第3話 AtomicDay
八月九日。私は防空壕の中にいた。
私は見た。彼の生きる世界を。今日ここ長崎には原子爆弾が投下される。
この防空壕を通じて過去と未来とを行き来することができるのは一人だけ。つまり私が防空壕の中にいる限り彼はこちらに来ることはできない。あなたを此方に来させない方法が見つかったときはとても嬉しかった。これであなたを護れる。でも同時にあなたに二度と会うことはできない。
遠くの空で何かが爆発する。爆発音から遅れること十数秒。大地を揺らす程の衝撃が防空壕を襲う。小石が飛び込み土を被った私が這う様にして防空壕から出ると黒い空に不気味にキノコ雲が一つ浮かんでいた。
八月九日、十一時二分、サイレンが鳴り響いた。
守は慰霊碑に花を手向ける。
この一時、長崎の街は静寂に包まれる。哀しみを少しでも和らげようと蝉たちの大合唱が続いていた。
守はみち子に会うために穴へと向かう。
しかし、みち子の下へは行くことはできなかった。
守は穴の壁に刻まれた文字を見つける。
擦れてしまって判読不能なその文字がそこには存在しない何者かによって再び文字が書かれてゆく。
あなたと出逢うことができて私は幸せだった。
あなたは私の希望で私たちの歩んだ道を守り伝えてくれる人。
大好きだよ。
ありがとう。
書き起こされた文字を眼にした守の頬に温かい滴が伝った。
AtomicCity ~伝えたい想い~ 小暮悠斗 @romance
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