第15話 まばたき封じのリドロック
Night Side
刀で装甲車を切り裂き不意を突けた。これだけの人数、そして強化された装備、未知の力も同じ。ならば手加減は出来ない。全力で向かう。たとえ殺すことになったとしても。
たじろいた者たちが我に返り、銃を手に私に向かう。私は目を凝らし動く。
相手の視線、体の動き、呼吸のリズム、それらを感じて合わせ、乱す。斬撃と見せて蹴り、蹴りと見せて拳、避けると見せて踏み込む。相手を変え、斬りつけて、跳ぶ。銃撃を誘い、避ける。銃口に合わせ刀を動かす。撃ちやすいポイントを作り、そこで弾く。落ちている瓦礫を掴み、投げる。
それを繰り返していると敵の数が徐々に減り、残った敵も退いていく。私は時間がゆっくり流れるような感覚を味わっていた。この感覚は久々だ。一旦退いて状況を確認しようと思った。物陰へ逃げ込み、敵を撒く。
その時気付いた。デュラハンの気配が消えている。
私はデュラハンの待機していた場所を確認する。離れた場所から様子を窺うと――
「え……?」
デュラハンは消えていた。そしてブラックバードが男と一緒に歩いている。
あの男は……
雪本不滅
はっきりとわかる。あいつだ。
あいつがブラックバードを連れて行く。そんなのは絶対にダメだ!
「待って!!」
私は叫んでいた。
その声を目指して敵が集まってしまった。そして、あいつらは逃げていく。
「くっ!」
私は後を追おうとするが、敵が多く進めない。焦りは腕を鈍らせる。それがわかっていてもブラックバードのことを考えてしまう。どうにか斬り伏せているがいくつもの傷を負ってしまった。やはり、鋼鉄派の武器は……重い。
ふらつきながら奴らの後を追う。どうやらこのエリアの地下道へ向かったようだ。幸い、私はある程度の構造を把握している。奴らが奥の自陣へ逃げる場合のルートは……
「ぬがっ!」
肩に痛みが走った。狙撃か……
だが、痛みの感覚がおかしい。肩だけでなく全身に痛みが回り意識が朦朧とする
なに……これ……
どうにか頭を回す。
新兵器か。この感覚……私のブローグ・ヒャータから……つまり、『反転』させたな。
とすれば……どうにか……
少しだけ視界がはっきりした。そして目を動かす。
見えるぞ。お前たちの仕掛けが。スナイパーにトラップ。私を攻撃しつつ後退か。どうやら私の力を完全には解明できていないようだな。トラップの位置でお前たちのルートを知らせてしまっている。今回は私に運があったようだ。
私はスナイパーを警戒しつつトラップを避ける。避けきれないものは破壊。そうして道を辿っていく。地下道へ入りルートを探る。
ここはガーゴイルに助けてもらいたいところだけど、今は力の集中に時間がかかる。ブローグ・ヒャータを与えて取引できる状態にする間にブラックバードとの距離が開いてしまうだろう。自力で行く外ない。
前方を見る。大丈夫だ。このまま進めば――
「がっ!」
また撃たれた。足に当たったようだ。また全身に痛みが回る。何故だ……その力を顕著に見ることができる力を調整したのに……
さっきと同じように対処療法をする。だが、もう力が出ない。どうする……
Marine Side
まったく恐ろしい娘だ。あれほどの強さを持っていながら全く使っていなかったとは。装甲車が三台大破。残り二台も危ない。退けばそこを狙われる。俺がここから狙撃を――
<レナード!>
「不滅か。どうした?」
<トラブルだ! どうにか乗り切ったが部隊が何人か傷を負っている。どうにか助けてやってくれ>
<わかった>
部下と連絡を取り、状況を把握。仲間の救援にあたらせた。そして俺は彼女に視線を向ける。少し様子が変だ。今までの滑らかな動きではない。もがいているように見える。味方が全員倒された。そして気を抜いたように見えた。今だ!
俺は引き金を引いた。命中。
彼女が悶え苦しんでいる。
やはりこの弾には新しい効果があるようだ。これなら行ける。
二発目を撃とうとした時だ。
「!?」
何か嫌な感じがした。あの娘の周囲に見える何か。それが銃やスコープに伝わり、俺にも伝えた。俺はスコープで彼女を追う。
だが、視界がぼやける。上手く見えない。スコープから目を外すと通常の風景。何か仕掛けられたか?
俺は狙撃ポイントから立ち上がり、地下にいる不滅と合流することにした。
「不滅。俺だ」
<レナードか。どうなった>
「地上に残った部隊は全滅だ」
<くそっ!>
「俺が例の弾を一発撃ち込んだ。ダメージはあったようだが、あいつは怯まない」
<トラップは?>
「あの様子だと、おそらく突破されている。俺が撃ったことでこっちの戦法を見抜いたようだ」
<化け物か!? いったいどんな――>
「どうした!?」
<あ、いや、ちょっとつまづいた。大丈夫だ>
「そうか。とにかくお前たちに合流しようと思う。もう一つ試したいことがある。今どの辺りだ?」
<今は――>
俺は示されたポイントへ向かう。別の入口から入り合流できた。あのダメージなら、鬼卿との距離はまだ広いはずだ。
「何だ? その子は?」
「俺も良く分からない。とにかく保護した。このまま地下道から連れ出してもらう」
そう言って不滅は仲間に子どもを託し、地下道の出口へ進ませた。
「試したいことってなんだ?」
「装備にシールドがあっただろう? (NE)と書かれた」
「ああ、あるな。だが、これは何なんだ? 説明も何も無いぞ」
俺はそれを手に取り答える。
「これはおそらく試作品を多数作った末の副産物だな。使い道がわからないものを誤って紛れ込ませてしまったんだろう。俺の想像通りなら、このシールドの後ろは鬼卿に見えないはずだ」
「そうなのか? まあ、確かにこの暗さなら黒は目立ちづらいと思うが……」
「その点は後で話し合おう」
「ああ」
俺は仲間にシールドを支えてもらい、その間から銃口を突き出す。スコープは通常の装備だ。ナイトヴィジョンでやや見やすくなった。そして見えた。鬼卿がゆっくりとこっちへ向かってくる。それに向けて撃つ。
そして、鬼卿は倒れた。
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