世界があなたを殺さないとしても。



見据えた先は明るいのに 僕の足はそちらを向かない

同じ世界に生きていても 同じ世界で死ねるとは限らない

あなたが飛び込んだ世界は何色ですか

僕はまだ 赤色は見たくないんだ


覗いた底は真っ黒なのに 僕の心は少しも怯えない

同じ仕組みで生きていても 同じものを怖がるとは限らない

あなたが避けたがったものは何だったのですか

それは僕には 埃みたいなものかも知れないよ


生きる理由ばかりだって あなたは言うでしょう

死にたい心ばかりだって あなたは嘆くでしょう

雁字搦めの義務の世界を あなたは耐え抜くでしょう

鳥籠のなかの自由意志を あなたは刺し殺すでしょう


いつまでもあなたでいる方法を知っていますか 知っているでしょう

望みを叶えてごらん

あなたはいまの あなたのまま 時間を凍らせることができるよ

でもそれをしないのは ただ凍らせるのに必要な潜熱が

あなたの心から抜けていかないだけなんだ 周りが暑苦しすぎて


指をかけたビルの屋上の

フェンスは軋んだ 景色は死んだ




頭ごなしに怒鳴るのは あなたを想っているからよ

理不尽に叱りつけるのは 立派な人になってほしいから

あなたを絡め取る嘘は何ですか

それは存外 簡単には砕けないでしょう?


頬をはたくのは 痛みが効果的だから

お腹に拳を沈めるのは あなたは子供なんて産まないだろうから

心無い言葉で殺した心は何個ありますか

それはわりかし 視界を邪魔してくるでしょう?


ぶちのめしたい人はいないって あなたは言うでしょう

唯一挙げるとするならば私だと 迷わず答えるでしょう

雁字搦がんじがらめの罵倒の嵐を あなたは聞き流すでしょう

でもその痛みはいつか あなたを引き裂くでしょう


いつの日か自由になる方法を知っていますか 知っているでしょう

願いを叫んでごらん

あなたはいまの あなたのまま 生きていくことはできないよ

でもそれをしたいのは ただ発散する捌け口が

自分の手首以外にないからだけだ 周りがやかましすぎて




明後日もあなたは生きている 確証があるよ あなたは死ねないよ

一昨日もあなたは生きていた 理由はそれだけだ

惰性でつなぐ命はすこぶるつまらないよね

でも終わらせるに値する何かは 残念ながらまだ当分来そうにないんだろう


義務を果たした暁には世界にどうもありがとう

私は飛び立ちます あるいは落ちていくのかな 堕ちていくのかな

責務を全うしたならば世界にさようなら もう追いかけてこないで

私は飛び降ります それから落ちていくのだね 真っ逆さま 風に乗り


責務を押し付けたあなたは 私をどれだけ想ってくれていましたか

歪んだ愛情もどきは 愛していたけど要らないよ


その感情を否定したくはないんだ 私は不幸でなく 幸せだった

でもそれは人を思いやるわけでも 信じているわけでも少しなくて

私が皆様方と 同じになりたくないだけなのかもな なんて

愛情もどきを振りまいた誰かの それを偽善だと糾弾するなら

私はその誰かと同じレベルで 誰かを不幸せにしてしまうでしょう?


そんなのは真っ平御免なんだよ


いつまでもあなたでいる方法を知っていますか 知っているでしょう

望みを叶えてごらん

あなたはいまの あなたのまま 時間を凍らせることができるよ

でもそれをしないのは ただ凍らせるのに必要な潜熱が

あなたの心から抜けていかないだけなんだ 周りが暑苦しすぎて


覗いた底は真っ黒なのに 僕の心は少しも怯えない

同じ仕組みで生きていても 同じものを怖がるとは限らない

あなたが避けたがったものは何だったのですか

それは僕には 埃みたいなものかも知れないよ


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