射手と運命と―④


   👆


 突然パソコン画面の向こうで怒号が上がった。


「動くな!」「手を上げろ!」

「動くな!」「ひざまづけ!」


 パソコン画面の中、わらわらと警官たちが現れた。銃を構え、あっという間にヒュウガを取り囲む。もともと狭い部屋だ。逃げ道は全くなかった。


 ヒュウガはそのまま静かに両手をあげ、ゆっくりとひざまづいた。


「どういうこと……だ?」


   👆


 ヒュウガはちらりとパソコンに目を向けながら、そうつぶやいた。


「ありえない。警報は鳴っていなかった」

「ヒュウガ、どうしたの? 何が起こったの?」


 デイジーはパソコンにかみつくようにして怒鳴った。

 はたで見ていても激怒しているのが分かった。


「分かりません。警官に囲まれました。計画は失敗です。どうにもなりません。すぐに逃げてください。エレインと一緒に」


 ヒュウガはそのまま床に腹ばいになった。

 警官が腕をひねりあげ、手錠をはめる。


   👆


「どうしたの? 何があったの?」

 エレインは僕たちに向けた銃を震わせながら、デイジーに聞いた。


「失敗したわ。ヒューガは警官に囲まれてる。どうやら計画がばれてたみたいね」


 デイジーは信じられないといった表情で首を振り、それから憎しみのこもったまなざしでエレインを見つめた。


「あんた、母さんを裏切ったのね?」


 デイジーはエレインに銃を向けた。


 それは決定的な瞬間だった。

 エレインとデイジーとの間にあった絆が完全に絶たれた瞬間だった。


   👆


「母さん信じてよ、あたしじゃない」

 エレインは母親に銃を向けなかった。


「だって、あなた以外に、誰がこの計画を知っていたっていうの?」



   👆


 そう、僕だった。


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 パソコンの画面の中に、制服の警官隊に混じって、スーツ姿の男が一人いる。

 見るからに高齢で髪も薄いし、背も丸まっているが、やけに筋肉質でかなり異彩を放っている人物。


 

 僕に占いを教えてくれたあの松尾先生だ。


 公務員のバイトは禁止だから本当は内緒だが、松尾先生の本職は刑事だった。


 僕は占いの力でこの計画を知り、松尾先生に会社を見張ってもらえるよう、密かにお願いしてあったのだ。


    👆


「どうして? どうして、あなたがこれを知ってるのよ?」

 そう聞いてきたのはエレイン。


「僕は占い師だからさ。僕には未来が見えるんだよ」

 ま、これはちょっと言い過ぎだけど。


「僕はここに来る前に、自分のことを占ったんだ。飛行機に乗るのが初めてだったから、なんか怖くてね」


 みんなが僕を見ていた。あやめさんたちはポカンと僕を見上げ、デイジーとエレインは銃口はそのままに、あっけにとられた表情で僕を見つめている。


「僕は無事に帰ってこられるか占った。知りたかったのはそれだけだったんだ。そしたら戻ってこられないって結果がでてさ、それで僕は自分に何が起こるのかを占ったんだ」


   👆


 だがそれを知るために払った代償は小さくなかった。


 僕の皮膚感覚はほとんど消えていたし、聴力も変な感じになっていた。

 嗅覚はほとんど馬鹿になっていたし、味覚もだいぶ欠けてしまった。


 だが死ぬよりはマシだった。

 僕だけじゃなく、みんなが死んでしまうよりマシだった。


 この時はみんなに言わなかったけれど、本当ならデイジーも含め僕たち全員が、ジェイに撃ち殺される運命だったのだ。そこまでの未来は占ってあった。


 でもこの未来は変わった。


 


   👆


 ちなみに僕はその夜、最後にこんな質問をした。


『未来を変えることはできるのか?』


 パンッ!


 手をたたくと、感覚をなくした僕の体の中から答えが浮かび上がった。


『はい○はい○はい』


   👆


 そう、未来は変えられる。


 僕は最後にそれを確信したかった。


 未来は変えられる。


 そして未来はかわった。


   👆


 だがこの未来が変わってしまった以上、この先がどうなるのか、僕にはまったく分からなかった。


 でもそれでもかまわなかった。


 僕もみんなもこうして生きている。

 今はそれだけで充分だった。


 ~ つづく ~


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