Bougainvillea(ブーゲンビリア)
銀鏡 怜尚
日南海岸の旅情
東からそよぐ潮風がこの上なく
日本でも
でも本州にいる友人のほとんどが、遠いというだけの理由で「へぇー」と気のない返事をするのだけれど。
私に言わせれば、この至福の
そう、私がこの場所とはじめて出逢ったのは四年前か。
修学旅行でこの隣の県までは行ったものの、ここには立ち入らなかった。
沖縄や北海道とは違って陸の県境は存在するものの、現実的には旅客機以外の交通手段でそこに赴くのは若干の労力を伴う県である。
おおよそ交通の便の良くない場所には、得てしてあまりこちらでは語られることの少ない魅力がぎゅっと詰まっているものだ。
私は今年も海の香りに
俗に『魂の花』とも呼ばれる情熱的な植物を愛称にもつ空港は、着いたところから異国情緒を醸し出してくれる。
不死鳥と同じ通称をもつ樹木が高々と直線上に林立する。それを見ただけで私は心が躍りだすのだ。
さっそく空港のそばでレンタカーを手配する。この旅は一人で構わない。本州では味わえない、潮風の音と香りの感覚をすべて研ぎすませるために、話し相手になるような相方は不要であった。
車のイグニッションスイッチをオンにする。そしてすぐさま窓を開ける。
天気は透き通るような青空。季節は八月。
サングラスを着用しても南国の陽光は容赦なくレンズを貫いてくる。それならばいっそ、澄み切った海岸を、空を、緑をこの網膜に焼き付けるために、サングラスは外して胸ポケットにしまった。
台風銀座とも呼ばれる地域だが、この日は天候も私に味方してくれたようだ。気温は高いが、本州よりも湿度はなく、暑くても不快感は少ない。
絶好のドライブが私の身を震わせた。
向かう先はここから海に沿ってひたすら南へ。
そう、ここからは
まず見えてくるのは
島と言っても、実際は海岸線からひょっこり突き出た
その島の中へと進むと神聖な神社が出迎えてくれる。江戸時代は禁足地として立ち入ることを許されなかったほどの霊域なのだ。熱帯・亜熱帯の植物が群生する中に鎮座する境内は実に荘厳である。
その横には鬼の洗濯岩(板)と呼ばれる奇岩がある。海岸の砂岩と泥岩の重なる層が波食により洗われ、軟らかい部分が削られて形成されたものだ。
この世にも珍しい地形は『青島の隆起海床と奇形波蝕痕』として日本国の天然記念物にも指定されているようだ。
さらに南下する。
ここでも鬼の洗濯岩(板)を眼下に確認しながら、果てなく続く
潮風を浴びながら、道の駅で頬張る日向夏ソフトクリームもまた格別であった。
さらに南下すると、サンメッセ
ここには誰もが知っているモアイ像が、こともあろうか七体も居並ぶ、不可思議な公園だ。小高い丘に鎮座する石像と、果てない海と空の調和の妙は、また筆舌につくしがたいものがある。
異国情緒に加え、ミステリーツアー気分まで与えてくれる面白スポットであるが、このモアイ像たちにはそれぞれ運気を高めるご
サンメッセ日南のすぐ南には、
参拝するにあたって、いびつな巨岩に打ち付ける波音が容赦なく鼓膜を刺激する。
そんな猛々しさとは裏腹に、育児や安産祈願などの女性的なご利益を授かるところが面白い。
また神社の中には霊石である亀石がある。そこに男は左手、女は右手で運玉と呼ばれる石を投げ入れることができれば願いが叶うと言われるのだ。
鵜戸神宮を離れてさらに南に進めると、再び道の駅が登場する。
なんごうと呼ばれるこの道の駅は、またこれまでとは少し違った眺望で見る者を楽しませてくれる。
南国に迷い込んだと錯覚させるような遊歩道を上り、高台から望む海岸線は、先ほどまで海をたくさん見てきたはずの私を再び絶句させる。
道の駅で、今度はマンゴーソフトクリームを購入して、私はさらに南へ。
もうここは県の最南部に位置する
いささか知名度の高いこの地では、何と言っても野生の馬を観察することができる。
岬といっても山地が突出した絶壁であるので、海をまた見下ろすように眺めることができる。滄海を背景にした愛らしい馬たちの
そして、私は日没を待ってみた。突出した岬は三方を海に囲まれており、海岸線に沈みゆく斜陽は、馬たちをシルエットとして私の網膜へと投射し、美しさのあまり思わず
嗚呼、ここにずっと居たい。ずっとこの時間が続けばいいのに。
この非日常的な風景を見ると、私はいつも現実を忘れてしまいたくなる。
これぞまさしく旅情であり旅愁である。この日南海岸ほど旅の
いつか私はこの地に住んでみたい。
愛しの宮崎県に思いを
Bougainvillea(ブーゲンビリア) 銀鏡 怜尚 @Deep-scarlet
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