シュティーアとの同行
「マコトさん」
「やあ、リート」
そこに、リートが現れた。
今起きてきたのだろう、心配そうにこちらに近寄ってくる。
「あの……なんだか騒がしかったような。それに、その方は……?」
「ああ、ちょっと魔物が現れてね。でも安心して。もう退治したから。この人は――僕もまだ知らない」
「これは……名乗るのが遅れたな、すまない。俺はシュティーアという」
「僕は真です」
「私はリートといいます」
「マコトに、リートか。突然家に押しかけてきて申し訳なかった。逃げるのに必死だったもんでね。だが、マコトのおかげで助かったよ。オークを倒してくれて、ありがとう」
「オークがでたんですか!? マコトさん、大丈夫ですか?」
「なんともないよ。音楽で対処できた」
なおも心配するリートをなだめる。そんな僕達を、シュティーアさんは不思議そうに見ていた。
「なあ……助けてくれた恩人を詮索するのは気が引けるんだが……。きみたちは、一体なんなんだ? どうしてこんなところに住んでいる?」
「話せば長くなるんです。せっかくですから、朝ごはんでも食べながら説明しましょうか。ご一緒しましょう」
『食卓の音楽』を奏でる。
テーブルの上には、トーストとハムエッグ、サラダが出現した。
それを見てまたも仰天するシュティーアさんに、僕はリートと出会ってから今までのこと、そして音楽という魔法について説明した。
「オンガク……。聞いたこともない音だったな。音を複雑に組み合わせることで魔法が強大なものになるとは、すぐには信じられんが……。だが、実際にきみがオークを倒すところを見た。それに突然現れたこの朝食……。オンガクというものの力を、信じるしかないようだな」
「マコトさんの音楽はすごいんです! それに、とっても素敵なんですよ」
リートは自分のことのように息巻いている。
「僕達のことは、今話した通りです。それで、あなたは……?」
「ああ、すまん。そうだな、今度は俺のことを話そう。――俺たちは、森で生活していた。木の実や果物を採り、動物を狩ってな」
「俺たち――ってことは、あなたの他にも誰かいるんですか?」
「ああ、俺の妹と友人と、三人で暮らしていた。魔物を見つければ、逃げながらな。だが、今朝のことだ。オークの群れに見つかってしまい、突然襲われた。着の身着のまま逃げ出してきたんだが、そのときに、皆散り散りになってしまった……」
シュティーアさんは暗い顔をして面を伏せた。
「必死で逃げて、たまたまこの家を見つけて助けを求めたんだ。すまなかったな、いきなりおしかけて。でも、君たちのおかげで助かった。しかし、妹と友人は、どうなってしまったのか……」
シュティーアさんは両手で顔を覆う。
しばらくそうした後、きっと顔を上げて、机に身を乗り出した。
「なあ……頼む! 見ず知らずのきみたちにこんなことをお願いするのは気が引けるが、どうか俺と一緒に仲間達を捜しに行ってくれないか!? もしオークに出会ったら、俺では太刀打ちすることができない。でも、きみのそのオンガクがあれば――。ずっと一緒に暮らしてきた大切な仲間なんだ。生きているなら会いにいきたい!」
悲痛な叫びだった。離れ離れになってしまった仲間達への、心配の念が溢れていた。
「――分かりました。一緒に行きましょう」
「マコトさん!?」
リートが驚いたようにこちらを見る。
「魔物の危険にさらされているかもしれない人たちがいるんだ。放ってはおけないよ」
「でも……! マコトさんの音楽が強力な魔法であることは分かっています。それでも、魔物と出会うことには危険があります。マコトさんがそんな危ないことをするなんて……!」
「じゃあ、リート。君はこの人を放っておけるのかい?」
「それは……。でも、私、マコトさんが心配で……」
「僕なら心配ないよ。危ないことはしないと約束する。リートのためにもね。だから、僕のことを信じてくれないか」
「……。マコトさんがそういうのなら」
葛藤しながら、それでもリートは頷いてくれた。
「それじゃあ、いきましょう。まずはあなたたちが生活していた場所に、案内してくれませんか」
「本当に、力になってくれるのか……。ありがとう。心から感謝するよ……!」
シュティーアさんはしっかりと僕の手を握った。
それから僕たちは身支度をすると、家を出た。
シュティーアさんを先頭に、森の中へ入っていく。
「やみくもに逃げていたから、どこをどう走ってきたのか覚えていないが……。オークが俺の後を追ってきたからな。草は踏み潰されているし、細い木々はなぎ倒されている。これを辿っていけば、俺たちの住処に辿り着けるだろう」
「妹さんとご友人がいると言っていましたよね。その方たちはどんな……?」
「妹は、ハイスという。18歳だ。女だが、力もあって武器もよく使う。友人のクレフは俺と同い年で25歳」
「25歳!?」
僕は思わず驚きの声を上げてしまった。
「どうした?」
「あ……いえ、すみません。あの……もっと年上の方かと思っていたので……」
「あはは。この髭だものな、謝ることはない。何せ剃刀なんぞないからな。剣で剃れんこともないが、めんどくさくて伸ばしっぱなしにしていたら、このざまだ」
「どうして『外』に住んでいるんですか?」
「『丘』の人間は『外』というがな。元々、人類は皆こちら側に住んでいたんだよ。ところが魔物に襲われるようになって、人々は逃げ場を探してな。魔物が上ってこれない、あんな切り立った崖の上へと追い込まれた。一部の人間がそこに逃げ込み、そこから発展して町になったんだ。どうして俺たちがここに残っているのか――『丘』に行かないのかといえば、崖を上るのに大きなリスクがあるからだ。あそこを上るために何人も失敗して落下して死んでいる。それなら、魔物と出会いさえしなければ生きていけるここで生きていくことを選んだ。それでも、魔物に襲われて死んでしまうものがほとんどだがな」
「あなたたちのような人は、他にもいるんですか?」
「俺は自分達以外の人間にはあったことがない。だが、ごくわずかでも、生き残りはこちら側にもいるだろう。俺はそう信じている」
「そうですか……」
がさりと草木をかき分けると、そこには木でできたコテージのようなものがあった。
「ここが俺たちの住処だ」
壁は丸太を組み合わせて作られ、屋根には大きな葉が敷き詰められている。
だがその家は無残にも一部を叩き壊されていた。
家の中が露出している。
「オークにやられたんだ……くそ。苦労して作った家だったのに」
「妹さんたちはいませんか?」
「ああ……ハイス! クレフ! いないか!?」
そのまま、辺りを探し回る。
だが、二人の姿は見つけられなかった。
「逃げ出したまま、まだ戻っていないのか……」
「シュティーアさん、地面に足跡が残っています」
土の上に、乱れた足跡が点在していた。
大きなものは、オークの足跡だろう。それとは別に、人間のものと思しき足跡があった。
「これを追っていけば、お二人に会えるかもしれません」
「よし、行こう!」
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