汚した者と汚された者

 ひとしきり泣いた後、彼は夢から目を覚ました。

そして心の中でこう誓った。

 ―迷いも悲しみも涙と共に捨てた。

  ボクはボクの正義を貫く…


 彼は部屋にあるパソコンで犯人に関する情報を集めだした。

体格・年齢・犯行の手口、とにかくネットに載っている情報をかき集めた。

― 一人で女性を襲っていることから、体格で言えば標準から大柄。

 人気のない場所を選んでいることや夕暮れから夜中の犯行、

 学生か社会人で一般常識は持ち合わせている。

 ただ、ボクが見た女子のレイプされた状況と

 ネットの情報に載ってある手口が一致しない…

 荒っぽく稚拙な印象を受ける。

 多分、年齢は10代後半から20代前半で、

 余裕が無いくらい、かなりストレスを抱えてる。

  「半年前は2件、四ヶ月前は5件、三ヶ月前は8件、ニヶ月前は10件、

   今月に入って10件以上…

   このまま野放しにしておけば、被害者が増えていく。」

 ―なぜそう思うの?

琴葉が面白そうに彼に問いかけた。

 「父親の時がそうだった。

  最初は軽く触られる程度がどんどんとエスカレートしていった。」

社会で若いながらにして高い地位にいた父親だった。

あんな事になるまでは、父親は彼の誇りだった。

会社で色々な重圧があったのかもしれない、

それでも彼は記憶を思い出した今でも父親が許せなかった…

 ―ツライ?

 「ツラくないと言ったら、ウソになる。」

思い出したばかりの今でさえ、恐怖に震えながら泣きそうになる。

でも、どんなに泣き叫んだって、汚れた彼の体はもう綺麗な体には戻れない。

そう、望んで汚れた訳じゃない。襲われた彼女達だって同じだ。

 「これ以上…犠牲者を出したくない。」

 ―そうね。共に犯人に裁きを下しましょう。

立ち止まってはいられない、彼は改めて犯人探しの決意をした。


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乖離(かいり) 鳴海 妙 @narumi-tae

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