第13話 今、美しい調べとなって私を動かす
Night Side
私はルドビコと一緒に駆け回り続けた。毒喰派のみんなは驚くほどの適応力を見せている。警察組織とエリアの住民たちは、馴れ合いを強めながらも自分たちで身を守るという風土を形成してきた。各エリアでの連携は強まり、それぞれの役割を見つけていく。私はブローグ・ヒャータの増産に集中できた。時々ルドビコが私を抱きしめてくれる。心配をかけてしまってるんだね。申し訳ない。
ちなみに、種以外の素材は毒喰派の領域にあるものを調合して出来ている。木の葉や草、根や花、そしてそれらを育てる水と土。だからそっちは心配ない。方法を教えてみんなにやってもらっている。
でも、どうしてだろう。私たちは危機に瀕している筈なのに、なぜか私は楽しい。ルドビコと一緒に駆け回り、ブラックバードと過ごし、話す。そんな日々の繰り返し。それがとても大切に思える。私が生きていると感じられる。そんなことって……
何度目かの戦闘を終え、鋼鉄派の攻撃が止まった。その時、私は決意した。ブラックバードを渡良瀬さんの所へ連れていくことを。
鋼鉄派の境界線エリア、そのとある場所の地下深く。ディープ・スパイダーの中枢はそこにある。私はブラックバードと渡良瀬さんを引き合わせた。もっと早く連れて来るべきだった。いろいろな事態はあったけど、私はそれを言い訳にしていた。もしも、ブラックバードの素性がわかり、彼女の行き先が決まれば、私からは離れてしまう。それがとても辛かった。でも、それがダメだという事がわかった。それに気付いたからここに来た。これが一番いいんだ。
渡良瀬さんはブラックバードを部屋の一室に入れ、そこで彼女をスキャンしている。仕組みは良く分からないが、これでデータベースやネット上に溢れる写真の数々に検索をかけることが出来るようだ。その後ブラックバードの身体データを記録し、血液を採取した。
「これで大丈夫だ。VRモデルの作成には一週間ほどかかる。それまで待っていてくれ」
「ありがとう」
私は礼を言い。ブラックバードを連れて私の家に帰ろうと歩き出した時だった。
<聞いていますか?>
……?
何か聞こえたような……
私は思わずチェックした。そして気付く。私の頭にはもうインプラントが無い事に。今のは一体……
すると今度はピリリという音がした。渡良瀬さんの方からだ。彼が携帯端末を持って話している。そして私に言った。
「鋼鉄派の部隊が向かってくる。大部隊だ」
私はブラックバードを連れて駆け出す。地上に出た時に私の前方を装甲車がたくさん走っているのが見えた。鋼鉄派の兵士と思われる人間も多数。私の背筋に嫌なものが走る。どうにかしなければ。
そう思った時、私の傍に何かが来た。この感覚を私は知っている。傍によって光喰を開ける。デュラハンが封書を持っていた。それを受け取り開く。
内容は大体こんな感じだった。
鋼鉄派の部隊の侵攻を察知した毒喰派の警備部隊が応戦することを決意。
不意を突いて先制攻撃を仕掛ける模様。
ルドビコやハドソンの制止が効かない。
大規模な戦闘は避けられそうにない。
早くこちらに戻ってきてほしい。
これは、まずい。
まだみんな力の行使に慣れていない。自分たちが得た力がどれほどのものか、どんな結果を産むか考えが及ばない。当然だ。そんなわずかなミスやすれ違いが世界に悲劇をたくさん産んできた。冷戦の状態で均衡を保ち、安定を維持してきたこの街が世界大戦のような状態になってしまうかもしれない。回避するためには……
私は考え、決意した。
私はブラックバードを抱えデュラハンのチャリオットに乗せる。持っていたデュラハン用のブローグ・ヒャータを差し出しブラックバードを守ってもらうよう頼んだ。
「ブラックバード、いい? ここを動かないで。絶対に。このデュラハンならあなたを守れる。危ない時は逃げられる。だから動かないで。いいわね!」
私は返事も聞かずに駆け出した。装甲車の列へ。体に力を漲らせる。鈍いナイフを抜き、跳ぶ。
上空から重さと共に刀を振り下ろし、装甲車の一台を破壊した。
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