第7話 ブエノス・アイレスがブラジルの首都だと思っている外国人も多かった

Day Side


 俺は警官としての仕事をこなしつつ、ハンター稼業の割合を増していった。鋼鉄派のハンターギルドとでも呼べるようなもの。その名は『ブルワー・ザン・インディゴ(Bluer than Indigo)』。そこへ通い仕事を受ける。俺の業績は好調だ。ギルドのトップともコンタクトを取れた。もちろん間接的にだが。この前の金属の塊をしっかり調べろ、と念を押した。その後に特別な報酬を貰った。俺は確信した。あれには何かある。そして鬼卿の正体も。


 俺の存在が重要になったようで、鋼鉄派が俺への捜査に及ぶことは無かった。毒喰派から特別な接触があるわけでもない。ブルワー・ザン・インディゴとディープ・スパイダーの一部が手を結んでいるようで、俺はどうにか守られている。ならばやることは一つ。鋼鉄派としての正義を信じ、毒喰派を黙らせる。


 色々と調べた上でわかったことは、毒喰派の攻撃手段が鬼卿しか無いということだ。毒喰派の者は鋼鉄派の領域で多数の破壊工作を行っていると思っていた。だが、実際には毒喰派の手による犯行は全て鬼卿一人で行われていた。他は鋼鉄派の犯罪を毒喰派の仕業に見せて混乱を煽っていたようだ。ひょっとしたら毒喰派の人間は鋼鉄派の領域に入ってこれないんじゃないだろうか? だが、そんなことは無いだろう。09PDの署長やハドソンという男は48PDまで来ていた。まだ俺の知らないことがあるのか。


 あの金属は『ブローグ・ヒャータ』と呼ばれるらしい。金属の成分が全くの未知のものであり、一体どうやって創り出しているのか謎だそうだ。だが、鋼鉄派の研究者たちは虜になってしまった。新しい発想が次々に湧き、鋼鉄派に役立つ技術が開発出来そうだと喜び勇んでいた。そして、俺たちハンターにはその探索と確保が要請された。報酬も跳ね上がり毒喰派への攻勢は強まった。これは俺の望みだったはずだ。だが、何故か不安に襲われる。何だろうな、これ……


 不安が現実になったかどうかはわからないが、ハンターたちは次々に討伐された。どうやら毒喰派で戦えるのは鬼卿だけではないらしい。では何故他にも攻め込んで来るものが居ないのか? まあ、そこはわからない。俺たちは鬼卿の侵入を警戒しつつ、慎重に攻めることにした。まずは偵察と情報収集。そこにはブルワー・ザン・インディゴとディープ・スパイダーの力が発揮される。ある時、俺はブルワー・ザン・インディゴのトップと話す機会を得た。特別な依頼のようだ。


 通された部屋には椅子とモニターが一つ。その画面には文字が表示される。俺はそれに対して喋って答えればいいらしい。


 /敵の討伐を依頼したい。

「敵って誰だ?」


/正確にはわからないが、ドローンの一種ではないかと睨んでいる。

「ドローン?」


/ある領域で空中からの攻撃が頻繁に起きている。それを始末して欲しい。もしも鹵獲できれば報酬は上乗せだ。

「攻撃の手段は? 俺は飛行機やヘリを飛ばしたことが無いぞ?」


/特別なスナイパーを用意した。その者に対象の位置を知らせて欲しい。彼の持つライフルなら何らかの成果が得られると信じている。手段はお前に任せる。

「なるほど……わかった。受けよう」


 俺は指定された場所でスナイパーと会った。老人だ。

「あんたが……? 大丈夫なのか?」

「心配無い。うまくやるさ。あの娘ともう一度会えるかもしれんしな……」

「?」

 左腕をさすりながら話していた。確かに鋼鉄派の技術で肉体の衰えは十分すぎるほどカバーできる。だが、この男はそれほど機械化しているように見えないが。まあ、カムフラージュ技術も相当なもの、ということかもしれない。今、緩慢な動きをしているのも戦術の一つかもな。俺たちは共に仕事をすることを確認した。

「あんたの名前は?」

「名前は、そうだな……レナードと呼んでくれ」

 そして、俺たちは作戦を練り始めた。


Salt Side


 この街の住人は自らの価値を知らない。それに付け込み利を貪る俺は悪の権化だろうな。だが、今はこうする他に道が見えない。俺を倒しにやってくるものが居れば幸いだ。そこで自分たちの現状を少しは理解できるだろう。


 この街の外、世界は大幅に変わった。今、この世界において生身の体で生きられるのはこの街の毒喰派と呼ばれる者たちだけだ。自分たちの存在がどれだけ貴重か、自分たちがどれだけ強いかを知らない。そして毒喰派に対抗できる強さを持っているのが、この街の鋼鉄派しかいないのだ。外の世界はその事実を知るや否や"G.O."を奪おうと必死だ。今まで知らん顔を決め込んでいたというのに。俺がどうにか先手を打ち、幾つか得られる情報を外へ流した。だが、それでも外の世界にとってはとてつもない価値を持つ『金の卵』だった。俺はそれを条件に金を得、地位を得、権力を得た。日本政府の中枢に食い込むことが出来た。それでどうにか持ちこたえて来たが、外の連中はとうとうガチョウの腹を裂くことに決めてしまった。俺に出来ることはこの街の住人を逃がしつつ、目論見に関わった奴らと共に自爆することくらいだった。


 その準備を始めた矢先だった。『ブローグ・ヒャータ』の存在を知らされたのは。これが新たな金の卵だった。奴らにガチョウの腹を裂くことを思いとどまらせることが出来た。だが、これもいつまでもつか。すでに奴らは俺に『もっとよこせ』と言ってきている。再び自爆への道を歩むことになるのか。


 だが、俺の感覚に妙なものが宿った。俺の手に『ブローグ・ヒャータ』がやってきたのは、俺に『生きろ』と言っているような気がしたのだ。俺に命を捨てる以外の道を探れと言っているように思った。そして、俺はその方法を探している。こんな風に思うのは合理的じゃない。そのはずだが、どこか懐かしい感覚で満たされる。何故だろうな。


 俺の決意は強くなった。あの『アイアン・インゲル』という会社。その中に居る者。そいつに会わなければならない。俺が作った『ブルワー・ザン・インディゴ』と同じ意味を持つ名前。きっと、そういうことだろう。どうにか道を見つけ出すさ。


 俺がうかつにこの街に踏み込めない理由の一つ。それは、この街が地球上でもっとも清らかな場所だからだ。外の世界の人間、元はこの街の出でも外の世界に馴染んだ人間は、この街に踏み込むと体に異常をきたす。手段はこの街を汚すか、俺がきれいになるか、二つに一つ。きれいになるにはやや時間がかかる。ならば、選ぶ道は……


 まるであれだな。確か映画が公開されたのは西暦1984年だったと思う。マンガにはその後の事も描かれていた。





 その人たちは何故気付かなかったのだろう、清浄と汚濁こそ生命だということを。





 俺は、どうする。

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