15の倍数の街

葵 ひとみ

15の倍数の街

 兵庫県明石市――


ここは、日本標準時の街、東経135度上に位置する。


私、神之宮直人は、岡山市から神戸市に住んでいる中距離恋愛の彼女小原侑子さんに会いにゆく途中、電車の窓の中から「明石市立天文科学館」が見えたので時間があるから途中下車してみた……。


この街の商店街のお魚屋さんには路上にまで新鮮な魚介類が溢れている――


私はおだしで頂く、明石焼きを楽しみ。


そして、海と明石海峡大橋を眺めた――


明石海峡大橋は、兵庫県神戸市垂水区東舞子町と淡路市岩屋とを結ぶ明石海峡を横断して架けられた世界最長の吊り橋である。


開業以来、10年以上の長きにわたり「ギネス世界記録」に認定・掲載されている。



――ここで、ふと私はこの15の倍数の街に思いをはせてみた、


地球の自転とともに変わる時刻。

兵庫県・明石市が日本の標準時なのはご存じかもしれない。


地球の大きさを始めて測定したのはギリシャのエラトステネスと言われ、


離れた場所で同じ時刻におきる太陽光の角度差から割り出された。


このときはエジプトのシエネとアレクサンドリアの井戸が使われ、


・2つの井戸の距離 … 約920km


・光の角度差 … 約7.2度


から、地球は全周約4万6千kmと計算された。


現在は高精度な測定がおこなえ、約4万kmであることがわかっているのだが、

紀元前200年前に地球が、球であること、そして距離と角度から全周が割り出せることを知っていたことには畏怖の念を覚えずにはいられない――


この発想は世界の時刻にも応用され、


産業革命のはじまった国イギリスのグリニッジ天文台を基点に、


自転方向を360度に分割した経度をもとに決められている――


 日本の標準時が兵庫県・明石市に定められているのはなぜか?


最大の理由は15の倍数である東経135度上に位置するからだ。


経度は、


・地球一周を360度に分割


・一周=一日


なので、360度÷24時間から15度=1時間となり計算しやすい。


ところが日本は、


・東 … 南鳥島(153度58分)


・西 … 与那国島(123度0分)


の範囲にあるので、15の倍数は135度か150度しかない。


南鳥島には定住者はなく、その近くを「標準時」と定めてもピンとこないので、

ひとの住んでいる都市のほうがイメージしやすいことから東経135度が選ばれたのはごく自然と言えるだろう。


そして明石市が真っ先に標識を立てた――


そして、世界の時刻を決めた国際子午線会議は1884年におこなわれ、


その2年後に日本標準時は正式に「東経135度」と定められた。


明石市では1930年に小学校の先生たちがお金を出し合って東経135度上に標識を立てた。


その後の1960年には135度上に天文科学館を設立し、今にいたり不動の地位を得ている。


材料のないほとんど無の状態から「標準時のまち」となった明石市の皆さまの

先見の明と行動力を私たちも称えるべきだろう。――


 なんて、柄でもなく難しいことを考えてしまい。


あまりにもボーっと海で時間を過ごしてしまい電車に乗り遅れて、


彼女とのデートの約束の時間に遅れてしまった――


 「侑ちゃん、ごめんなさい……。」

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15の倍数の街 葵 ひとみ @aoy_hitomi

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