変調

 頭が割れるように痛い、

その場に立っていられなくなり、彼は座り込む。

 「なに…が…」

自分の体の中で何が起こっているのか分からなかった。

こめかみが脈を打つ。

 ―私がキミを守ってあげた、次はあなたが彼女達を守ってあげる番。

割れるような痛みの中で、聞き覚えのある女の声が聞こえた。

 「…だっ…誰だ!」

なんとか立ち上がり、辺りを見回すが誰もいなかった。

ただ、廊下の窓からは夕暮れの日が射していて、

グランドからは部活動をしている、生徒の声が聞こえているだけだった。


 自転車を押しながら重い体でノロノロと、家を目指して歩いて行く。

頭まだ少しクラクラしていたが、

先程より、だいぶ楽になったので帰路についていた。

女の声は、あれっきり聞こえなかった。

 ―空耳だったのか?

  それとも幽霊とか?

いくら考えても答えは出なかった。

日も落ち始めて、辺りも薄暗く始め涼しい風が吹いている。

彼女の付けていた香水だろうか?

風が吹くたびに着ていたワイシャツから甘い香りがした。

 ―身勝手な犯人が犯した罪で、

  彼女は一生心に残る傷を負って生きて行かなきゃならないなんて…

 「クソッ!」

自分の事でもないのに、湧き上がる怒りだけが、虚しく空回りしていた。

 ―なぜこんなに、イラつきを感じる?

  なぜこんなに、憎悪が溢れ出る?

  なぜこんなに…

声にならない叫びが、彼の憎悪を更に増幅させていった。

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