大阪なんて、そんな大したとこじゃない
綾部 響
我々のひらパー
「なーなー、ヨシ君。大阪ゆーたら何?」
祐希は俺の顔を覗き込むようにして、本当に唐突な質問を投げ掛けてきた。彼女の話はいつも突拍子なく、そしてなんの脈略もない。
「大阪か……大阪と言えばやっぱりユニバーサル・スタジオ・ジャパンじゃないか? 後は……繁華街の梅田と難波は有名だよな。他には道頓堀は聞いたことあるし、大阪城と海遊館……そんな所じゃないか?」
俺は思い付く限りの大阪に関する観光地を上げ連ねた。こうして口にすると、商業都市と言われる大阪にも見るべき所、行くべき場所が多々あるのが解る。
しかし裕希はその答えがお気に召さなかったのか、項垂れたまま首を振った。
「なんだよ……あ、じゃあ最近出来たって言う、エキスポシティって一大施設か?変わった観覧車やら面白い施設も充実してるって話じゃないか」
しかしその答えにも裕希は首を振った。すでに大概の大阪に関する観光スポットは上げたはずであり、俺には他に思い付く場所はなかった。
「……ひらパー……」
「……は?」
最初俺は、彼女が何を口にしたのか解らなかった。何やら呪文のような、少し変わった言葉だったからだ。
「ひらパーやん、ひらパーっ! 大阪ゆーたら『ひらパー』やでっ! そんなん大阪人やったら常識やでっ!」
ガバッと顔を上げた裕希は、俺でも引くくらい力の籠った顔を向けてきた。いや、常識と言われても……。それに俺は大阪人ではない。
「大阪人やったら、遊園地は? って聞かれたら間髪入れず『ひらパー』って答えるくらい、大阪では一番有名な遊園地やねんでっ!」
大阪人だったらの話を幾らされても、大阪人でない俺には理解できない。
「でもUSJより有名なテーマパークなんて他にあったんだな……知らなかったよ」
俺も日本各地の有名な場所を網羅している訳じゃない。余り耳にする機会はないが、関西人である祐希がそう言うならばさぞかし有名なテーマパークなのだろう。
「……は?」
しかし俺の言葉に、裕希はこれ以上ないと言うくらいムカつく顔でそう口にした。それは俺を馬鹿にしたような、蔑んだような、思わず手が出そうになるほどの表情だった。なまじ可愛らしい祐希がそれをやると、心底侮辱された感覚に襲われる。
「……テーマパーク? ちゃう、遊園地や」
裕希は溜め息でも付こうかと言うくらいの声音でそう溢した。いや、実際溜め息混じりだった。
「ど……どう違うんだ?」
ヒクつく頬をなんとか抑え込み、俺は極力平静を装って問い返した。実際二つの違いが俺には良く解らない。
「テーマパークなんて、そんなコジャレた
全くもって説明になっていないが、どうやら祐希……いや、関西人にとって「ひらパー」は、何やら特別な遊園地らしかった。
「……つまりあれだな?地域密着型の遊園地って事か?」
全国的に有名かどうかは知らないが、俺が知らなくて祐希には当然と言うことはそう言うことなのだろう。
「そうやでー。大阪人やったら一回は行ったことあるし、もーずーっと営業してる由緒正しい遊園地なんや。ぽっと出のUSJなんかとは格がちゃうわ」
満足気で得意気な彼女は、どこか偉そうにそう語った。……しかし、USJ関係者が聞いたら只じゃおかない物言いだな。
それに「ひらパー」なる遊園地がどれ程の老舗かは知らないが、今となってはUSJの方が全国区だ。彼女にどれだけの思い入れがあるかは知らないが、どちらが有名かは言うまでもない。
「ほんま、解ってない奴が多すぎるで。大阪の京阪沿線に住んでたら、『ひらパー』なんか当たり前やっちゅーのに……」
まず京阪と言う言葉が俺には解らん。沿線と言うくらいだから私鉄なんだろうが……。そして何が当たり前なのかも俺には解らない。
「園内に色んなアトラクションがあるし夏はプール、冬はスケートリンクって一年中遊べる様になってるけど……」
ここで祐希の顔がパァーッと明るくなる。どうやら何かを思い出している様だ。
「色んな子供向けイベントも、『ひらパー』独特でおもろいんやでーっ! 子供向けキャラクターやらアニメのイベントは勿論、少し前までは『大菊人形展』って大人が喜びそうなイベントとかもやってたりなー……一回行ったけど……綺麗やったなー……」
少し前までと言うと、今はやってないのだろうか。規模は良く解らないが、確かに菊人形と言うのは今時珍しい。それを聞いた俺でさえ、少し見てみたい気になったが残念だ。
「まー……それほど大阪の人にとって『ひらパー』ってのは特別なんだな」
俺がそう言うと、彼女は満面の笑みを浮かべて頷いた。
「そうやでー! なんてったって、京阪には駅まであるくらいやからな!」
成る程、専用駅まで作るとは随分な力の入れようだな。そこだけ聞いても「ひらパー」が大阪人の誇る遊園地だと窺い知れる。
「しかし……変わった名前の駅なんだろうな……『ひらパー駅』なんて」
俺はそれを想像しながら祐希に言った。日本全国を見渡しても、そんな駅名は余り無いだろう。
「……は?」
しかし彼女から返ってきた言葉と向けられた表情は、再び俺をムカつかせるに十分な威力を持っていた……。
大阪なんて、そんな大したとこじゃない 綾部 響 @Kyousan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます