オークの魔石

 翌朝、僕たちはオークの巣に向けて出発した。

 一度通った道だ、すんなりと道を辿る。

 途中、オークを見つけたので倒しながら進んだ。

 森を抜け、洞窟に至る。

「ハイスさん、リート。用心して進みましょう」

「はい」

「ああ」

 僕を先頭にして、リートをはさみ、最後尾がハイスさんという形で進む。

 洞窟に入って早速オークが出てきたので、剣の舞で斬り飛ばした。

「やっぱり、オークが復活していますね。前回来た時に多少は数を減らしたはずなのに、元に戻っている」

「ここにも魔石がある可能性が高いってことですね」

「油断せずに行こう」

 僕は朗々と弦を震わせる。

 音の波が広がって、高らかに反響する。

 オークの首が飛び、胴体が両断される。

 刃の舞が冴え渡る。

 僕は出会う端からオークをなぎ倒しながら、先へ進んだ。

「前回来た時にいた、巨大なオークはいませんね」

「親玉は、倒されたまま復活してないってことか?」

「おそらく」

 ボスに出会った道を過ぎ、ハイスさんと出会った広場を通り抜けて、更に奥。

 進んだ道は、行き止まりだった。

「これより先はありませんね」

「どうやらここが一番奥のようだな」

「魔石はあるでしょうか?」

 三人で、奥の岩壁を探る。

 すると――。

「ありました!」

 リートが指を指す。

 そこには、確かに魔石が埋め込まれていた。

「ここからオークがでてくるのかな?」

「試してみるのか?」

 魔石から離れ、しばらく待ってみる。

 すると、魔石から進み出るように、一体のオークが出現した。

「剣の舞!」

 すぐに切り捨てる。

「やっぱり、ここがオークの出現地になってるみたいですね」

「破壊してしまおう。――お願いできるか? マコト」

「もちろんです」

 勇ましく鳴り響く弦の音。

 颯爽と歩み行く人形の行進。

「『くるみ割り人形』」

 パキィン!

 魔石が粉々に砕け散った。

 そのまま時間を置いても、もうオークが出現することはなかった。

「やりましたね、マコトさん」

「うん。これでもうこの巣の駆除は完了かな」

「まだ残っているオークがいるかもしれない。しらみつぶしに当たりながら帰るか」

 その後は洞窟の中をくまなく移動しながら帰った。何匹か残っているオークがいたので、音色を奏で、始末した。

「これで大丈夫ですね」

「ああ、もうこの洞窟近辺は安全だろう」

「また私は、役に立てませんでした……」

「今回はあたしも役に立ってない。マコト一人だな、頑張っていたのは」

「僕もバイオリンを弾いていただけだから、大したことはしていませんよ」

「よくいうよ」

 三人で帰宅の途に着く。

「それにしても、やっぱりありましたね、魔石」

「ああ。フレーダーの巣にあったものと同じだった」

「他の魔物の巣にも、同じものがある可能性が高くなってきましたね」

「うん。これからは注意してみないといけないね」

 僕たちは家に帰ってきた。

 今日の夕飯はピザだ。マルゲリータとシーフードピザ。

「なんだこの白いの……とろけて、のびるぞ! 新鮮なミルクの風味がする。 この赤いソースは適度に酸味があって白いのとよく合うな」

「白いものはチーズですよ。牛の乳を加工したものです」

「こっちに乗ってる、わっか状の食べ物、コリコリして噛み応えがあります……。小さいころころしたのは、旨味がぎゅっと詰まってます。塩気がきいてて美味しい!」

「そっちは、イカとホタテだね」

「下のパンは薄いところはカリッとしてて、周りの分厚いところは柔らかくてもちもちして、食感が面白いです。熱々で香ばしくて美味しい~」

「今日のメニューも喜んでもらえたようでよかったよ」

 三人で和気藹々と食事を楽しんだ。


「マコトさん、今日は何の歌を教えてくれますか?」

「ん? そうだな。今日はちょっと難しい歌に挑戦しようか」

「わ、頑張ります」

 僕はバイオリンを奏でる。

 しっとりとした、優しいメロディ。

 清らかで美しい旋律。

「『アヴェ・マリア』という曲だよ」

「わあ……! 綺麗な曲ですね!」

 僕の伴奏に合わせて、リートが歌を歌う。

 透明に透き通った氷の彫刻のような。

 湖に映る夜空の月のような。

 さやさやと流れる山川の清流のような。

 美しい、リートの声が流れる。

 僕はそれに聞きほれた。

「いい声だな」

 ハイスさんも目を閉じてそれを聴いている。

「あたしには、オンガクはよく分からんが、リートの声は綺麗だと思うよ。目を閉じて、音に浸るように聴いていると、気持ちがいい。癒されるようだ」

「本当ですか……。ありがとうございます!」

「とても素敵だったよ、リート。この世界の人にも、君の歌の素晴らしさは伝わるんだね」

「『丘』では、気味悪がられてばかりだったから……嬉しいです。ありがとうございます」

 リートは本当に嬉しそうに顔をほころばせる。

「マコトにはオンガク、リートには声、か。あたしにも、何か特技があればいいんだがな」

「ハイスさんには、短剣があるじゃないですか」

「特技と言うほどではな……」

「それなら、ハイスさんも歌ってみますか?」

「な……っ。あたしが、ウタ?」

「はい。ハイスさんも歌も、聴いてみたいです」

「無……無理だ無理! あたしにウタなんて……」

「やってみなきゃわからないじゃないですか。大丈夫、最初からうまくいく人なんていませんよ。声を出して、楽しいなーと思えたらそれでいいんです」

「声を出して、楽しい……」

「ちょっとやってみましょうよ。じゃあいきますよ。ドレミの歌で。最初は僕が歌いますね」

 バイオリンが快活なメロディを奏でる。

 途中でリートも入ってくる。僕は一曲を歌った。

「それじゃ、次はハイスさんも一緒に歌ってみましょう」

「ええ、もうか!? あ、あたしにはわかんないって……」

「ちょっとずつでいいですから。やってみましょう」

 二曲目のドレミの歌を奏でる。

 ハイスさんは、まともに歌うことはできなかった。

 メロディになってないし、リズムもとれていない。

 時々正しい音に当たるくらいの、ほほえましい、たどたどしい歌だった。

 それでも、ハイスさんが歌に触れようとしてくれているのが嬉しかった。

「ドーレードー……。はい。いいじゃないですか! ハイスさん」

「どこがだ! 全然あんたたちと同じになってなかったぞ!」

「いいんですよ、それでも。声を出すのが大事です。歌うの、楽しくなかったですか?」

「……あんな未熟な、出来損ないのウタでは気持ちよくなどない! 歯がゆいばかりだ!」

「あはは、ハイスさんは負けず嫌いなんですね」

「でも、私はハイスさんと一緒に歌えて、嬉しかったです。……また、一緒に歌ってくれますか?」

 リートの問いかけに、ハイスさんは恥ずかしそうに頬を染めて、そっぽを向いて言った。

「あんな幼稚なウタでは悔しくて仕方がないからな。絶対に、もっと上手くできるようになってやる!」

「……はい! ありがとうございます」

「リート、歌仲間ができてよかったな」

「えへへ」

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