さかなの小骨―②
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僕はようやく自分の能力を知った。
占いに似ているけれど、まるで別の力。
もっと特別な力。
伝えられてきた不思議な力。
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そして僕はようやく自分の仕事を知った。
あやめさんから受け継いだこの力で、あやめさんの会社『クロサキカンパニー』を守ること。
あやめさんやエレイン、そしてマックたち大勢が働くこの会社を、あの力で導いていくこと。
あの力で未来を予測し、たくさんの利益を出し、たくさんの顧客を満足させ、さらに会社を大きくしていくこと。
あやめさんが僕に求めているのは、きっとそういう仕事なのだろう。
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その報酬に、僕は高い給料を受け取り、高層マンションの一室を手に入れた。
高級なスーツを着て、一流企業に就職した。
昔の僕からすれば考えられないような展開だ。
でも僕はまだ、それを現実として受け止めきれない。
のどにつかえた魚の小骨のように、いつまでも飲み込めないものがある。
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とは言え、それでも僕の生活は続く。
あやめさんは僕にゆっくりと力の使い方を教えてくれた。
実際はこれまで通り、ただ新聞の記事を読むだけだ。あやめさんが教えてくれるのは、どんな記事を読んだらいいのか、どんなことに注目すべきか、そういう漠然としたことだった。
経済という『相手』をよく知るためのコツ、とでも言えばいいだろうか。
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そして二週間が過ぎていき、再びマックが封筒を手に現れる。
今度の質問には、
『十一月三十日までに金の下落は止まるか?』
とだけある。
マックはメモを置いていき、僕とあやめさんの仕事が始まる。
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僕は目を閉じ、質問を心の中に書き留める。
『十一月三十日までに金の下落は止まるか?』
両手の聖痕をパンと合わせる。
頭の中で、情報が渦を巻き、嵐となって駆け巡り、やがて白く爆発する。
そして白い闇の中から答えが浮かび上がってくる。
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『はい○はい○はい』
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僕は便せんに大きく結果を記す。
『○』
書くのはそれだけ。その紙を二つに折って封筒に入れる。
やがてマックが現れ、封筒の中身を確認し、ちらりと僕を見る。
そしてあやめさんに頭を下げ、無言のまま部屋を後にする。
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それからしばらくして、僕の占いが当たったことが新聞で証明される。
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だが何事にも代償というものが存在する。
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僕はそれを予感していたはずなのに、忘れようとしていた。
これまでさんざん身に染みて分かっていたはずなのに、目をそらしていた
たぶん僕は信じたくなかったのだろう。
もう少し幸せに浸っていたかったのだろう。
だから頭からその可能性を閉め出していた。
まったく僕らしい。
甘ったれの僕らしい。
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何かを手に入れるには、何かを支払わなくてはならない。
手に入れたものが大きければ大きいほど、その支払いは大きくなる。
それは当たり前のことだ。
それが代償と言うものだ。
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「あなた、最近変わったことはなかった?」
だからあやめさんがそう聞いたとき、僕の背中を冷たいものが落ちていった。
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実は少しだけおかしなことがあった。
少し舌が痺れるようになってきたのだ。じんわりとピリピリとした感じ。でも大したことはないと思っていた。放っておけばそのうち直るだろうと思っていた。
「あなたも薄々感じていたでしょうけど、何かを手にするには、それに見合う代償が必要なの」
そう告げるあやめさんは僕をまっすぐに見ていた。
なんとなく死刑宣告でも受けているような気分。
もしくは死神に意地悪なトリックを種明かしされているような。
「そう、ですよね」
来るべき時が来たのかな?
そんな気がした。
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そう。こんなにうまい話があるわけがないのだ。
僕はいつだって代償を払ってきたのだから。
今回だけ無料招待だなんて、都合のいい話があるはずがないのだ。
では、あやめさんはどんな代償を払ってきたのだろう?
それこそが、僕が払う代償になる。
~ つづく ~
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