あの場所。

@railwayconcierge21

第1話

 私の好きな街の真ん中には大きな公園がある。

 

 川に挟まれたその公園は木々に囲まれており、その木々達は季節に応じた姿を見せ、木漏れ日を楽しむかのように人々が集う場所となっているのだけれど、その街の規模から考えるとこの公園の規模は大きすぎる。正直言えば違和感しかない。ただ集う人々もその公園の大きさや姿、成り立ちをなんとなくは理解していて、「そういうものだ」と考えている節がある。私もそうだったから。

 

 私の好きな街は様々な印象を持たれている。平仮名で書くと優しいイメージがあり、漢字で書くとその地域を代表する場所。そしてアルファベットや片仮名で書くと世界的にも日本的にも心がモヤモヤとする名前になる。

 

ひろしま、広島、HIROSHIMA、ヒロシマ。

 

ある時を境に軍都とよばれ、ある時を境に世界に二か所しかない出来事を象徴する名前となり、ある時を境に野球で熱狂する真っ赤な人達が集う街の中心になった。その街のど真ん中に大きな公園、平和記念公園がある。

 

 元々は……という話は色々な本が出版されていたり、検索すればそれなりの回答が出てくるので詳しい成り立ちを説明するのは割愛するけれど、とにかくこの街の規模からすると不自然なぐらいに大きい。そして、この公園にはこの場所にいた人々を想う記念碑が沢山ある。

 

 有名な「折り鶴を掲げた少女」の記念碑から北へ少し進んだところ、電停からは少し遠い場所にあるし、あの建物からもかなり遠い。だから人が多く赴くようなところではない。そこに小さな塔と草生した塚がある。ここにいた人、ここに誘われた人、ここで最期を迎えた人、名も無き人もいれば、名もある人もいる。数多くの人々がここで安らかに眠っている。

 

 この街へ訪れた際、私はここに出来る限り立ち寄る事にしている。

 

 「来ました」

 

 夏の暑い日。この場所に訪れた時、たまたまなのかもしれないが周囲に人がいなかった。青い空、白い雲、灰色の塔、草の緑。それだけが私を包み込むようだった。

 

手を合わせ、この場所にいる幾万人の人々のことを想う。この世界に生かされている生き物のひとつとして、この場所で様々なことを考える。蝉の熱い声、短い時間なのに流れゆく汗、全てが私に問いかけてくる。


でも結論は出ない。考えすぎているのかもしれないし、考えていないのかもしれない。結論を求めるためにこの場所へ来ているのか、それともこの場所に行きたいから来ているのか。

 

 「また、来ます」


いつもこの言葉で私はこの場所から立ち去っている。

 

 この公園を出て、電停からチンチン電車に乗り、広島駅に向かう。今年のこの街の人々はなんだか笑顔の人が多い。電車から降りると一塵の風が吹いた。

 

「またきてのぉ」と言っているかのように。

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