第4話 いい振動がガティワッツにビンビン来る
Night Side
私は毒を喰らって生き延びた事で少し特殊な力を得た。その土地の自然と交流する力を解りやすく形に出来る。私はその土地が求めているものを提供し、その見返りに私の為に仕事をしてもらう。そんなことが出来るようになった。その他にもいくつかの力を得た。総称して魔術と呼んでいる。これは私が編み出したものでは無い。地盤はルドビコが全部作っていた。私はそれを習いつつ、自分のやり方を編み出そうとしている。まだまだ修行中だ。土地の者たちを精霊と呼んでいる。
『毒喰派』の領域には、ほぼ全て『バンシー』に見回りを頼んでいる。彼女たちが得た情報を基に『デュラハン』が駆け巡り情報に緻密さを増す。そして空中は『セイレーン』と『ハーピー』が見ている。『セイレーン』がほぼ静止して監視、『ハーピー』が飛び回る。それを私とルドビコが整理して情報となる。精霊たちへの報酬が『ブローグ・ヒャータ』というわけだ。だが精霊たちにも得手不得手があった。私とルドビコの力が働いているためにどこか似通ってしまったらしい。鋼鉄派の領域へは『デュラハン』しか近づけない。そして、さらに深い領域へはあちらの存在に頼るしかない。鋼鉄派の領域で私が具現化した存在が『ガーゴイル』。
情報から得られたものは、『エリア48の気配』と『警察官の雰囲気』というくらい。だが、私がもたらす情報は今まで高確率で正解だった。これも警察から信頼を得られた要因。
ただ、少し妙なことがある。『工場』は当然、私にとっての重要拠点だ。バンシーやデュラハンを配置して警戒を強くしていた。鋼鉄派の工作員が紛れ込めば何らかの知らせがあるはずだった。何故感知できなかったのか。私のミスだろうか……?
「そうだな。小競り合いについて話し合うということで、エリア48に行くことにしよう。あそこの署長は俺を目の敵にしているからな、小言を聞いてやるとするか。そこにお前たちも同席できるようにする。それでいいか?」
「充分です。ありがとう」
私たちはエリア48へ乗り込むことにした。
手続きを済ませてアポイントメントを取ってもらう。面会は明日の朝に出来ることになった。私たちは一旦帰ることにした。
ホールの外。私は駐車場の片隅に行く。そして光喰を開ける。
「これをお願い。渡良瀬さんの所へ」
デュラハンに小包と報酬、そしてブローグ・ヒャータを渡し、運んでもらった。
渡良瀬さんは現在、鋼鉄派と毒喰派の『境界線エリア』を拠点にしている。そこで双方に睨みを利かせ、情報の売買や危険な仕事を生業としているわけだ。彼の組織には高精度なスーパーコンピュータがある。さらにちょっとした仕掛けがある。それを使うと私たちが集めた情報を映像として再生できるようになる。それを警察の捜査に活かすために仕事を頼んだわけだ。ちなみに黒井さんと渡良瀬さんは非常に仲が良い。つまり警察と闇社会のあってはならない関係がとても深く根付いてしまっているんだ。
まあ、それはいいか。今はね。
翌日、私はその駐車場で警察の車両に乗り込もうとしていた。だが、ハドソンが手で私を遮った。
「今のうちに準備しておけ」
「あ、うん……」
私は頷き、体に集中する。体を覆っていくのを感じて……
「うん、大丈夫」
「よし」
そう言って私たちは車に乗り込んだ。
私は鋼鉄派の作り出すもの、機械、人工物、それらが生み出す大気や地面の状態、それらに非常に弱い。常に自らの力で覆っていなければ鋼鉄派の領域を歩くことも出来ない。毒喰派として生き、その力を強めて生きようとするほどに鋼鉄派の領域へは近づけなくなる。その度合いの強い者たちを『深い者』と呼んでいる。おそらく私は『最深の者』だろうな。この車のように毒喰派の生活に馴染んでいるものは大丈夫なんだけど、この調子で行くと将来は車も難しくなるかもしれない。
ホール・エリア48に着き、黒井さんについて歩く。その時だ。
「……?」
何かを感じた。少し嫌な何か。でも、それだけじゃないような……その感覚がする方を見る。
(あの男は……?)
視線の先に男が居た。こっちをじっと見ている。私が目を向けると後ろに引っ込んだ。何かが頭に走った。あいつか……?
私は黒井さんとハドソンに追いつき二人に小声で話す。
「(気になる男がいる。調べて欲しい)」
黒井さんは頷いた。
実際48PDの署長との話は殆ど聞いていなかった。私の考えはさっきの男に集中し、どうすれば接触できるかをシミュレートしていた。ホールを出るまでそれは続き、車に乗り込んで脱力。何をやってるんだ、私は。
「ああ、さっきの男だが調べがついたぞ」
「いつの間に? どうやって……?」
「まあ、俺なりの魔術だな」
「へえ……」
私は感心しつつ裏を探り始めてしまう。封書を受け取ってお礼を言う。そして感じた。48PDに、スパイがいるんだね。
封書の中にあったファイルを見る。
雪本不滅(ゆきもと ふめつ)
刑事で、越境捜査権限あり、か。
私の中ではほぼ決まり。お前をマークした。
車が『境界線』に近付いた時だった。
ピリリ、と黒井さんの電話が鳴る。
「はい、黒井です……なに? もう? いや、いいが……うん? ああ……わかった。ああ、受け取るよ……場所は……ああ、わかった」
電話を切ってから運転手に何か話した。
「渡良瀬からだ。昨日の情報の解析が済んだらしい。一部だがな。お望みのものもあるが、少し妙なことになって戸惑っているそうだ。解析したものをメモリーに入れて俺たちに託すと言ってる。今からそれを受け取ってくる」
『境界線』のエリアで車が停まり、黒井さんが外に出る。1分ほどで戻って来た。それからエリア9に帰り、09PDへ。
「これがそうだ。再生するぞ」
黒井さんはメモリーの映像をモニターに映した。
映像の中の一人の男が強調されて写っている。私が精霊たちの力を借りて得た情報を渡良瀬さんがさらにブラッシュアップして、私が見たいものを選んでくれたんだろう。
「この男、やっぱり……」
ホール・エリア48で感じた視線。あの男が襲撃者。このままにしてはおけない。なんとかしなければ。
「それでな、渡良瀬が言いたかったのはこいつのことじゃないようなんだ」
「どういうこと?」
「この男の後ろを見てくれ」
そう言って黒井さんは手元のパネルを捜査する。映像が一時停止して雪本不滅にカメラが寄る。そしてその後ろへ。
「これは……女の子……? この子が何なの?」
少女が映っている。まだ10歳くらいか、もっと幼い。
「このまま続けるぞ」
カメラが引く。そのまま映像が再生されると……
「……後を付けている? この雪本不滅を? なぜ……」
「まあ、そこまではわからなかったんだろう。だから俺たちに託したんだろうな」
そのまま雪本は工場長のいる建物へ向かう。そして少女も後を付ける。雪本が建物に入る。部屋の様子を窺い、一気に乗り込む。少女は後方からそれを見て……
「え……?」
部屋の中の様子を見た少女は、ビクンとなって固まり、数秒後別の方向へ歩き出した。
「何なの?」
そのまま少女は別の部屋に入り、その中にあるロッカーの中に入り込んだ。
それからずっとそのままだった。映像を早送り。時間が経過し、警察関係者が出入りし、私たちが現場を確認する姿もあった。病院の工場長を見舞う前の出来事。という事は……
「……ちょっと、これまさか!?」
「ああ、まだそこにいるのかもしれない!」
私たちは09PDの捜査員と共に大急ぎで建物に向かった。そして例の部屋のロッカーを開ける。すると……居た。
「……大丈夫。呼吸してる」
私は少女に触り、息があるのを確認する。外へ出そうと抱きかかえると……ガシッと私にしがみついてきた。
「ああ……だ、大丈夫……大丈夫だよ……」
とりあえず周りの捜査員にも無事であることはわかってもらえた。このまま09PDにつ入れて行き、どこに託すべきかを話し合おう。
車に乗っている間も少女はずっと私に抱きついていた。かわいそうに。よっぽど怖かったんだね。あの男が暴力を振るうのを見たからなのか。それとも過去に様々な何かが……? あの男が何かの引き金を引いてしまった……? 何にしてもひどい奴。
09PDで私が彼女の体を撫でていると、ようやく目を開けた。
「あ……あれ……あの……わ、わたし……?」
「大丈夫よ。ここは安全だから」
少女は周りを見回してから口をパクパクさせた。
「落ち着いて……って言っても大変かもね。とにかく安心して」
「う……うん……」
それから少女は私をじっと見た。私の目を覗き込む。
「……?」
私もその目を見つめる。深く静かな黒い瞳……そんな印象。なんだろう、この子は? 私は知っているような……彼女が私を知っているような……?
「え、えーと……まず、名前を教えてくれないかな? 私は織山実有。あなたは?」
「私の名前は……名前は……」
少女は私の目を真っすぐ見ていた。そして名前を言った。
「名前は、ブラックバード」
足元が崩れたかと思った。そのままどこまでも落ちていくような感覚。恐ろしい、おぞましい記憶が再生される。そして……
「うおぇ」
私は吐いた。
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