真実

公園には、そわそわしている長身男子がいた。

「瑠依」

呼びかけると、あらぬ方向を見ていた彼がこちらを向く。

瑠依は、泣きそうな顔で私の名前を呼んだ。

そのまま抱きしめられる。

こんなこと初めてで、驚きで呼吸のしかたを忘れてしまう。

嬉しさでいっぱいいっぱいなんだ。


そんな私をよそに、瑠依の力は強くなってくる。


痛いくらいに。だけど、そのくらい瑠依にとって私という存在は大事な親友だってことだから、全然悪い気はしない。大事な親友。

「俺がいればよかったのに……」

聞き取れないくらい小さな声で瑠依が言う。

「しょうがないよ。頼み事は断れないんでしょ」

「でも、断ってれば春香が嫌な思いしなかった」

「結果論だ。それに、今心配してくれてるだけで嬉しいし?」

こんなこと真面目になんて言えない。


私と君は冗談なんだから。

私の恋心は冗談なんだから。

真実でも、冗談って言ったら冗談になる。

告白だって謝罪だってまやかしに変わる。


冗談。魔法の言葉。


「それじゃ駄目なんだよ!」


突然、瑠依が怒ったように声を荒らげた。

私を離して、ちゃんと目を見てくる。

「あとから慰めるような、そんなのじゃ嫌だ」

何が言いたい?

「親友として慰めるだけの、そっから先はできない立ち位置はもう嫌なんだよ!」

慰めるの、その先は何?


「塗り替えるくらいできる場所に立ちたいんだ!」


塗り替える。さっきみたいに、抱きしめて?


「塗り替えてよ」


親友の立場じゃできないこと。誤解されること。

ホントはあんなことしちゃいけないんだ。


そういうのって、恋人の権利だから。


「塗り替えてよ。親友じゃ駄目なんだよ。あいつに触られたこの体も、私たちの関係も、全部塗り替えちゃってよ」

信じられないという風に私を見つめたあと、瑠依はまた私を強く抱きしめた。


今までの冗談が本当に変わる瞬間。


「瑠依じゃなきゃ嫌」


瑠依以外なんてありえない。ずっと、ありえなかった。

だって。


「大好き」


やっと伝えた、嘘じゃない真実の気持ち。


「ずっと守るから」


十センチの身長差が無くなった。

自分の中に積み重ねた冗談の壁が消え去った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冗談の私と君 歌音柚希 @utaneyuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ