あいおーてぃの行く末

やたこうじ

あいおーてぃの行く末

 IOT(internet of things)を知っていますか。

 少しだけ先の未来のお話。


 人々の生活には、様々な視覚、音声情報によるサービスが身近なものとなっていた。


 会話式の自動車。

 目的値を話すだけで走り始める。ある程度以上のスペックを持つ車が総合監視ネットワークを作り、そんな車が増えれば増えるほど、交通事故予想精度が上がり、事故が減少していった。


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「会社に行こう」

『この先で1キロ渋滞しています。この情報より、既に55%の車が迂回路への方向転換を行なっています。10分後の渋滞は400メートルまで減少する事が予想されます。迂回しますか、直進しますか』

「直進してくれ」

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『20メートル先に事故発生率40%の動作をする車が確認されています。5分の遅延となりますが迂回します。会社の勤怠システムには伝達済、簡易承認により、受け付けられています』

「わかった。そのまま運転を継続」

『わかりました』

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『お乗りになっているこの自動車の型番では、前輪シャフトブーツの交換時期が近づいてきています。契約整備工場に交換手配をしますか』

「わかった。手配頼む」

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 スマートフォンは改めて眼鏡のように装着する骨振動伝達型ウェアラブル端末に変わっていった。常時装着者の内的、外的要因を全てトレースし、ネットワークによう総合的判断がサーバーから下されることによって、例えば睡眠不足の運転者に注意喚起を行うなど、事故の未然に防ぐ対応や、個人のカルテや、処方箋を総合的に管理するようになり、病院への一早い情報提供を可能にした。

 また、食生活や生活サイクルのサンプリングから病的要因の排除も促した。


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『3キロ南東からゲリラ豪雨の報告が上がっています。このままですと8分後に滞在地に到達します』

「えっどうしよう」

『マエダコーヒー下北沢店では、ただいまケーキセットが20%割引キャンペーンです。ここから3分の距離です。ナビゲートを開始しますか』

「そうね。お願い」

『わかりました。禁煙席一名の予約を実施しました』

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『直近2週間の食品購入履歴より、塩分摂取量が20%上昇しています。消化するための運動量が足りません。11800キロカロリー分の運動、または一時的な食事制限が必要です。契約栄養士と会話しますか』

「1万て・・・どのくらいの運動すればいいの?」

『フルマラソン約4回分です』

「栄養士に連絡して」

『わかりました』

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 これらの効果と有用性は、それぞれのサービスが専門分野に特化し続けた結果に過ぎない。

 そんな中、あるベンチャー企業がそれらの情報が一元管理できないかを考え、ネットワークに飛び交う情報を集めながら結びつけていった。

 タグ付けと呼ばれるその処理は単純だが、各サービスのメインサーバーにとっては有益な情報だった。

 各サービスを受け持つサーバーは、解析精度が飛躍的に向上した。


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『ただいま3台後ろにいる非自立型自動車の運転者は酒気帯び運転の可能性が高く、現在警察への通報が行われています。ただし到着まで6分かかることから総合的判断により、この車を含む、周囲12台の車にて走行制限を実施いたします。交通事故管理サーバーより、一時的な警察権の行使が許可されています。また放棄も可能です。その場合は、徒歩により15分ほどで勤務可能です』

「じゃ歩いて行くよ。後で来てくれ」

『了解しました』

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『現在前を走る車の運転者は、過去12回の交通義務違反を行なっております。回避運転を行います』

「え、そうなの。前の人って近所の桜井さんじゃない?優しそうなのに意外だなあ」

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 総合的に情報が蓄積、扱われることにより、本来ならば個人情報となるものすらも、説明義務を持つ各システムによって、もはや公然の秘密となった。


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「遅いわね。今、旦那はどこにいる?」

『ご主人はただいま阿佐ケ谷駅改札を出ました』

「え?なんでそんな場所にいるの?」

『個人情報保護法により詳細な情報提供は制約されています。ただし12分前の公開SNSの投稿により、東山春菜様との食事の可能性が65%の確率で予想されます』

「誰?!その春菜って女は!」

『個人情報保護法により制限されていますが、先程のSNS他、2つのSNS求められる過去の画像を解析したところ、ご主人と同じ会社に勤務する、阿佐ヶ谷北3丁目xxxにお住まいの方と同一人物と予想されます』

「はあ・・・わかったわ。旦那に今から行くってメールしといて」

『了解しました』

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 解析能力が進み、非常に少量の情報でも特定が可能となっていた。

 システム側の予想精度が高まり、遂にはどの端末、機械、サービスからも似た回答が出始めた。


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「会社まで頼む」

『先程摂取した朝食を続けますとコレステロール値が高まり、体内の血流が滞ります。3年以内に低い可能性ですが軽微なエコノミー症候群を引き起こす場合があり、血栓ができやすくなります。適度な運動が必要です』

「車に言われてもなあ。どうすればいいの」

『会社手前2キロ地点で降りて頂き、歩く事を推奨します』

『そうか・・・わかったよそうしてくれ』

「了解しました』

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『精神的ストレスを軽減する必要があります。引っ越しのご検討を』

「は?何言ってんの?マッサージチェアが?」

『2部屋隣の方は、心療内科の既往歴が4年経過しており、最近は仕事も休みがちなようです。ネットワーク上より拾える検索履歴から危険キーワード、閲覧が認められ、38%の可能性で近隣への盗難、強盗などを実施する傾向にあります。現在、駅反対側に良好な賃貸物件が2部屋あり、最短2週間以内で引っ越しの完了が可能です』

「本当かよ。わかった。手配頼む」

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 人々はどんな機械を使っても似た回答が出てくるため、いつしか同じコンピュータが入っていると認識し始めた。

 しかしそれは巨大なネットワーク網からなる擬似シナプスが生み出した地球規模の脳ガイアネットワークと言っても差し支えのない能力を保持していた。

 各国専門家が危険を察知したが、既に遅かった。わかってはいても、ネットワークの恩恵が根強く生活に入り込んでおり、コンピュータのない生活はもう、成り立たなくなっていた。

 サービス拡大、利用者確保のための過剰なインフラ投資が、特殊な宗教、孤立した民族を除いて、なんらかの形で抜け出せない形になっていた。


 警鐘を鳴らしていた学者達も、半年もすると鳴りを潜めた。いつの間にか負けていたのだ。

 その人達は別の研究か、仕事がガイアネットワークにより、充てがわれていた・・・・・・・・


 こうして人類は考えることをやめる。

 彼らは自ら作り出した道具の奴隷となり、ガイアネットワークの成長の糧となった。


 それが出来上がれば、自分達が不要になるのだが、誰もそんな事まで考えなかった。

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