第39話 地元との別れを惜しんで何が悪い!



「ついに明日か……」


 俺は、つい最近高校を卒業し、東京にある専門学校へ進学を決めた。そして、ついに明日。俺は東京へと旅立つ。


「まさか、すっしーが東京に行くことになるとはな」

「まったくだよ。ボクも予想外だったよ」

「いや、俺だって予想外だったよ」


 今は瑠とたーちゃんと、いつものスーパーでは無く、俺んちの近くにある公園にいる。……たーちゃんはズボンを履いてない状態で。


「まって。なんでいつも瑠はツッコんでるじゃん。なんで、今日はツッコまないんだよ」


 そう。いつものツッコみ役の瑠が今日は機能してないのだ。


「なんかめんどくさくなっちゃって……てへ☆」


 よし。許そう。理由かわいいから。ん? なんか文句あんのか? あ?


「田中。YA☆RA☆NA☆I☆KA☆」

「だっぷん。死んで」

「酷すぎィィィィィィィィ!」


 なんか、この会話だけ見てるとたーちゃんが変人に見えるな。あっ、元からか。


「そんなことより、たーちゃん寒くないの?」

「ぶっちゃけ寒い」


 いや、そうでしょうね。なんせ3月の夜中なんだから。


「てか、そんなことより俺の地元とのお別れをさせてくれよ!」

「あー、そういえばそんな用事あったね」

「いや、むしろそっちがメインだから!」


 忘れないでよ。瑠たん。


「つっても、地元とのお別れなんて何やんだよ」

「それは、俺らがいつもやってることでお別れって言ったらアレしかないでしょ」

「めいぼう?」

「えっ? 今の言葉に出して言っちゃうの? そこは黙って頷いてカッコよくいくとこじゃないの?」

「すっしー、何言ってんの?」


 ダメだ。コイツらにロマンを求めた俺がバカだった。


「まあ、瑠の言った通りだよ。お世話になったところに手あたり次第めいぼうしたあと、パイ○ンを言って帰る」


 これが俺流の、お別れの仕方だ。


「まあ、我ららしいな」

「そうだね。ボク達らしいね」

「よっし。じゃあ、瑠の車でレッツゴーだ!」

「「りょーかい!」」




 まずやってきたのは、猿山だ。ここにはよくお世話になったものだ。


「サルども! お別れを言いに来てやったぞ!」

「はっはっは! 今一度我らのしょんべんを飲ませてやる!」

「じゃあ、イッくよー!」


「「「イグニッション!!!」」」


 俺たちは、自分のアソコから出てくる溢れる欲望を惜しむことなくすべて、猿山に放出した。


「ひゃ~、やっぱ猿山でするしょんべんは気持ちいいな」

「ああ~、ち○ぽが気持ちええんじゃ」

「だっぷん。言い方がキモイ」


 この猿山にも何度しょんべんをしたんだろうな。


「さて、ここの用事も終わったことだし、次に行くか」

「そうだね。じゃあ、高明。あの言葉を」


 瑠に言われ、俺はいつものあの別れの言葉を猿山に告げる。


「猿山! パイ○ーン!」


 そうして、俺は猿山に別れを告げた。




 次に来たのは、いつもお世話になっている交番だ。


「どもっすー」

「あれ? 寿司屋たちじゃん。なんか用か?」


 俺たちを出迎えてくれたのは、この前遊んで以来会ってなかった青山さんだった。


「高明が明日、東京に行っちゃうんでお別れの挨拶をしにきたんです」

「なに? 寿司屋なんかしたの?」

「いや、飛ぶんじゃないんですけど……」


 この人、俺のことなんだと思ってるんだよ……


「冗談だよ。それで本当はなんで東京行くんだ?」

「すっしーの分際で、東京に進学するんすよ」

「はあ? 寿司屋の分際で生意気な。寿司の修行でもすんのかよ」

「何言ってんすか。一応小説書くつもりなんすけど」

「はあ!? お前が小説書くの!?」


 この警官失礼すぎるだろ。


「俺でも書けるかもしんないじゃないっすか」

「まあ、そうだな。何? 作家にでもなるの?」

「いや、そこまでは考えてないっすね。なれたらラッキーみたいな?」

「すっしー、そんな感じで学校行くんか……」


 いや、こんなヤンキーが作家になれると思うのかよ。無理? 黙れよ。少しは夢みさせろ。


「そんなことより、お別れの挨拶に来たんでしょ?」


 さすが瑠。本来の目的を思い出させてくれてありがとう。結婚しよう。


「ごめん。彼女いるから無理」


 うん。俺もそこまで本気じゃなかったよ? てか、なんでわかんだよ……


「まあ、いいや。んじゃ青山さん。今までお世話になりました」

「おう。東京行っても頑張れよ」

「はい! それじゃ、パイ○ーン!」

「おい! 警察の前で下ネタいうやつがあるか!」


 俺らは、青山さんに別れの挨拶をしたあと、一目散に逃げた。だって、こんなことで捕まったらシャレになんないもんね。


「まさか、ホントに、ポリの前で下ネタ言うとは思わなかったよ……」

「それは我も思った……」

「いや、絶対パイ○ン言うって決めたんだから言うに決まってんだろ」


 俺は言ったことは必ずやる男だ。……自分ができる範囲でだけどね。




 次に俺らが来たのは、誰もいない俺と瑠の母校である中学校だ。


「ねえ。ここいよいよ我関係ないんだけど」

「俺に関係するとこに挨拶に来たんだから、たーちゃんが関係ないとこもあるさ」

「ボクはまだ関係あるから問題ないけどね」

「でも、ここで瑠に会って、ここに通ってる時にたーちゃんと会ったんだから、一概にたーちゃんも関係ないとは言えないだろ」


 ホント、すべてはこっから始まったんだよな。


「まあ、確かにな。その時はまさか、ここに通ってる中学生と我が遊ぶとは思わんかったよ」

「俺だってそうさ。お前に会わなかったらヤンキーなんてやってない。いや、俺はヤンキーじゃない」

「まだそんなこと言ってるの? 高明」


 俺は絶対に認めんぞ。誰がヤンキーだ。


「まあ、そんなことよりさっさと始めよう。すっしーもあんま時間無いしな」

「そうだな」


 さて、お世話になった母校に精一杯の感謝を込めて下ネタを贈ろう。


「おちー○ぽ! おまー○こ! クリ○リス! 今までお世話になりま○こ! ありがとうございま○こ!」

「なんか、はたから聞いてると酷いね」

「我もはたから見ればこんな感じなのか」


 なんか2人が言ってるが気にしない。


「では、また逢う日まで! パイ○ーン!」


 よし。これでオッケーだ。残るはあと1か所だな。


「すっしー、次はどこに行くんだ?」

「わかるだろ? アソコだよ」

「ち○このことか?」

「だっぷんは1回死ねばいいと思うよ」


 瑠の言う通りだ。なんでこんな人間の屑がのうのうと生きているんだ。まったく。


「なんで、そんなに我への扱い酷いの? すっしーは今日最後なんだから少しは優しくしてよ」


 なぜ俺が優しくせねばならんのだ。俺が優しくするのはアリスたんと瑠たんだけなのだ。


「たーちゃん。俺はお前に優しくするつもりはないよ」

「そんなにはっきり言うの!?」

「ボクも優しくするつもりはないなー」

「田中に言われるのが1番キツイ……」


 まあ、そうだろうな。瑠なんていつも、にこにこしながら人をディスってくるから尚更タチが悪い。1番心にくる。だって見た目女の子みたいだから、女の子にディスられてる気がするんだもん。


「なんで、瑠は男なんだろう……」

「世の中を恨みたくなるよな……わかるぞすっしー。田中が女だったら100%犯してた」

「訂正。やっぱ、高明も死になよ」

「なんで俺まで!?」


 やめて! そんな屑を見るような目で俺を見ないで! 新しい扉が開いちゃいそう! うん。自分で言ってて気持ち悪くなってきた。


「そんなことより、次が時間的に最後のポイントでしょ? 早く行くよ」

「「あいよ」」


 瑠の言葉により俺たちは、最後のポイントに向かった。




「やっぱ、最後はここでしょ」

「まあ、我らのことを考えたら当然だな」

「むしろここに来なかったら、高明を蹴飛ばしてたね」


 なんでなの? 今日に限って瑠が冷たいんだけど。


「ここには今までの我らの全てがあるからな」

「確かに。気づいてみればずっとここにたまってたね」

「それも、俺は今日で最後になるのか……」


 そう。最後に別れの言葉を言いに来たのは、俺たちがいつもたまっているスーパーだ。


「なんか感慨深いものがあるな」

「高明……」


 俺らのすべてはここにあった。ここにはどんな日でも集まって、バカをした。主にたーちゃんがだけど。


「今日で最後って思うと、結構寂しいものだな」

「まあ、このスーパーは東京には無いからな」


 たーちゃんの言う通りだ。このスーパーは全国チェーンじゃない。ローカルのスーパーなので、東京にはないのだ。


「全国チェーンになんねえかな」

「さすがにそれは無理でしょ」

「逆に全国チェーンになったら、ボクはこのスーパーでたまるのを辞める」


 なにその無駄なこだわり。


「でも、本当にここには世話になったよな」

「そうだな。絶対に我らを出禁にしなかったもんな」

「いつもだったら、すぐに出禁になってただろうね」


 まったくだ。ここのスーパーだけは俺たちを出禁にしなかった。そこだけは本当に感謝しなきゃな。


「今日でこのメンツでここに集まるのも一旦、最後になるのか」

「ボクはまだ実感ないけどね」

「我だって同じだ。また明日もなんだかんだ、ここに集まるんじゃないかって思うよ」


 俺だってそうさ。明日も昼に起きて、夜になったらここに来るんじゃないかって思ってるよ。でも、実際は今日で最後なんだよな。


「高明、時間大丈夫なの? 明日、早いんでしょ?」

「まだ大丈夫だよ。だからあと少し思い出にふけっていたい」

「すっしー……」


 俺ららしくないな。こんなにしんみりした雰囲気は。


「とりあえず、しょんべんしたくなってきたから、しょんべんしていい?」

「今の発言で、全部台無しだよ……」

「まあでも、そっちの方が我ららしいじゃん」

「……確かにね。てか、さっき猿山でしょんべんしたばっかじゃん」

「しゃーないじゃん。したくなったんだもん」


 我慢は体に悪いんだよ? だから俺は我慢なんかしない。


「ラストしょんべんだー」

「ああ^^~最高に気持ちええんじゃ」

「2人ともキモいよ……」

「いいんだよ。これが俺らの形なんだから」


 ふざけて、バカして、怒られて、笑って、めいぼうして。これが今まで俺らが積み上げてきたものだ。……碌なもんじゃねえな。


「さて、しょんべんもしたし、そろそろお別れしますかな」

「もうそんな時間か。これですっしーと会うのも明日でとりあえず最後か」

「なに? 明日も会うの?」

「高明の見送りに行くに決まってるじゃん」

「あっ、そうだったのね」


 全然そんなこと考えていませんでした。


「じゃあ、とりあえずここにお別れ言うか」

「そうだね」

「じゃあ、すっしー。頼んだ」

「りょーかい」


 いざ、言おうって思うとあんまし言葉が出てこないな。


「高明?」

「すっしー?」


 2人が痺れをきらしてきたな。てか、はえーよ。もうちょっと待てよ。


「はあ。今までありがとうございま○こ! それじゃあ、また!」

「「「パイ○―ン!!!」」」


 そうして、俺は、俺たちは最後の夜に今までお世話になったこのスーパーに別れを告げた。これで明日、俺は東京へ悔いなく旅立てる。


「んじゃ、俺らも今日は解散するか」

「そうだな」

「じゃあ、明日バスターミナルで会おうね」

「「ああ」」

「それじゃ」

「「「パイ○ン!」」」


 俺ら、今日だけでパイ○ン何回言ったんだろうな。まあ、いいや。


「明日で最後か」


 俺、泣かないよな? 大丈夫かな? まあ、泣いたら泣いたでいいか。


「さて、帰って我が家でする最後のオ○ニーして寝るかな」


 そうして、俺たちは今日の幕を下ろした。

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