遺された、残された、そのちょっとだけ後からは。/グロリア。



時刻を決めて何かを話すことに意味はあっても

時刻を決めて仮想を物語ることに意味はそれほどない

手触りの違いは生きていくなかで大きな手がかりにはなっても

手触りを仔細に伝えた仮装の衣装にはたぶん意味はあまりない

光の鮮やかさはときに人を感動させるかもしれないけれど

最愛の人を亡くした後の火葬は できればそんなに明るくならないで欲しかった


腕時計がずれた 中の歯車が 鳴らす針音が 刻む世界が

確かだった視界が廻った 中耳が 心音が 足元が わたしを中から掻き乱して

愛より現実的な感情にわたしは葛藤する

でも相談できる一番頼りになる人だけが この世界からぽっかり欠けてしまった


わたしはもうどうにもならないのだね

なんだかそんな気がして来たんだ 笑えないよ

揺らめく炎の奥のほう

見えないはずのオレンジの核を見透かすように

わたしはまだそこに あなたの魂が浮いていると信じたくなってしまったんだ




叩いた壺には何も入っていないだろう ひっくり返せ

ほら何も出てこないだろう これから入れるんだ 悲しみを

摘んだ箸先は何もつかめていないだろう ほら指を開いて

鉛筆を持つように一本 差し込んで二本

そうだ これはあなたが直してくれたんだったよ 想い出した


涙の軌道が逸れた 流す色が 光る筋が 服の染みの位置が

震える背を止めた しゃんと前を向いて これも確か あなたが教えてくれたこと

現実より感傷的な感情に わたしはわざと包まれる

そうしていつも隣にいた人だけが いつも隣にいないことに 慣れていくんだね


わたしはきっとどうにかできそうだよ

なんだかそんな気がして来たんだ お願いだから笑ってね

消え散った火花のひとつ

背景に溶けたオレンジの行方を想像するように

わたしはあなたが間違いなく逝けたのだと 不思議と信じることができたんだ




だけどもしまた泣きそうになったなら

そのときだけはお願いだから きっと遠くで笑っていてね


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