最終話 ヤンキーオタクで何が悪い!



「今日か……」


 俺、本山高明は今日、東京へ旅立ちます。




「高明、準備できたか?」

「もうちょい待って」


 忘れ物がないかを最後に確認して、身だしなみをチェックする。


「よし! オッケー!」


 すべて確認し、問題はなく上着を着て、カバンを背負う。


「親父! 準備出来たー」

「じゃあ、そろそろ行くか」

「ああ」

「裕也に行ってきますって言ったか?」

「あっ」

「言ってこい」


 親父に、そう言われ俺は、裕也の部屋に向かった。


「裕也。起きてるか?」

「うん。起きてるよ」

「入っていいか?」

「いいよ」


 裕也に入室を許され、部屋の扉を開ける。


「どうしたの? お兄ちゃん」

「いや、親父が行ってきますって言ってこいって言うから言いにきた」

「そーゆーことね」

「ああ。そんじゃ、裕也。行ってくるわ」

「うん。いってらっしゃい」

「行ってきます」


 俺は裕也に別れの挨拶をして、部屋を後にした。


「お兄ちゃん。頑張ってな」




「済ましたか?」

「ああ。ちゃんと言ってきたよ」

「まだ時間はあるけど、そろそろ行くか」

「そうだな」


 俺と親父は、親父の車に荷物を乗せ、車に乗り込んだ。


「シートベルトしろよ?」

「わーってるよ。それぐらい」

「どーせ、お前のことだから、自分の車でもシートベルしてなかったんだろ?」

「……よくお分かりで」


 なんでバレたんだ。いや、俺だったらわかりやすいか。


「親父は、今日ついてくるんだっけ?」

「ああ。高明1人だけに任せると、部屋が荒れ放題になりそうだからな」

「失礼な。そんなことには……なるかもしれん……」

「だろ?」


 く、悔しいが言い返せない。


「泊まってくのか?」

「いや、次の日も仕事があるから、日帰りだよ」

「ご苦労なことで」

「お前が1人でしっかりやれればこんなことにはならなかったよ」


 ホントに失礼な親父だな。


「それより高明」


 親父の声色が先ほどの少しふざけた感じから、真面目なものに変わった。


「オレのエロゲを頼むな」

「貴様は息子が旅立つ時までそんなことをヌカすのか」


 ホントクソ親父だな。


「いや、それはしょうがないだろ」

「なにもしょうがなくねえよ!」

「まあ、冗談はこれぐらいにして」

「ホントに冗談だったのか?」

「……」

「コイツ……」


 なんで、こんなのが俺の親父なんだ。まあ、嫌いじゃないけどさ。


「まあ、こっから真面目な話をするが、メシはしっかり食べろよ?」

「そんぐらいわかってるさ」

「いや、お前の場合、めんどくさいって言ってメシ作らなくなりそうじゃん」


 ありそうだな。


「まあ、でもさすがに作るさ」

「そうか? それならいいんだが」


 地味に心配症だな。


「あと、東京は変な奴が多いだろうから、ついていっちゃダメだぞ」

「大丈夫。基本外に出る気ないから」

「いや、出ろよ」


 やだよ。めんどくさい。


「まあ、なんにせよしっかりやれよ。学校にはしっかり行くように」

「わかってるって。さすがに東京にまで行ってバックれはしないから」

「ならいいが」


 親父と話していると、いつの間にかバスターミナルについていた。


「親父。先に降ろしてくれるか? アイツらが来てるからさ」

「わかった」




「よう。すっしー」

「おはよ。高明」


 バスターミナルには、お馴染み瑠と、たーちゃんが来ていた。


「よう。寿司屋」

「あれ? 青山さんも来てくれたんすか?」

「ああ。一言だけ言いにな」


 まさか、青山さんまで来てくれるとは思ってもいなかった。


「寿司屋。あんま時間無いから、もう言うな。東京行っても頑張れよな!」

「……あんた、ホントに青山さん?」

「最後の最後でひどい奴だな!?」


 だって、いつもの青山さんだったら、俺のことディスってくるはずなのに、素直に見送りとか。


「なんか、影で考えてます?」

「なんも考えてないわ! まったく。それじゃ、そろそろ行くわ」

「はい。ありがとうございました」

「おう! ホント頑張れよな!」


 そう言って、青山さんは去って行った。てか、パトカーで来たのかよ。あの人。バカなんじゃないの?


「青山さんって頭おかしいよね」

「田中。それは言ってはいけない」


 そうだぞ。瑠。思っても心の中だけにしとけ。


「てか、最後なのに全然しまんねえな」

「当然でしょ。だってボクたちだよ?」

「そうだぞ。すっしー。今まで何を見てきたんだ?」

「あー、ごめん。俺が悪かった」


 最後に少しでも期待した俺がバカだったわ。コイツらとしんみりなんかできるわけねえな。


「それよりも、ホントに行っちまうのか? すっしー」

「当たり前だろ。ここにきて、行かないなんて、詐欺だろ」

「でも、ボクからしたら詐欺の方が嬉しいかな」

「瑠……」


 まさか、ここでフラグが立つのか! 遅いよ神様! もうちょっと早く立ててほしかったよ!


「いや、立たないから」

「最後の最後まで、俺の思考読むのな……」

「それがボクの役割でもあるからね」


 いや、どんな役割ですか……


「すっしーが東京か。遊びに行くからな!」

「あっ、結構です」

「いや、なんでだよ!」


 だって、コイツ遊びにきたらうるさくなりそうなんだもん。


「あっ、瑠はいつでも来てくれていいからな。むしろ来てくれることを推奨する」

「ひどいぞ! すっしー!」


 とまあ、冗談はここらへんにして。


「今日で、お前らとバカやるのも一旦最後か」

「そうだね。まさか、このメンツに一旦とはいえ、終わりがくるなんてね。ボク、予想もしなかったよ」

「我もだ。まさか、ここから誰かがいなくなるとはな。しかも、すっしーがオタ学校に行くとは」

「おい。オタ学校言うなや」

「だってそうでしょ?」


 いや、そうだけどさ。そんな風に言われると、なんかこう。ね?


「高明、友達できるの?」

「……自信ない」

「ないんだ!?」

「すっしーとは違う人種しかいないだろうからな」


 ねえ? あなたたちは見送りに来たんだよね? 俺を不安にさせに来たんじゃないよね?


「まあ、なんとかなるだろ。たぶん」

「そこたぶんじゃ、ダメじゃない?」

「まあ、すっしーもオタクだから、問題ないだろ」


 珍しい。たーちゃんが慰めてくれるなんて。


「明日は、雪でも降るのかな?」

「最後まで我への扱いはひどいのね……」


 いや、そこ変えちゃったらすべてがおかしくなるからな。


「てか、すっしー1人で行くの?」

「いや、今日は親父がついてくるよ」

「あのハゲてる?」


 瑠。それは言っちゃあかん。


「じゃあ、すっしーの親父さんどこにいんの?」

「今、車置きに行ってる」

「そっかー」


 なんて話をしていると、親父が車を置いてきたのかこちらに来ていた。


「どうも。高明の友達かな?」

「あっ、はい。高明くんの友達の田中瑠です」

「同じく、白田洋昭です」

「どうも。高明の父です。今日は見送りかな? ありがとね」

「いえ。そんな」


 地味に瑠もたーちゃんも礼儀はしっかりしてるのが腹立つな。


「高明。もうバスついてるから、先にオレは中に入ってるわ」

「了解。すぐに行くよ」

「そんなに焦らなくていいからな」

「おう」


 そういうと、親父は荷物を持ってバスの中へと消えていった。


「もうバス来てたんだな」

「そうみたいだね」

「いよいよ。すっしーとの時間も無くなってきたな」


 たーちゃんの言葉により、見たくない現実を見る事になった。そうだ。俺は今日で、コイツらとは別々の道に進むのか。


「時間が迫ってるのに未だに実感が湧かねえや。俺」

「ゆーて、我もない」

「ボクも」

「こりゃ、俺が行くまで誰1人実感わかないやつだわ」

「「同感」」


 締まんねえなー。まったく。まあ、俺ららしいけど。


「たまには連絡しろよ? すっしー」

「お前は俺の親か」

「いや、近況報告とかしましょ」

「そうだよ? 高明」

「わーったよ。ちょくちょく連絡はするわ」

「してこなかったら、ボクたちの方からするからね?」


 それはそれで、ご褒美だな。用もなく瑠の声が聞けるし。


「彼女とかできても報告だからね?」

「できるわけねえだろ」

「いや、すっしーそう言って作ったりするから信用ならん」


 いや、今の俺に彼女なんかできるかよ。3次元には興味ないんだからさ。


「まあ、彼女のことは期待せず待っててくれ」

「わかったよ」

「すっしーは、我を置いてかないち信じてるぞ?」

「はいはい」


 そうして、とうとう別れの時間が訪れた。


「もうそろ、時間だから行くわ」

「ん。じゃあ、頑張ってきてね」

「サンキュー。瑠」

「絶対遊びに行くからな! すっしー!」

「はいはい。わかったよ。たーちゃん」

「そんじゃ、行くわ」

「ああ。すっしー! パイp……」

「たーちゃん」


 俺はたーちゃんの言葉を遮り、言葉を重ねる。


「それは言わないどこう」

「……そうだな。また近いうちに会うだろうしな」

「そういうことだ」


 そう俺たちはそうせまた、近いうちに会うことになる。だから、別れの挨拶は必要はない。するとすれば。


「再開の約束でもしようぜ」

「……そうだな」

「うん。高明の言う通りだね」

「じゃあ、せーので言うか。せーの!」





「「「パイ○ンは言いません。また逢いましょう!」」」





「じゃ! 行ってくるわ!」

「おう! すっしー! 頑張ってこいよ!」


 ありがとな。たーちゃん。お前に会えて楽しかったよ。絶対に遊びに来いよな!


「またね! 高明!」

「ああ! またな! 瑠!」


 ありがとう。瑠。お前とは中学からの付き合いだもんな。お前と会えなかったら、たぶんつまんなかったよ! ありがとう!


「行ってくるわ!」

「「いってらっしゃい! すっしー(高明)!!」」


 そうして、俺たちは再開を約束し、別れ、俺は東京へ旅立った。




「いい友達を持ったな。高明」


 出発したバスの中で、親父が不意に俺に声をかけてきた。


「あれがいい友達なのか?」

「いい友達だろー。お前のために見送りまできてくれるんだから」

「まあ、そうかもな。いい友達かもな」


 アイツらをはたから見れば、普通の人は悪い友達というかもしれんがな。


「それにしても、高明があの友達と別れて、東京に行くとはな」

「まあ、俺も少しは夢みたいなものを追いかけてみようかと」

「何をバカなこと言ってんだか」


 おい。クソ親父。そこは普通息子の夢を応援するところだろ。


「まあ、でも叶えられるといいな」

「まあ、ほぼ100%無理だと思うけど、足掻いてみるさ」

「お前、ホントにヤンキーか?」

「俺は、自分のことをヤンキーとは思ってない」


 こんな真面目なやつ、ヤンキーなわけないだろ。


「どの口がいってるだか。どっからどー見たってヤンキーだろ」

「人を見た目で判断しちゃいけないって言うだろ?」

「お前の場合は、見た目も中身もヤンキーだろ?」

「違う! 俺は断じてヤンキーではない!」


 絶対違うはずだ! ……違うよね?


「まあ、そんなことはどうでもいいけどな」

「どうでもよくはないだろ! まあ、ちょっとはヤンキーかもしれんが」


 しょーがないから、少しだけ認めてやろう。俺はヤンキーだ。


「で、俺がヤンキーってのがどうしたんだよ」

「いやさー」


 親父は一旦俺の方を見てから、はあっとため息をついた。この人失礼すぎやしません?


「なんだ。俺になんか文句あるのかよー」

「いや、文句はないんだけどさ」


 そういうと、親父はまた一呼吸おいて、こう言った。


「ヤンキーがオタクの学校に行くなんて、世も末だなーって」


 このクソ親父は……


「言わせんなよ。」


 こちらも一呼吸おいて、その言葉を言う。





「ヤンキーオタクで何が悪い!」



                             FIN……?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヤンキーオタクで何が悪い! ことぶき ツカサ @tukasa0417

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ