許嫁たちの告白合戦
勇海は放課後の教室にて、エルフの生徒会長ミリィから相談事を持ちかけられていた。
「こ……告白シーン? 演劇部の?」
相談事の内容を勇海が反復すると、ミリィは頷きながら詳細を口にする。
「はい。《亜人》は基本的に女性しか産まれませんので、この学園は結果的に女子校同然です。そのためか、男女の恋愛に疎い子ばかりで……特に告白シーンの感覚が掴めず、困っているらしいのです。そこで、この学園で唯一の男子たる
「そ、そうなのか? いや、でも……実際どうなんだ? 皆が〝問題児〟と呼ばれてても、イイ子だっていうのは知ってるけど……告白とか、恋愛話については詳しいのか?」
「ふふっ、御心配なく……問題ないということを、私が証明しますよっ。そう――」
自信満々の笑みを浮かべたミリィが、びしっ、と人差し指を立てて言い放つ。
「私が今から、勇海ちゃんに――告白することでっ!」
「え。……え、えええっ!?」
突拍子もない事を言い出したミリィに驚く勇海だが、ミリィは止まらず続けた。
「まあまあ、演技ですから、演技っ♪ 気楽に楽しめばいいんですよっ」
「! そ、そっか……そうだよな。気恥ずかしいのは確かだけど……変に意識するほうが、よっぽどおかしいよな。よしっ……分かった、どーんと来いっ!」
「……まあ私は、本気にされちゃっても、いいんですけどねー……」
「ん? ミリィ、ナニか言ったか?」
「……いえいえ、何でもありませんー。ふふっ、では、さっそく――」
こほん、と一つ咳払いしたミリィが、〝告白シーン〟に臨もうとする――が。
「―――ちょっと待ったぁーっ!」
「!? なっ……あ、アナタは、エイミさんっ!?」
割って入ったのは、誇張なしに黄金色の輝きを放つ美少女ドラゴン、エイミ。
彼女の〝ちょっと待った〟コールを受け、ミリィは戸惑いながらも言葉を返す。
「エイミさん、なぜここにっ……まさか、今の話を聞いていたのですか!?」
「いや、ここ教室だし、イサミと一緒に帰ろうと待ってたから普通にいたし。むしろなぜ聞いてないと思ったのか、不思議だぞ」
「はっ、しまった、誤算です。夢中になりすぎて、勇海ちゃんしか目に入っていませんでした……うーん、不覚!」
「ふっ、イサミしか目に入らない心境には共感できるが……甘いな。〝告白シーン〟など……イサミの正妻と呼んで過言ではない私が、放っておくはずないだろうっ!」
絶対の自信を露わにするエイミは、さすが地上最強の種族、《金竜》の《竜人》とでも言うべきか。
しかし更に、艶やかな赤毛のサイドテールを持つ美少女まで名乗り出る。
「話は聞かせてもらったわ! アタシを差し置いて、面白そうな話してるじゃない。……ま、まあアタシは、恋愛とか? 興味、ないですけど? ……け、けど、たまには付き合って上げてもいいかなーとか……いや別に、勇海に告白してみたいとかじゃ――!」
ちょっぴり意味不明な言い訳を続ける彼女は、《ゾンビ》の亜人たるアン。
更に更に、大人しいことに定評のある《スライム》娘、来夢まで加わってきて――
「しょう……こともなし……」
「来夢さん、キャラぶれ気を付けてくださいねー!」
ミリィに注意される来夢だが、彼女もどうやらやる気満々のようだ。
勇海の〝許嫁〟たる四人が揃い踏み、睨み合う中――言いだしっぺのミリィが叫ぶ。
「わかりました! では、誰が最も勇海ちゃんの心を震わせるか――告白合戦ですっ!」
「ふんっ―――受けて立つ!」
堂々と応じるエイミ同様、アンと来夢も文句はないらしいが――当の勇海はといえば。
「えっ。……えっ、ナニが始まるんです? おーい、皆……皆ーっ!?」
ただただ困惑するしかないが、暴走気味の〝問題児〟女子達が止まることはない。
まず、まさしく〝問題児〟筆頭たる美少女ドラゴン・エイミが勇海の前に立った。
「ふふっ、イサミ……私達のラブラブっぷり、見せつけてやろうっ。近寄るモノ悉く、
「エイミ、何やるか分かってる!? 告白の演技だぞ!?」
「もちろんだっ。ふふっ……任せておけ、イサミっ♪」
堂々たるエイミの様子に、傍から見ているアンと来夢も焦燥を隠せない。
「くっ、いきなりエイミとはね……こう言っちゃ悔しいけど、強敵ね……!」
「た、確かに……エイミさんは普段から、勇海さんにアタックしてますからぁ……手馴れたものですよね、あぅ……」
彼女達の懸念の声を背に、勇海の前に立ったエイミが一つ咳払いし、
「こほん。……それじゃいくぞ、イサミ。えっと……告白、告白だな。うん。………」
「え、ああ、告白の演技だけど……ん? エイミ、どうかしたか?」
「………………」
勇海の言葉を受けながらも、暫し無言だったエイミ。だが、すぐさま顔を上げ、真っ直ぐ視線を合わせつつ、大きく息を吸い込んでから――
「す……すっすすすっ、すっすすっすっす」
「早々に崩壊してないか!? エイミ、大丈夫かエイミーっ!」
「ふ、あうぅ……い、いざ告白、ってなると……なんか、胸の真ん中らへん、ぶわーって……溢れ、ちゃって……っ! ぅ~……すっ……すす、す、すっ……す、ぅ……」
自信が溢れすぎてパンクしてしまったのだろうか、勇海も思わず心配になるほど顔を真っ赤にするエイミだが、彼女はギリギリで一言だけ絞り出した。
「しゅ……しゅきぃ…………あぅっ」
「えっ……うおっ、エイミ!?」
ふらっ、と前のめりに倒れそうになるエイミを、慌てて受け止める勇海。地上最強の《金竜》娘も、告白シーンの緊張を前にしては無力だったらしい。
ゆっくりとエイミを近くの席に座らせた勇海に、休む間もなく立ち塞がったのは。
「はんっ、エイミも大したコトないわね――そこで指をくわえて見てなさい。このアタシの……アン=デッドレイズ=ミリアード様の演技力をね!」
「そのノリ、どうしても続けたいワケ!? 俺、まだ微妙に乗り切れてないんだけど!」
軽く置いてけぼりの勇海だが、ばっちりノっている来夢とミリィは、アンの動向を緊張感たっぷりに見守っている。
「次はアンさん、ですね……けど、大丈夫なんでしょうかぁ……?」
「うーん、彼女は素直じゃないですからね……いつものようにツンツンしてしまうようでは、難しいかもしれませんね」
エイミの時とは別の意味で懸念を呟く二人、だが――意外な事に、アンは胸の下で腕組みしつつ、はっきりと良く通る言葉を放った。
「勇海――アタシね、アンタと出会えたコト……本当に、感謝してるの。アタシはいつも、素直じゃなくて……思ってもいないコトばかり、口走っちゃうけど」
「えっ……あ、アン?」
「ねえ、聞いて。アンタと出会えたあの日から、アタシの中で、何かが変わったの。自分のコンプレックスさえ、好きになれる気がしたわ。そうして、アタシを変えてくれたアンタが……鈍感すぎるけど、誰よりも優しい、アンタのコトが……」
深呼吸をし、アンは、全ての思いの丈を籠めるように言った。
「大好きよ―――たとえこの身が朽ち、滅び果てても、この想いだけは永遠だわ」
「! あ……アン……」
その場にいる誰もが息を呑み、これが演技である事を忘れそうになるほどの、迫真の言葉――なのだが、勇海にはどうしても、気になる事があった。
「あの、アン……その、ちょっと……聞きたいんだけど」
「……何かしら」
「え、えっと。……何でこっち、全く見ないんだ?」
そう、アンは腕組みした直後から――誰もいない、あさっての方向に顔を向けていたのだ。辛うじて見えるのは、教室に差し込む夕陽の色か、真っ赤に染まった頬と耳だけ。
全くこちらを見ようとしないアンに、勇海は根気よく呼びかける。
「お、おーい……えっと、告白シーンの演技だし、さすがにそっぽ向きっぱなしっていうのはさ……いや、顔真っ赤だし、体調悪いなら休んでも――」
「っ……あーもうっ! わかったわよ、見ればイイんでしょ!? だ、だからぁっ……!」
「お……おおっ? いや、そんな無理しなくても……」
勇海の気遣う言葉を遮り、アンは真っ直ぐ目を見て告白しようとする――が、しかし。
「あ、アタシは、アンタのコトがっ……す、すすっ……!」
「あ、ああ。………」
「す、すっ……す、す、すっ……~~~っ!」
あと一言、いや一文字、というところで――アンの取った行動は。
「いっ――言えるかっ、ばかあぁぁぁっ!」
「あ、アン!? どうしたんだ、アーンッ!?」
「うるさいっ、くんなっ、こっち見んなぁ! う、うう~~~っ……」
自分の机に顔面を突っ伏し、アンは完全に拒否体勢に入ってしまう。
そんな彼女に勇海が首を傾げていると、水色に潤う髪の持ち主が勇海の前に立った。
「え、えっと……あ、アンさんも、口ほどにもない……ですね? わ、わたしが、《スライム》でもやればできるということを、見せてあげ……あっ、見せてやるぅ、です?」
「別に無理しなくてイイんだぞ、来夢!? いや最初に出てきた時も変だったけど!」
こんな妙な事で無理して欲しくはない勇海だが、告白シーンについてはやる気十分な来夢を見て、ミリィと――どうやら気を取り直せたらしいエイミが言葉を交わす。
「むむ、来夢さんですか……普段は気弱で、おとなしい方ですが……」
「正直……未知数だな。まあ私のイサミが、私以外に虜になる事なんて、万に一つもありえないだろうが……な、ないよなっ?」
「あ、あの、勇海さんっ。その……いつも、ありがとうございますっ。わたし、気弱で、臆病で……そんなわたしを、いつも救ってくれて……」
「いや、そんな大したコトじゃ……俺が、したくてしてるだけで――」
「そ、それでも嬉しいんですぅ。だから、わたし……わたし、勇海さんをっ……」
よく見れば、緊張のためだろう、来夢の肩は小刻みに震えていた。
普段は気弱な彼女が、勇気を振り絞り、祈るように握っていた両手を握りしめ、体を膨張させ―――――膨張?
『勇海さん、ヲ――とりこみたいほど、スキナンデスー! ぷるぷるー!』
「え。……え、えええっ!? な、なんだなんだー!?」
何と来夢が、その身を軟体化させ、急に覆いかぶさってきた。
勇海には、彼女の状態に覚えがある――《スライム》の亜人ゆえに、水不足になると暴走するのだが、まさか。
「来夢――いつも持ってる水筒は!? まさか、忘れて……そういえば、最初に変なコト言ってたのも、この予兆……っ!」
『ぷるん、ぷるん……えへぇ……いさみさん、ズット、イッショ……ぷるる~』
「くっ……待ってろ、来夢。水、を……ぐっ!」
来夢の暴走を抑えるため、勇海は水を探しに行こうとするも、軟体化した来夢の体に呑み込まれかけていて動けない。
どうすれば、と焦燥する勇海――だが、その時ミリィが。
「えいっ、水召喚~」
『ぷる――ふえっ。……あ、みゃっ――ぷ、ぷるるーーーんっ!?
……あ、あれっ?』
ミリィのワープ魔法で呼び寄せられた大量の水が、来夢の頭上に降り注ぎ――ばしゃーんっ、と勇海ごと彼女を濡らし、暴走状態を収めてみせた。
「あ、あれ、わたし……まさか、また暴走を!? はっ……い、勇海さんっ!?」
「あ、ああ。来夢、平気か?」
「わ、わたし、また、また暴走をっ……あ、あわ……あわわっ……」
「だ、大丈夫だって。ミリィが水を出してくれたし……そうそう、ミリィにお礼を――」
「う、ううっ……ごめんなさい、勇海さん~~~っ!? ミリィさんも~~~っ!」
「ら、来夢!? ホントに大丈夫だからなーっ!?」
勇海が言葉を重ねるも、耳を塞いでうずくまってしまった来夢には届いていない気がする。
気にする必要ないのに、と考える勇海の前で、先ほど来夢と勇海を助けた、エルフの幼馴染ミリィが、不敵な笑みを浮かべてみせた。
「ふっ……皆さん、甘々です。コーヒーゼリーのように甘々ですね、全くっ」
「コーヒーゼリーは言うほど甘くないんじゃないか? いやモノによるだろうけどさ」
「いいでしょう……勇海ちゃんの幼馴染たるこの私が、格の違いを見せてあげます! 本当の告白というものを――ご覧に入れて差し上げますよーっ!」
話を聞かないにも程がある乙女達。真剣な表情で観戦していたエイミと、彼女同様に復活してきたアンが語り合う。
「ミリィ、か……ふんっ、私の敵ではないっ。……と、言いたいところだが……」
「幼馴染……確かに強敵ね。勇海も何だか、ミリィに対しては安心して接してるような節があるし……告白シーンなんて、簡単にできちゃうかもしれないわ」
強敵の予感に肌の粟立ちを覚える二人に、ミリィは確かな余裕を感じさせる、いつも通りの朗らかな様子で勇海に近づいた。
「うふふっ、勇海ちゃんっ♪」
「お、おお? あ、始めるのか。こ……こほんっ。どうしたんだ、ミリィ?」
「うっふっふー。えーっと、ですねぇ……今から、えっとー、んー……勇海ちゃんにー……ん? えーと、ですから……あ、あら?」
何やら雲行きが怪しくなってきた。
いまいち要領の掴めない言葉を繰り返すミリィが、〝あら? あれ?〟と繰り返しながら続ける。
「え、っと、ですから……えっ、な、なんで……向かい合うと、言えなく……う、ううっ」
「み、ミリィ? アンにも言ったけど、別に無理せず――」
「みっ!? い、いえっ、言えますっ……言いみゃふっ! あ、あの、あにょっ……!」
もう既に言えていない気はするが、それでもミリィは告白を強行しようとする。
その結果。
「い、いしゃみひゃんっ! わ、わらひっ、むかしからいさみひゃんがだいしゅ――ふ、ふにーっ!?」
「み、ミリィ!? 舌噛んだのか!? し、しっかりするんだーっ!」
――ちょっとした事故を引き起こす事となった。
「……やれやれ、誰も彼も不甲斐ない……やはり一番は、私だったな」
小さく呟いたのは、エイミ。しかしすぐさま、否定の声がアンから上がる。
「はあっ? ナニ言ってんだか……〝しゅきぃ〟なんて体たらくで、良く言えたわね? どう考えても一番は、ちゃんと告白したアタシでしょ」
挑発的なアンに、けれど来夢まで、横から口を挟んできた。
「い、いいえっ、ちゃんと顔を見て言えないんじゃ、告白じゃないですっ。そんなの……独白ですぅ! そ、それよりも、わたしのほうがちゃんと――」
「何を言う。暴走して勇海を取り込もうとしただけで、告白できてないだろう?」
すぐさまエイミに否定され、むっ、と来夢は口を噤む。
ぴしり、空気が凍ったように張りつめ、暫く睨み合っていた三人は――エイミ、アン、来夢と、順番に大声を放つ。
「いいだろう――お前達の勘違い、《金竜》の力尽くで正してやるッ!」
「ふんっ、面白いじゃない――《ゾンビ》の力、侮るんじゃないわよっ!?」
「わ、わたしだって――《スライム》だって、負けませんっ。ぷるぷるーっ!」
三者三様、今にもぶつかりそうな三人に、ミリィが焦燥しながら立ち上がる。
「! い、いけません、このままでは……くっ、こうなったら――!」
「え? み、ミリィ、どこ行くんだ!? ……って、あれ? すぐ帰ってきた……?」
教室を出ていったミリィだが、勇海も拍子抜けするほどあっさりと帰ってきた。
しかも、すぐ外にいたのだろうか、何やら三名ほど女生徒を引き連れていて、
「――告白三銃士を連れてきましたよ!」
「告白三銃士!? ……えっ、ナニそれ……いやホント、ナニそれ!?」
「「「? ??」」」
勇海も戸惑っているが、衝突寸前だった三人娘も呆気にとられ、止まっている。
そんな全員の注目を浴びながら、ミリィは告白三銃士を一人ずつ紹介した。
「もふもふクーデレ狼少女、
「うっすー、よろしくー」
「反則級のおっぱい鬼、
「がんばるわ~、よろしくねぇ~」
「処女厨のくっころユニコーン娘、
「私をオチみたいに使うな! くっ……殺せ!」
ユニは何やら憤っているが、どこへ出しても恥ずかしくないオチである。
そんな彼女の怒りは、まあ置いといて、《
「さて……いーさみっ。ルゥを放って、楽しいことしているな。寂しいぞ、るるる……」
「えっ……い、いや!? そういうワケじゃ……けど、その、ごめんな――」
「じょーだんだ。ま、せっかくだから……ルゥも告白の演技というの、してみるか」
「へ? る、ルゥまで? っと……お、おおお!? ルゥ、な、ナニをっ!?」
ぷにっ、と両手の肉球で勇海を押し、椅子に座らせたルゥは、何とそのまま、彼の膝の上に陣取った。
戸惑う勇海に構わず、クールな目をいつもより柔らかく開いたルゥが、至近距離で目を合わせて口を開く。
「ルゥは……いさみのこと、大好きだぞ。……ホントに、好き好きだ。ルゥは孤高で、かっこいーけど……けど、だからこそ、いさみのこと……大好きだ」
「! 孤高の意味は相変わらず分からんけども……る、ルゥ」
「いさみはいつも、ルゥに……かまってくれるし、イイにおいだし、な。……ふ、なんだか、照れ臭いな……ちょっぴり、はずかしい。るるる……」
「……る、ルゥ……う、っお!?」
言い終えてから、珍しく頬を赤らめ顔を背けようとするルゥは、まさに意外な伏兵。
だが、ついときめきかける勇海を、今度は《
「もぉ~、私だって勇海くんと、告白シーンしたいわ~。ね……勇海くん? 私も勇海くんのこと、好きよ~。だからぁ~……」
「! か、カナ子さん……?」
向かい合わせになって抱いてくるカナ子が、ほんわかと柔らかい笑みを浮かべ――濡れた唇から紡いだ言葉は。
「――抱・い・て?」
「―――ぶーーーっ!?」
貞操観念ガン無視の爆弾発言に、勇海も思わず息を吹き出す。
ほんわかとした微笑みが、一気に蠱惑的な笑顔に早変わりしたような気がした。
この状況を許す訳にいかないのが、生徒会長たるミリィだ。
「ちょ――鬼怒川さん、何を仰ってるんです!? 駄目に決まっているでしょうっ! だ、だ……抱いて、なんて……ずる……いえそんな破廉恥、許しませーーーん!」
「え~? 勇海くんからも、ぎゅっ、てしてほしいのに~……ダメなんて、寂しいわ~」
「紛らわしくないですか!? あの言い方で、やらしい意味ゼロなんてアリです!?」
「? 良く分からないけど~……も~、残念~……」
しゅん、と落ち込むカナ子の腕から力が抜け、あっさりと解放された勇海。彼が降り立ったのは、偶然にも、天を衝く一本角を持つユニコーン娘・ユニの目の前で。
「……はっ!? い、勇海殿……え、ええと、そのっ」
「え……ひいっ、オチ要員!?」
「い、勇海殿までそんな事を言うなっ! くっ……あ、いや、その……こほんっ」
いつもの『くっ、殺せ』が出そうになったユニ。だが――何やら居住まいを正し、凛々しい騎士の如く、勇海の前で背筋を正した。
告白シーンを、やるつもりだろう。しかし《くっころユニコーン》と周囲に囁かれ、空回りする事に定評のあるユニだ。一体どうなるか……と思いきや、彼女はその場にひざまずき。
「勇海殿――貴殿の、人を救わんとする姿勢、困っている人を放っておけない優しさ……私は、その人柄に敬意を示す。いつしか、この心……惹かれてしまうほどに」
「……ユニ?」
「勇海殿、貴殿の事を……いいえ、あなたの事を。そう、私は……いいえ」
俯けていた顔を上げ、天を衝く一本角よりも真っ直ぐな視線と声が、勇海に向けられ――
「一角ユニは、あなたの事を――お慕い申し上げております」
「!? ……っ!?」
その言葉を受け、勇海は自身の心中に巡った衝撃を、そのまま素直に口にした。
「い、意外にも――まともだっ!? しかもアンみたいに顔を逸らしたりもしてない!?」
「い、意外とはなんだ意外とは! 何だかさっきから失敬だぞ、勇海殿!?」
「いや、ホントに面食らったっていうか……ほら、ユニって見た目、凛々しくて綺麗だし、ドキッとしてさ。演技って分かってても、思わず引き込まれそうになったよ」
「! き、綺麗だなどと、そ、そんな事……ふひ……こほんっ! ……まあ、これくらい当然だっ。ふふーんっ、これでこの私が勇海殿の心を揺さぶった事は疑いない――」
これ以上ないほどのドヤ顔を見せるユニ、だが――そこでエイミが反論の声を上げた。
「――いいやっ! 認めない……私は認めないぞ! 常日頃からボケ倒してるユニコーン女が、たまにマトモな事を言ったからって――それで今までの〝くっころ〟が帳消しになるかっ! むしろガッカリだあっ!」
「な、なにをう!? というか別に、普段からボケてなどいないっ! ええい、その勘違い、全員まとめて正してやるっ! 取り消せぇー!」
「わーわー!」「がるるー」「ぷるぷる!」「そいや」「そいや、そいやっ!」
〝問題児〟のクラスメイト達が入り乱れ、騒然とする教室内。
とはいえ暴力をふるったりはしていない辺り、お祭り騒ぎのようなものだった。
しかしそんな情景を目の当たりにし、生徒会長たるミリィは、勇海の横で恐々としながら呟いた。
「そ、そんな、なぜこんな事態に……一体、一体何がいけなかったのでしょうっ!?」
「いや、嬉々として火に油を注ぎに行ってたようにしか見えなかったけど!? 告白三銃士とか言ってさ! あーもう、これじゃ告白シーンなんて……ん?」
そういえば、と勇海は今さらながら思う事があり、ミリィに尋ねる。
「あのさ、ミリィ……演劇部の子に頼まれた、って言ってたけど……そもそも、どんな演劇をやるんだ? いや、告白する子の心情さえ分かればイイのかもしれないけど……内容とかにも合わせたほうが、やりやすいんじゃないかな、ってさ」
「え? あ……そう、そうですよねっ。さすがです、勇海ちゃんっ。えーっと……」
言いながらポケットに手を突っ込んだエイミが、折りたたまれていたプリントを取り出し、書かれている内容に目を走らせる。
「これ、演劇部の子から渡されてたんですが……相談を受けて急いで来ちゃったせいで、私もまだ見てなくて。えーと、題名はですねぇ……ふむ、ふむ。……ん~……」
軽くうなったかと思いきや、なるほど、と微笑んだミリィが、勇海へと題名を明かす。
「花さかじいさんですね」
「告白シーンねーよ!」
一体何をどこで間違ったのか、誰にも知る由はないのだった。
ドラゴン嫁はかまってほしい スペシャル短編 ファンタジア文庫 @fantasia
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