来るな…

スティーブンジャック

来るな…

バイトが長引いてしまった。もう夜の11時になろうとしている。早く帰らなければ。大学に入学し、独り暮らしを始めてから三か月が経った。ここ最近はバイト漬けの日々だ。今日も予定の終了時間をオーバーしていたのに働かされた。そんなことを考えている暇もない。早く帰って大学のレポートを終わらせなければいけない。とはいえこの街灯もない暗い路地を進むのには勇気がいる。一人の中年女性が道から出てきた。よく一人でこんな道歩けるよなぁ。そう思いつつ、道路沿いの大通りまでは走って駆け抜けよう。そう決心して走り始め、道の中盤に差し掛かった時のことだ。道の端に一人の女性が変な姿勢で座っているのが見えた。こんな時間にこんな暗い道で何をしているのだろうと思いつつ徐々にその女の人に近づいていく。そこでようやく気付いた。その女性が何か同じ言葉を繰り返し呟いているのだ。僕は怖くなり一目散に暗い道の終わりを目指した。ちょうどその女の人の横を通り過ぎるときその女のおぞましい顔を見てしまった。それまではその女が何を呟いていたのかよく聞き取れていなかった。しかし、その時はっきりと女の声が聞こえたのだ。かすれた声で「来るな」確かにそう連呼していたのだ。来るな?しかしここまで来て引き下がるのはもっと怖い。そう思いつつ僕は一気に大通りまで走り抜けた。何とか家にたどり着き、疲れからかすぐに寝てしまった。

 次の日の朝、あの道の近くを通りかかった。あの道の周りには立ち入り禁止のテープが張られていて中では警察官が何か調べている。近隣住民も多く集まってその光景を見ていた。気になった僕は野次馬の一人に訪ねた。「何かあったんですか?」するとその野次馬は顔をしかませながら「昨日の夜中に若い女の人が何者かに刃物で殺されたんだって。喉元を切られて亡くなったそうだよ。」そう言った。次の瞬間、腹部に激痛が走った。腹部に目をやると包丁で刺されている。気が遠くなる中でその野次馬が僕に言った。「あなた昨日会ったわよね。」昨日の女の言葉が脳裏をよぎった。来るな...

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来るな… スティーブンジャック @1281

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