後編

 しばらくしてからおゆきとその両親は幽太郎達の側に歩いてきました。

「皆様、ありがとうございやす」

 おゆきの父親がお礼を言うと

「うん、でもわかってるよね? ずっと一緒にいられるわけじゃないって」

「へえ。日が暮れるまで、ですね?」

「うん、そうだよ……」

 幽太郎は申し訳なさそうに言いました。

「え、や」

 それを聞いたおゆきは涙目で父親の服の袖を引っ張りました。

「おゆき。たとえ姿は見えなくてもおら達はお前の側にいるから、な」

「泣かないでおゆき。ね」


 おゆきは何も言いませんでした。


 しばらくして

「……おかあ」

「な~に?」

「あそんで」

 おゆきは精一杯の笑顔を浮かべて言いました。

「はいはい……」

 母親の目にも涙が浮かんでいました。


 幽太郎達はおゆき達を家族水入らずにしようとそっとその場から離れ、ある場所へと向かいました。




 そこはとある代官の屋敷でした。

「うわあぁー!」

「な、なんだあの化け物はー!?」

「お、お代官様、なんとかなりませんか!?」

「なんとかなるはずないだろが越後屋!」

 屋敷にいた者達は皆突然現れた化け物を見て逃げ惑っていました。


「おうおう、悪代官と悪徳商人達が怯えてるぞ。さすが幽太郎だな」

「あいつらがおゆきちゃん達を襲って攫った野盗の黒幕ですわね」

「うん、あいつらだけは脅かすだけじゃ許せない。ねえ二人共」

「おお、いっちょこてんぱんにしてやろうか」

「いいですわね。でも殺しちゃダメですわよ」

「わかってるよ。じゃあ」

 そう言うと三人の体が光り輝きだしました。


 光が収まると草太は凛々しい若武者の姿に、お多麻は美しい巫女の姿に、そして幽太郎は陰陽師風の少年の姿に変わりました。


「な、なんだお前らは!?」

「うるさい」

 幽太郎は手に持っていた見事な縁で飾られた鏡をかざすと 

「ギャアアア!?」

「目が~! 目が~!」

 そこから目が眩むほど眩しい光が放たれました。

「食らいやがれー!」

 草太は叫びながら持っていた両刃の剣で侍達や隠れていた野盗を叩きのめしていきました。

「では私は、えい」

 お多麻が手にした碧い勾玉を振りかざすと、側にいた者達は皆腹や胸、頭などを抱えて苦しみだしました。


「あ、あ」

 残ったのは悪代官と悪徳商人、野盗の親分だけになりました。

「さてと、あんたらには特別凄いことしてあげるよ」

 幽太郎はそう言って呪文を唱え始めました。


「え、うわあぁー!?」

「わ、ワシが悪かった、許してくれぇー!」

「うぎゃあー!」

 悪代官と悪徳商人と野盗の親分はその場でのたうち回りました。


「幽太郎、いったいあいつらに何を見せたんだ?」

 草太が幽太郎に尋ねました。

「ん? 絵にも書けないくらいの地獄。まー死にはしないけど、一生それに怯え続けるだろね」

 幽太郎はニコニコ笑いながら言いました。

「幽ちゃんって相変わらず怒ったら怖いですわね……」

 お多麻は身震いしていました。

「そうかなあ? さ、戻ろ」

 幽太郎達は元の姿に戻るとその場から立ち去りました。 




 幽太郎達がおゆき達の元へ戻るともう日が暮れていました。

「そろそろ帰る刻限だよ」

 幽太郎はおゆきの両親に話しかけました。

「へえ。……おゆき、達者でな」

「うん、おとう」

「おゆき、幸せになってね」

「おかあ……」

 おゆきは一生懸命笑っていました。


「それでは」

 両親は空に浮かび、消えていきました。

 おゆきはもう暗くなった空をずっと見ていました。


「さて幽太郎、おゆきちゃんはどうするんだ?」

「お寺に連れて帰るよ。今なら村の子供達とも仲良くできるかも」

「なら私達もしばらくごやっかいになろうかしら。ちゃんと見届けたいし」

「うん。ねえおゆきちゃん、一緒に帰ろ」

 幽太郎がおゆきに話しかけました。

「……うん、幽太郎」

 おゆきはほんの少しですが笑みを浮かべていました。 


 そして幽太郎達はお寺に戻りました。

 



 それからおゆきは幽太郎や村の子供達と少しずつではありますが一緒に遊んだり話したりするようになっていきました。

 やがておゆきは美しい娘に成長し、良縁にも恵まれ幸せに暮らしたそうです。

 

 お嫁に行くときのおゆきの心はとても綺麗だった、と幽太郎は後に語りました。

 

 

おしまい

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心が映るまで 仁志隆生 @ryuseienbu

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