第6話 五月とメイドの残暑ざんしょな日々

 全く売れない作家・五月乃月ごがつのつきとそのメイド・愛糸めいと

 これはふたりの、とある日常をつづった物語、四作目です。

 今年も猛暑、皆様いかがお過ごしですか。


「五月様、今日のおやつはかき氷ですよ。何味がいいですか?」

「ん、イチゴ味」

「かしこまりました」

「エアコンの 効いた部屋で かき氷 この一時の 幸せよ」

「ちっちゃい幸せですね」

「ちっちゃい幸せが積み重なって、大きな幸せになるんだ」

「では、小説の原稿ができあがったというちっちゃい幸せはどうですか?」

「それちっちゃい言うな」

「てへ」

「書けたよ」

「それは何より」


 毎度続く漫才のようなこのやりとり。

 五月家は今日も安泰です。


「ところで五月様、今夜小学校で盆踊りですよ。行かれますか?」

「んー、どうしようかなぁ」

「行きましょ、行きましょ。浴衣着て」

「んー、でも暑いしなぁ」

「陽が落ちれば少しは涼しくなりますでしょ」

「んー」


 五月先生、たまにはめいとさんとお出掛け、いいじゃないですか。

 激近の小学校ですけど。


「たこ焼き、食べたくないですか?」

「たこ焼きねぇ」

「チョコバナナもあるかもしれませんよ」

「チョコバナナ……」

「そ。チョコバナナ」

「……行く」

「あい。浴衣、用意いたしますね」


 五月先生、チョコバナナに釣られました。

 さすが、お子ちゃま舌。


       ☆  ☆  ☆


 ドドンがドン、カタカッタ……。

 ドドンがドン、カタカッタ……。


「五月様、始まりましたよ。参りましょ」


 めいとさん、楽しそうですね。


〈チョッコバナナ、チョッコバナナ〉


 五月先生、お囃子に合わせて心の中で唱えています。


「五月先生、メイドさん」

「あ、八百屋のスズキくん、こんばんは。お友達と来ているのですか?」

「うん。父ちゃんと母ちゃんも来てるよ」

「またたこ焼き係ですか?」

「そう。あ、こないだ、サトルから暑中見舞いのハガキがきたよ」

「ふぇ。わたくしのとこにはきてないです……」

「友達、たくさんできたってさ」

「それは良かったです」

「メイド、町会長さんがいるぞ。挨拶に行こうか」

「わたくしは結構です」

「なんだ、まだハロウィンのこと根に持ってるのか?」

「スズキくん、ヨーヨー釣りやりましょう」

「いいよ」

「まったく、どっちが小学生なんだか……」


 確かに。

 はしゃいだ後ろ姿を見ていると、めいとさんの方がよっぽど小学生らしいです。


 ドドンがドン、ドドンがドン……。


 お、盆踊りが始まりますよ。

 五月先生、めいとさんも踊っています。

 掘って掘って、また掘って。

 担いで担いで……あ、失礼いたしました。


「メイド、チョコバナナない……」

「そうですか、残念ですね」

「チョコバナナ……」

「諦めてたこ焼きだけ買って帰りましょうね」

「チョコバナナ食べたい……」


 おふたり、踊りながらする会話じゃないです。


「今年のスイーツはチュロスだよ。生徒のアンケートで決めたんだ」

「ですって」

「チョコバナナァーッ!」

「お家に帰ればチョコもバナナもありますから。一緒にお食べになればいいです」

「えー、カラフルなトッピングがないじゃん」

「青のりとごま塩付ければいいでございましょ」

「んなもん付けたらまずいだろ!」

「知りません」

「ぶー」


 おふたり、もうやめましょ。

 スズキくんが失笑してますよ。


       ☆  ☆  ☆


 次の日。


「五月様、今日のおやつは……」

「チョコバナナッ!」

「まだ言ってるのですか?」

「どっかに常設してる屋台ないかなぁ……」

「ないと思いますよ」


       ☆  ☆  ☆


 カキカキ、カキカキ……。


 おや、めいとさん、珍しく書き物しています。

 やけに一生懸命ですね。


「メイド、何してる?」

「暑中お見舞いのハガキを書いているのでございます」

「へー、イラストまで手書きか」

「あい」

「パソコンで印刷すればいいのに」

「こういう時節のご挨拶は、手書きのほうがいいのでございます」

「……これは黄色い太陽か?」

「ひまわりです!」

「えーっと、メイド?」

「なんでございますか?」

「これから出すなら……残暑見舞いなんだけど……」

「ふぁ!」


 はい、そうですね。

 暑中見舞いを出すなら八月六日くらいまでです。

 立秋を過ぎたら、残暑見舞いです。

 

「パソコンで印刷しようか……」

「……よろしくお願いいたします」

「お礼はチョコバナナでいいから」

「カラフルトッピング買ってきます」

「イチゴ味のチョココーティングもね」

「あい……かしこまりました」


 こうして五月先生は、やっとこチョコバナナを食べられましたとさ。

 おしまい。

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五月(ごがつ)とメイドの〇〇な日々/番外編・短編集 五月乃月 @gogatsu_notsuki

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