海見るキツネ 北海道地球岬
白取よしひと
第1話 海見るキツネ
日が傾き始め、北海道
僕は連休が取れた事もあり仙台からバイクツーリングに来ていた。放置していたCBRをメンテして久しぶりの北海道を満喫したのだ。
出航は21時15分。未だ17時に針は届いていない。バイクの積み込みにはまだまだ時間があるだろう。どこか足を伸ばせる所はないかとマップを見た。札幌方面から南下して来たので再び北上するのは気が引ける。
海岸が見え隠れする直線道路を室蘭に向けて走る。ヘルメットの風切りと4気筒の滑らかなサウンドが心地良い。
室蘭は工業の街だ。大手製紙工場などが密集し港湾が隣接している環境の良さもあり発展している。その市街地を抜けて丘に向かうと間もなく
幾つかカーブをやり過ごすと一人のライダーが先行していた。体型とヘルメットから出た長い髪で女性と分かる。あのジャケット!早希はマゼンタのレザージャケットの後ろ肩に猫のエンブレムを縫い付けていた。彼女が今ここを走っている筈はない。しかし僕はそのエンブレムを確かめたい衝動に駆られ車間を詰めていく。
- 二人でツーリングする時はいつもこんな感じで彼女を先に走らせていた。学生の頃から付き合っていたが、それぞれ就職して遠隔になった事もあり次第に疎遠になっていった。そして、あれだけ仲が良かった二人の交際はたった一本の電話で終わりを告げたのだ。 あれから三年。早希は元気でいるのだろうか。
車間を詰めようとアクセルを捻るがカーブを抜ける度に離されていく。そして彼女は消えてしまった。丘を上り詰めるとそこは小さな広場になっており、以前来た時と同じ場所にバイクを停めた。ヘルメットを脱ぐと潮風が心地良く通り過ぎた。海に向かって歩き出すと次第に白亜の灯台が姿を現す。
- また来たよ!
僕は心の中で呟いた。眼前には視界に収まらない広大な海が水平線を盛り上げ美しい弧を描いている。圧倒的な質量感だ。勢いを失った陽に照らされる海面は深く蒼く、時折風に吹かれるのか微細な白の
近くで海鳥が甲高く鳴き我に返った。左右に目を移し岬の断崖を眺めると無数の海鳥たちが群がっている。飛び立つものは崖を伝って湧き起こる上昇気流に身を委ね気持ちよく上昇しては下降を繰り返す。海鳥の鳴き声に思いを巡らしていて気がついた。遙か眼下では波が砕けており、その
僕は崖の際まで歩きその
ふと視界の隅に気配を感じ
- お前かい?さっき僕を馬鹿したキツネは
太陽は海を熱しながら沈み辺りは暗くなってきた。僕はバイクに向かおうと立ち上がるとキツネもまた後ろ足を立てて僕を見上げた。
- きっとまた来るよ。
僕は現実に立ち返る様にエンジンをかけると苫小牧に向けて丘を下った。
海見るキツネ 北海道地球岬 白取よしひと @shiratori
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