたという理由で、殴り、蹴り、首を絞める」
鬼卿の左腕が俺の右腕を掴む。このままでは俺の方が潰される。
「良く出来た時に怒り、何もしない事を褒め、一時間経てば逆のことをする」
右の手首が音を立てて壊れた。部品が露出し、地面に落ちる。
「他人の前で褒め、家では殴る。全てはお前が悪いと言い続ける」
今度は左腕。猛烈な痛みが襲う。
「世の中の悪い出来事は全て私のせいだと言って殴る」
左の手首が壊された。
「その状態が幸せだと言い続けて、笑わせる」
俺の首が絞められた。足で攻撃するが鬼卿はまったく動じない。
「お前を惨たらしい姿にして晒してやる。この姿こそお前たちだとわからせてやる」
鬼卿は俺を壁に叩きつけた。俺は息が出来なくなり悶える。
どうにか視線で鬼卿を捉える。さっき投げた刀を拾い、俺に向かってくる。鬼卿が両腕を上げ、刀を俺に向かって振り下ろす。と思った時だ。
「……?」
鬼卿の動きが止まっている。その時気付いた。俺の前に誰かがいる。
子ども……?
「ブラック……バード……」
そう言って鬼卿は再び倒れた。
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